カンタービレ(11)
・第四音楽室
[場所:第四音楽室]
よし、中に入ろう。俺は音楽室のドアをノックした。
[カホラ]:「はーい、どうぞ」
[吹雪]:「失礼します」
返事をして俺は入室した。
[カホラ]:「あら、こんにちは、吹雪」
ここは、先輩の練習場所だったんだな。
[吹雪]:「こんにちは、先輩」
[カホラ]:「ひょっとして、お付き合いしに来てくれたのかしら?」
[吹雪]:「そう、なるんですかね?」
[カホラ]:「ハーモニクサーとして、馳せ参じたんでしょう?」
[吹雪]:「はい、そうです」
[カホラ]:「なら、お付き合いね、練習のお付き合い」
[吹雪]:「そういうことになります、ね」
[カホラ]:「ふふ」
何でか分からないが、先輩は少し嬉しそうに笑っていた。
[カホラ]:「吹雪の練習は終わったの?」
[吹雪]:「はい、一応。終わったのでこっちにやってきました」
[カホラ]:「そう、じゃあ、時間はあるのね」
[吹雪]:「はい。先輩は、ずっとここで練習してたんですか?」
[カホラ]:「ええ、まだあまり弾いてはいないんだけどね。舞羽たちのようにピアノ経験者ってわけじゃないし」
[吹雪]:「やっぱり、難しそうですか?」
[カホラ]:「そうね、昨日聞いてそんな風な予感はしてたけど、見事に的中したわ。楽譜からも簡単にはいかせないよって臭いがプンプンするし」
そう言ってばっと楽譜をこちらに見せる。
[吹雪]:「確かに、すごいですね」
素人が見ても、びっしりと音符で埋め尽くされたそれは、難しいということが容易に理解できた。
[カホラ]:「でしょう? ピアノをほとんど体験したことがない人間にとっては試練の場ねぇ、これは」
[吹雪]:「鍵盤の位置とかは把握してるんですか?」
[カホラ]:「それはね、音楽の授業とかあったし。でも、簡単な曲しか弾いたことないからね。舞羽たちよりも遅れはとってるわね」
[吹雪]:「舞羽は経験者ですからね」
[カホラ]:「でしょう? こんなことなら少し練習しておけばよかった、なんて、選ばれるなんて思わないからそんなことしなかっただろうけど」
舌を出しておどけてみせる。
[カホラ]:「でも、これもいい機会ね。少しピアノにも興味はあったし、触れ合ってみるのも悪くはないかな」
[吹雪]:「舞羽は、ピアノは楽しいって言ってましたよ」
[カホラ]:「あら、ホントに?」
[吹雪]:「はい、結構前ですけど、あいつが習ってる時にそう言ってました。着実に成長してることが実感できるって」
[カホラ]:「そうね、ちゃんと流れるように弾けたら、きっと気持ちいいでしょうね。頑張らなくちゃ。吹雪」
[吹雪]:「はい」
[カホラ]:「練習しましょう。付き合ってもらえる?」
[吹雪]:「はい、俺は何をすればいいですか?」
[カホラ]:「一回、実際に弾いてみるから、ここはこうしたほうがいいとか、アドバイスをもらえない?」
[吹雪]:「え? でも、俺素人ですよ」
[カホラ]:「いいわよ、むしろ素人のほうがいい意見出るかもしれないじゃない」
[吹雪]:「なるほど」
逆転の発想だな。
[吹雪]:「分かりました、じゃあ印刷いってきます」
[カホラ]:「うん、先に少し弾いてるから」
[吹雪]:「了解です」
頑張ろう、そんな気持ちが新たに燃え上がってきたのだった。