ドルチェ(2)
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……。
[愛海]:「あり? おかしいな、すぐに効果が出るはずなんだけど」
[舞羽]:「愛海、やっぱり失敗じゃ――」
[愛海]:「う、ぐうう……」
[舞羽]:「ど、どうしたの!? 吹雪くん」
[愛海]:「お? これは、ひょっとして?」
[吹雪]:「…………」
[舞羽]:「ふ、吹雪くん?」
[吹雪]:「舞羽……」
[舞羽]:「ちょ、ちょっと愛海。吹雪くんの様子がおかしいんだけど」
[愛海]:「え? 気のせいじゃない?」
[舞羽]:「そ、それはないよ。だって目が虚ろじゃないの」
[愛海]:「そうかしら? ――もうちょっと観察してましょうよ」
[舞羽]:「え、え~?」
[吹雪]:「…………」
[舞羽]:「だ、大丈夫? 吹雪くん?」
[吹雪]:「食べたい……」
[舞羽]:「え?」
[吹雪]:「腹が減った。何か食べたい」
[舞羽]:「え? 今昼食食べたばっかりじゃ」
[吹雪]:「そうか、じゃあいいや、舞羽にしよう」
[舞羽]:「……え?」
[吹雪]:「お前を、今から俺が食う」
[舞羽]:「え、ええええええええ!?」
[翔]:「な、何だとーーーー!?」
[クラスメイト]:「何ーーーー!?」
[舞羽]:「ちょちょちょちょちょちょっと愛海、一体吹雪くんに何したのよ!?」
[愛海]:「いや、本当に疲れは取れるのよ? 疲労を浄化する作用をたっぷり含んだし。ただ、副作用として情欲が少し表に出るようになるのよね、これはちょっと失敗だったわー」
[舞羽]:「ど、どうやったらそんな風な副作用が生まれるの?」
[愛海]:「どうって言われてもなー、なっちゃったものはしょうがないよねー」
[舞羽]:「しょうがないじゃないよー! みんな大パニックだよ。吹雪くんが吹雪くんじゃなくなってるよ!」
[愛海]:「心配ないわよ、副作用は3分で治まるから。すぐに終わるわ」
[舞羽]:「そ、そんな気楽に……」
[吹雪]:「もう、限界だぜ、舞羽」
[舞羽]:「だ、ダメだよ吹雪くん、そんなの」
[吹雪]:「んがーー!」
[舞羽]:「き、きゃああああああ!?」
[翔]:「おー、すげー、吹雪が普段見せない一面をオレたちにみせている!」
[祐喜]:「何興奮してるの、早く吹雪を止めようよ、翔」
[翔]:「えー? マジかよ、もう少し見ていたい――」
[祐喜]:「いいから、来なって」
[翔]:「いやーん」
[祐喜]:「変な声出してないで、ほら」
[吹雪]:「ふっふっふ、追い詰めたぜ、舞羽」
[舞羽]:「も、元に戻ってよ、吹雪くん」
[吹雪]:「心配するな、ちゃんとする」
[舞羽]:「そ、そういう問題じゃないよー」
[吹雪]:「さあ行くぞー、無限のかなたに」
[祐喜]:「吹雪、やめなよ」
[翔]:「名残惜しいが、とおっ!」
[吹雪]:「む、何するんだ。祐喜、翔」
[祐喜]:「こんなこと吹雪らしくないよ、やめようよ」
[翔]:「オレはもう少し修羅場を見ていたいんだけどな」
[祐喜]:「何か言った?」
[翔]:「いえ、何にも。お前らしくないぜ、正気になるんだ」
[吹雪]:「離せー、俺は腹が減ってるんだ、舞羽を絶対に食うんだー!」
[祐喜]:「食べるの意味間違ってるって。そんな言葉を大きな声で言っちゃダメ」
[翔]:「そうだぞ、そ、そんな羨ましいこと、お前一人するなんて許されちゃいけないんだ」
[祐喜]:「だからそこじゃないでしょって、もっと真剣に止めて」
[吹雪]:「えーい邪魔だ、どけー! ウィングセイバー!」
[祐喜]:「うわっ!?」
[翔]:「ぎゃあああっ!? 何じゃこりゃーー!? ん? 何だコレは? 何か背筋が寒いんだけど、ヤベ寒い、くしゃみ出そう、風邪引きそうだ。あれ? 吹雪のウィングセイバーってこんなのだっけ?」
[祐喜]:「そんなの今いいから! とにかく何とかしないと。――マジックバリア!」
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……。
[祐喜]:「危なかった」
[翔]:「あー、深爪が痛いぜ」
[祐喜]:「いつしたの!?」
[翔]:「え? いや、風邪ひいたっぽいから爪を煎じて飲もうかと」
[祐喜]:「――それより何とかしないと」
[翔]:「おい、ツッコんでくれよー」
[祐喜]:「よし、今度こそ」
[吹雪]:「ふっふっふ、追い詰めたぞ? 舞羽」
[舞羽]:「うぅ、戻ってよ吹雪くん」
[吹雪]:「心配はいらない、ちゃんと手加減してやってやる。加減を間違ってもおっぱいが引き千切れるくらいだ」
[祐喜]:「十分心配だよ! それはー!」
[翔]:「お前、どれだけ全力で須藤とやろうとしてるのよ!」
[吹雪]:「うるせーな。黙ってろよヌキヌキ翔が」
[翔]:「おい、何だその呼び名は! それだとオレが毎日致してる見たいじゃねぇかよ!」
[祐喜]:「……最低だね、翔」
[翔]:「ちがっ! 祐喜違うぞ? 今のは吹雪のデタラメだから! そんな毎日は致してないから」
[祐喜]:「致していることは否定しないんだね」
[翔]:「え? だって、普通、でしょ?」
[女子生徒A]:「島貫くん、最低ね」
[翔]:「そ、そうじゃないんだって! 誤解だってば~!」
[女子生徒B]:「少しは大久保くんを見習いなさいよね」
[翔]:「えー? 何で? アイツ今卑猥なことやろうとしてる真っ最中でしょうよ!」
[女子生徒A] :「だって副作用でしょう? 普段は優しくていい人じゃない」
[女子生徒B]:「島貫くんとは違うのよ」
[翔]:「不公平だー! どうして吹雪ばっかり許されるんだよ~! うわああああん!」
[祐喜]:「ほら翔。泣いてないで、吹雪を止めてあげなくちゃ。このままだと舞羽ちゃんがとんでもないことに」
[翔]:「うう……吹雪め、須藤はお前だけのものじゃないんだからな?」
[祐喜]:「だから、そこじゃないでしょう。ほら、早く」
[吹雪]:「ふっふ、じゃあ頂かせてもらうぞ?」
[舞羽]:「うう、吹雪くん……」
[吹雪]:「食うぜ! うおおおおおおっ!」
[舞羽]:「いや……」
[祐喜]:「吹雪、ストーーーーップ!」
[吹雪]:「…………」
[舞羽]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[舞羽]:「…………」
[吹雪]:「…………?」
[舞羽]:「……吹雪、くん?」
[吹雪]:「舞羽? あれ? あれ?」
[舞羽]:「よかった、元に戻ったんだね」
[吹雪]:「俺、一体何を」
[舞羽]:「記憶がないの?」
[吹雪]:「あ、ああ。ひょっとして、俺、何かしたか?」
[舞羽]:「う、うん、少しだけ……初めてを奪われそうになっただけで」
[吹雪]:「ん? 何か言ったか?」
[舞羽]:「う、ううん、何でもないよ」
[吹雪]:「何か、ごめんな」
気付かぬうちに、俺は何か問題を起こしていたようだ。
[祐喜]:「あー、よかったー、吹雪が元に戻って」
[翔]:「やっぱりオレ、何か風邪っぽいんだけど、あ、熱もありそう。ゾクゾクしてきたー」
[祐喜]:「家に帰ったら?」
[翔]:「オレ、ホントに寒くなってきたよ……心も……」
[祐喜]:「そういうことばっかり言ってるから女子たちの反感を買うんだよ」
[愛海]:「うーん、やっぱこの副作用は失敗だったわね。まあ、大久保くんの新しい一面を見れたから良しとしよっか」
[舞羽]:「なーるーみー?」
[愛海]:「あれ? 私も風邪かしら? これは早く帰ったほうがよさそうね。――じゃ、じゃあそういうことでー!」
[舞羽]:「待ってー! この騒動起こしたの愛海じゃないのー! 責任とってよー!」
ドドドドドドドドド。
[吹雪]:「……俺、本当に何もしなかったのか?」
[祐喜]:「う、うん。何とかスレスレで止まったよ」
[翔]:「オレが風邪を引いただけさ。ヘックシ!」
[吹雪]:「ああ、そう」
[翔]:「オレの心、今南極大陸より寒いかもしれない……」
二人の後ろ姿を、俺はただただ見ていることしかできなかった。