カホラルート・フォルツァンド(8)
[場所:屋上]
[カホラ]:「やったね!」
[吹雪]:「お疲れ」
そして俺たちは、ハイタッチを交わした。
[カホラ]:「これで無事、今年も問題なく一年を過ごせるわね」
[吹雪]:「うん、しかもそれをもたらしたのは俺たちって考えると、喜びも一塩だね」
[カホラ]:「本当に、最高のスタートを切ることができたわ」
[吹雪]:「…………」
[カホラ]:「どうしたの? 急に悲しそうな顔して」
[吹雪]:「うん……まだ先のことだって分かってるんだけど、こうしてカホラと学校生活を送れるのも今年だけなんだなって考えちゃって」
[カホラ]:「ああ、そういえばそうね」
俺はカホラの一学年下、来期は俺たちが最上級生になり、カホラは学園を卒業する。
[吹雪]:「考えただけで、すごく寂しくなっちゃって」
[カホラ]:「大丈夫よ、そんな心配しなくたって頻繁に会えるから」
[吹雪]:「……そういえば、カホラの次の進路ってどこなんだい?」
よくよく考えてみたら、進路が決定してること以外聞いたことがなかった。
[カホラ]:「言ってなかったかしら?」
[吹雪]:「うん、聞いた覚えはないよ」
[カホラ]:「私、この島の大学に入学するのよ。ハルモニア大学にね」
[吹雪]:「あ、そうだったんだ」
[カホラ]:「名前くらいは聞いたことあるでしょう?」
[吹雪]:「うん、もちろん」
この島で一番の偏差値を誇る大学で、外の世界に巣立つ人以外に進学を考える生徒の多くは、ハルモニア大学を受験する。
[カホラ]:「そこでたくさんの知識を学んで、この学校の先生になりたいと思ってるの」
[吹雪]:「先生か……図書室のかい?」
[カホラ]:「さすが、分かってるわね、吹雪は」
[吹雪]:「カホラは本が好きだからね、何となくそんな気がしたんだ」
[カホラ]:「じゃあ、どうして図書室の先生になりたいかも分かるかしら?」
[吹雪]:「……図書室の先生になれば、研究をするのにとても役立つから、かな?」
[カホラ]:「大正解! さすが私の恋人ね」
柔らかな笑みを浮かべながら。
[カホラ]:「今回の調査を通して、やっぱり私は研究をすることが好きなんだって実感したんだ。かと言って教師になるっていう夢もあきらめられないから、どうせなら欲張ってみようかなって思って」
[吹雪]:「カホラならできると思うよ、俺は」
[カホラ]:「本当?」
[吹雪]:「一緒にさせてもらった探索の毎日が、決定的な証拠さ」
[カホラ]:「ふふ、夢が叶ったら、是非吹雪に助手をお願いするわね」
[吹雪]:「もちろん、楽しみに待ってるよ」
その夢が現実になる日が、今から待ち遠しい。
[カホラ]:「……もう何回目か分からないけど、もう一度言わせてね。一緒に調査を手伝ってくれてありがとう、吹雪」
[吹雪]:「俺のほうこそ、調査に付きあわせてくれて、本当に感謝してる」
カホラが誘ってくれて、俺はたくさんの新しいものを発見することができた。その一つひとつが、俺の中に色濃く残り、これからの人生に活かせる糧になる。
[カホラ]:「それともう一つ――私のこと、好きになってくれてありがとう」
[吹雪]:「……その言葉、俺も言いたいな」
[カホラ]:「うふふ、お返ししてくれるの?」
[吹雪]:「もちろん。――俺のこと、好きになってくれてありがとう、カホラ」
[カホラ]:「どういたしまして、でいいのかしら?」
[吹雪]:「うん、それでいいよ」
[カホラ]:「本当に、今まで生きてきて一番楽しい一年だったわ。吹雪との日々は、私の一生の宝物よ」
[吹雪]:「それは、俺も同じだよ。カホラと気持ちがつながって、毎日楽しくて仕方がなかった。一生忘れないよ、この想い出は……でも」
[カホラ]:「ん? 何?」
[吹雪]:「今カホラ、去年が人生で一番楽しかったって言ったよね?」
[カホラ]:「うん、言ったけど」
[吹雪]:「俺、今年の目標が一個できた」
[カホラ]:「目標? どんな?」
[吹雪]:「去年よりも、カホラと楽しい一年を送ること」
[カホラ]:「……じゃあ、私も一個、今年の目標を立てようかな」
[吹雪]:「ん? どんな?」
[カホラ]:「吹雪と一緒に、去年よりも楽しい一年を送ること。ふふ♪」
[吹雪]:「――目標がかぶっちゃったな」
[カホラ]:「でも、お互いに目標が一緒だから、それに向かって一緒に進めるでしょう」
[吹雪]:「あはは、そうだね。じゃあ、今年も一緒に楽しんでいこうよ」
[カホラ]:「うん、いつでも一緒よ? 吹雪」
[吹雪]:「もちろんさ」
[カホラ]:「うふふ♪」
俺の大好きな人が、横で楽しそうに微笑んだ。