聖奈美ルート・アダージオ(1)
12月16日(木曜日)
[場所:教室]
[吹雪]:「ふう……」
[翔]:「どうしたんだよ吹雪、さっきからふうふう言って」
[吹雪]:「見てて分かんないか? 疲れてるんだよ」
[翔]:「なるほど、疲れてるんだな!」
[吹雪]:「たった今俺が言った発言を当てたみたいにして言うんじゃねぇ」
[愛海]:「……本当に疲れてるみたいね、ツッコミにいつもの覇気がないわ」
[舞羽]:「今日の練習メニュー、結構キツかったの?」
[吹雪]:「いつもとあまり変わってないはずなんだけど、最初の走り込みがちょっと体に響いたというか……」
いつも通りの距離をこなしたんだが、今日のランニングペースはいつもよりも早かった。学園長のテンションも心なし高かった気がする。
[吹雪]:「調子が悪かっただけかもしれないけどな」
[舞羽]:「無理はしないでね?」
[吹雪]:「ああ、大丈夫だ」
昨日の失敗を取り返そうと張り切りすぎたせいもあるか。無理はするなって言われてるし、体に合わせた練習を心がけないと。
[吹雪]:「舞羽の弁当食べて、体力回復だ」
[舞羽]:「多分美味しいと思うけど、口に合ってる?」
[吹雪]:「逆に合わないことなんてあるのか? メチャクチャうまいよ」
[舞羽]:「よかった」
[吹雪]:「お前はもっと自分の味に自信を持ったほうがいい。これで料理上手くないなんて言ったら、世の料理ができない女子に冷たい視線を向けられるぞ?」
[舞羽]:「つ、冷たい視線?」
[吹雪]:「すでに一名、向けてる奴が横に……」
[舞羽]:「え? あ……」
[愛海]:「…………」
[舞羽]:「な、愛海?」
[愛海]:「そうよ、舞羽。大久保くんの言うとおり、あんまりそういうこと言ってると、こういう目で見られちゃうのよ?」
[舞羽]:「あ、う、その……き、気を付けます」
[愛海]:「その卵焼き半分くれたら許してあげるわよ?」
[舞羽]:「あ、ど、どうぞ」
[愛海]:「うひひ、お目当ての品ゲット」
日野は最初からそれが狙いだったのかもしれない……恐ろしい女だ。
[翔]:「オレも食いたいぜ、須藤の手料理」
[吹雪]:「やらんぞ?」
[翔]:「冷たいな、吹雪ちゃんは……」
[吹雪]:「お前も立派な弁当持ってるじゃないか? それだって手料理だろう」
翔のお母さんが作ったと思われる弁当は、翔にあったとてもボリュームのある品にできあがってる。
[翔]:「確かに美味いことは美味いんだけど、何て言うか……何かが足りないんだよ。……あれだ、フェロモン?」
[吹雪]:「弁当から出るフェロモンって何だよ?」
[翔]:「分かるだろ? オレが言いたいこと、同い年くらいのうら若き乙女が自分のためにせっせと弁当を作ってくれる……そう、愛情だ、愛情!」
[吹雪]:「どんな間違いしてるんだよ、お前」
フェロモンと愛情は全く違う気がするぞ。