カンタービレ(6)
12月4日(土曜日)
[場所:吹雪の家]
[舞羽]:「――くん、朝だよ」
[吹雪]:「んん?」
[舞羽]:「吹雪くん、起きて」
[吹雪]:「ん、あれ? 舞羽? 来てたのか?」
[舞羽]:「うん、おはよう、吹雪くん」
[吹雪]:「おはよう」
目覚ましを見ると、まだ起床時間は来ていなかった。
[吹雪]:「まだ朝早いけど、どうかしたのか?」
[舞羽]:「あれ? ホントに?」
[吹雪]:「ああ」
時計を舞羽に見せてやる。
[舞羽]:「うわー、やっちゃったよー。ごめん、吹雪くん」
[吹雪]:「はは、まあ気にするな。今日は学園に行かなきゃいけないしな」
たまには早起きもいいだろう。カーテンを開けると、たっぷりの日差しが部屋に注がれてきた。
[吹雪]:「うん、いい天気だ」
天気がいいと、心も晴れてくる気がするな。
[舞羽]:「私、朝ご飯の用意するね」
[吹雪]:「ホントか?」
[舞羽]:「うん。あ、何か食べたい物ある?」
[吹雪]:「何だよ、作ってくれるのか?」
[舞羽]:「うん、早く起こしちゃったお詫び」
[吹雪]:「じゃあ、そうだな……野菜スープが飲みたいかもしれない」
[舞羽]:「野菜スープだね、任せて、美味しいの作るから」
拳をぎゅっと握ってやる気十分のようだ。
[舞羽]:「じゃあ、少し待っててね。作ってく――きゃあ!?」
ドテン。舞羽は躓いて前のめりにこけた。
[吹雪]:「お、おい、大丈夫か?」
[舞羽]:「いたた、うん、大丈夫」
一体何に躓いて、ああ、イスの足に引っかけたのか。というか――。
[吹雪]:「あー、舞羽よ」
[舞羽]:「え?」
[吹雪]:「その、さっきから、パンツ見えてるぞ」
[舞羽]:「え? ――ひゃあ!?」
舞羽は慌てて立ち上がろうとする。だが、それがいけなかったようで、
[舞羽]:「ひぎゃあっ!?」
今度は足マットで足を滑らせ、また前のめりにずっこけた。もちろん、スカートは全部めくれあがっている。本当は見ないほうがいいんだだろうが、そこは悲しき男の性、そこから目が離せない。
[吹雪]:「(あの色は、ライトブルーだな)」
っと、そんなことを考えてる場合じゃない。助け起こしてやらなければ。俺はモガいてる舞羽に手を差し出した。
[吹雪]:「ほら、大丈夫か?」
[舞羽]:「あ、吹雪くん。…………」
舞羽は赤くなりながら俺の手を取った。
[舞羽]:「うう、はずかしー」
[吹雪]:「まあ、あんまり気にするなよ」
[舞羽]:「だって、見た、でしょ?」
[吹雪]:「あ、ああ」
[舞羽]:「どれくらい?」
[吹雪]:「そりゃもう、バッチリと」
[舞羽]:「やっぱりー!」
舞羽は顔を覆ってしまった。
[吹雪]:「ほ、本当に気にするなって。俺は別に気にしてないから」
むしろ眼福だ。
[吹雪]:「大丈夫だって、な? な?」
[舞羽]:「うう、でも吹雪くん、何か嬉しそうだよ」
[吹雪]:「そ、そんなことは、ないはず」
[舞羽]:「……エッチ」
[吹雪]:「ゆ、許してくれ。あんなの目の前にあったら、誰だって見るって」
[舞羽]:「それは、そうかもしれないけど」
[吹雪]:「それに、俺たちは幼なじみだろ? 風呂だって一緒に入ったことあるし、そこまで大げさなことじゃ」
[舞羽]:「む、昔と今は全然違うよ~」
[吹雪]:「分かった、謝る。謝るから許してくれ」
俺は両手を合わせて頭を下げた。
[吹雪]:「もうあまり見ないようにするから」
[舞羽]:「ホントに?」
[吹雪]:「ホント」
[舞羽]:「ん、私にも否はあるもんね。うん、分かった。お互いに忘れよう」
[吹雪]:「おう、そうしよう」
[舞羽]:「お、思い出しちゃダメだからね?」
[吹雪]:「あ、ああ、善処するよ」
そう言われると、思い出しそうになるな。
[舞羽]:「あー、ダメだってば~」
騒がしい朝となってしまった。