表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソプラノ  作者: BAGO
カンタービレ
32/1013

カンタービレ(8)


・第一音楽室


 [場所:第一音楽室]

 

さて、誰がいるんだろう。誰がどの場所にいるかまでは把握してないからな。まあ誰がいても普通に接するだけだけど。

[吹雪]:「入るか」

俺はドアを開けた。

[吹雪]:「失礼します」

[舞羽]:「あ、吹雪くん」

お、ここは舞羽の練習場所だったのか。

[舞羽]:「どうしたの? あ、ひょっとして」

[吹雪]:「そう、ハーモニクサーのお仕事だ」

[舞羽]:「わー、私なんだ。何か少し緊張しちゃうな」

[吹雪]:「何でだよ? 緊張する要素なんてないじゃないか」

[舞羽]:「あるよー、だって、練習風景を観察されるんでしょう? 吹雪くんのポジションはピアノの先生と同じだよ」

[吹雪]:「そ、そうなのか?」

[舞羽]:「そうです」

[吹雪]:「お前が思うほど厳しくなんてしないよ。安心しろって」

[舞羽]:「本当に?」

[吹雪]:「当たり前だろ? 今まで俺、舞羽に厳しくしたことあるか?」

[舞羽]:「…………」

[吹雪]:「お、おい、どうして黙る?」

[舞羽]:「だって、吹雪くん時々怖いんだもん。見てて」

[吹雪]:「例えば?」

[舞羽]:「繭さんを怒る時とか、怒る時とか、怒る時とか」

[吹雪]:「マユ姉のあれはしつけだ。舞羽には絶対にしないって」

[舞羽]:「……本当に?」

[吹雪]:「本当だ、破ったらマーブルチョコ奢ってやる」

[舞羽]:「わあ、百円で4つ買えるよ」

[吹雪]:「ん? 何か言ったか?」

[舞羽]:「いえ、何でもありません」

[吹雪]:「うん、それでよし。にしても、先生はいないのか? ずっと一人で練習?」

[舞羽]:「ううん、さっきまではいたよ。でも、ここからは一人でって言って出てっちゃった」

多分、俺が来ることも予定の内に組み込まれてるんだろうな。

[舞羽]:「だから一人だったんだ」

[吹雪]:「なるほど」

[舞羽]:「よろしくお願いします、吹雪先生」

[吹雪]:「はい、よろしくお願いします。……何だ? このやりとり」

[舞羽]:「あははは」

[吹雪]:「ま、さっきやってたように練習してくれ。とりあえず横で見てるから」

[舞羽]:「うん、分かった」

舞羽はイスに座ってピアノに向かい合わせになる。

[吹雪]:「じゃあ、弾きます」

[舞羽]:「うん」

舞羽は一回深呼吸して、ゆっくりと鍵盤に指を走らせた。昨日聞いたものよりもスローテンポだ。だがそれは仕方がない、いきなりそんな早く弾けるわけなどないからな。それに素人でも分かる難解なメロディーだ、むしろゆっくりでもペースを乱すことなく弾けていることに尊敬の念を抱く。俺はしばらく聞き入っていた。

……………………。

…………。

……。

[舞羽]:「――ふう」

俺は拍手を送った。

[舞羽]:「あ、ありがとう」

[吹雪]:「今ので全部か?」

[舞羽]:「ううん、これで、半分くらいかな」

[吹雪]:「結構今のでも弾いたよな? でも半分か?」

[舞羽]:「うん、半分」

[吹雪]:「うーん、まだまだ先は長いか」

[舞羽]:「そうだね、でも、私はまだ恵まれてるほうだよ。一応経験してるからね」

[吹雪]:「今日は? 全部通すのか?」

[舞羽]:「そうだね、通せるのならそうしたいな。でも、思った以上に難しくて、まだ半分までしか弾けてないんだ」

[吹雪]:「そうなのか。ちょっと見てみたいな、その楽譜」

[舞羽]:「見たい? これがそうだよ」

[吹雪]:「お、サンキュー」

俺はそれを受け取って少し眺めてみた。

……………………。

…………。

……。

[舞羽]:「吹雪くん?」

[吹雪]:「舞羽、お前こんなの弾いてたのか?」

[舞羽]:「え? う、うん」

[吹雪]:「すごいな……」

楽譜に目を通すのは初めてじゃあない。小さい頃、よく舞羽の弾いてたピアノの楽譜を見たことがあったからな。だが、その頃見たものとは、明らかに格が違っていた。

[吹雪]:「何だよコレ。メチャクチャ難しいじゃないかよ。記号たっくさんあるし、五線紙の中音符ばっかりじゃん」

[舞羽]:「うん、そうだね」

[吹雪]:「……恐れ入ったよ、舞羽さん」

[舞羽]:「え? え?」

これならピアノも人を選ぶのが分かる。

[吹雪]:「舐めてた、俺、どれだけ年越しの行事が大事なのかを」

テキトーにやってたら、間違いなく島が崩壊しているな、きっと。

[吹雪]:「なるほど、だからハーモニクサーか」

[舞羽]:「え?」

[吹雪]:「ああ、俺学園長とさっきまでトレーニングしてたんだ。走り込みの」

[舞羽]:「そうなんだ」

[吹雪]:「「うん、死ぬかと思った」

[舞羽]:「何周くらい?」

[吹雪]:「うーんと、30周くらい走ったかな」

[舞羽]:「ろ、30周!? もうランナーじゃない」

[吹雪]:「ああ、ヘロヘロになった」

[舞羽]:「よく、走りきれたね」

[吹雪]:「後ろから学園長が追いかけてたからな、ほうきに乗って」

[舞羽]:「あ、それはやめられないね」

[吹雪]:「ああ、頑張ったと思うよ、我ながら」

[舞羽]:「お疲れさま」

[吹雪]:「うん。で、その後に学園長が言ってたんだ。ハーモニクサーはこれ以上ないくらい大事な役割を担っているって」

[舞羽]:「うんうん」

[吹雪]:「ハーモニクサーをこれ以上ないくらいに万全な状態に仕上げれば、成功への近道になるって言ってたんだ。その意見が正しいことに、今身を持って感じた。こんな難しい曲を弾かなきゃいけないから、ハーモニクサーが全力でカバーしなくちゃいけないんだって」

[舞羽]:「そうかもしれないね、私から見ても、この曲は難しいもの」

[吹雪]:「やっぱそうだよな? これを簡単だって言ったら、正直気持ちが悪い」

中にはいるのかもしれないけど……。

[吹雪]:「全力でやらないと、四季のピアノに怒られちまうぜ」

[舞羽]:「そうだね、お互いに頑張ろう? 吹雪くん」

[吹雪]:「ああ、そうだな」

[舞羽]:「じゃあ、早速弾かなくちゃ。新しいところにチャレンジだよ」

[吹雪]:「うん、やるか」

俺は舞羽の奏でるメロディーを熱心に聞いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ