カホラルート・フォルツァンド(6)
[場所:聖壇]
聖壇に来たのはあの日以来だ。前回は練習の一環だったが、今回は本番、自分の力を信じて最後までやり遂げる必要がある。――不安はほとんどない、今までやってきた事実がしっかりと胸に刻まれている。自分を信じてやれば、成果は必ず着いてくるはずだ。
[セフィル]:「良い目をしてるな、吹雪」
[吹雪]:「きっと俺だけじゃないと思いますよ」
きっとピアニストの4人も、同じ目をしているだろう。
[セフィル]:「手伝ってやれないのは少々心苦しいが、しっかりと見届けてやるからな。安心してくれ」
[吹雪]:「はい」
[セフィル]:「じゃあ――頑張るんだぞ、吹雪」
学園長はそう言い残し、俺の前から消えた。儀式まで残り後わずか、俺は精神統一をしてその時を待つ。
モニターには、苦楽を共にした4人の仲間が映し出されている。俺の頭に、今までの生活の思い出が甦り、駆け抜けていく。心を通わせた俺たちなら、きっとうまくいく。俺たちは今、全員同じことを思っているはずだ。
[吹雪]:「(行くぞ、みんな)」
……………………。
…………。
……。
――儀式が始まった。
舞羽から始まり、次いで杠、マユ姉、カホラと追いかけるような形でメロディーが奏でられていく。しばらくして始まりが杠からに変わり、それに次いでマユ姉、カホラ、舞羽と続く。その後はマユ姉、カホラとパートの始まりが入れ替わり……続いてそれぞれのメインパートへ向かう。
それぞれの曲調が十分に引き出され、前回よりも深みの増したメロディーが俺の耳に届いてくる。
舞羽、杠、マユ姉、カホラ……順々にメインパートが移り、次第に曲調は激しいものに変わっていく。
ここから、前回の練習で手こずったと思われるポイントが続いていく。
変拍子が続くメロディーを正確に弾くことがキーとなるが、きっと今のみんななら、問題なく進めるはずだ。
[吹雪]:「(頑張れ、みんな)」
俺は来るべきその時まで、みんなにエールを送る。
……………………。
変拍子のパートは、無事問題なくクリアすることができた。ここから、それぞれのソロパートに移っていく。それと同時に、俺は魔法詠唱の準備にかかる。
[吹雪]:「……………………」
供給する人物を、しっかり脳内でイメージする。――よし。
[吹雪]:「――エル・エルフィリード・グラディアス。光の精よ、我の力となり、一筋の煌めきを与えん。――ホーリーカルム!」
俺は魔法を解き放った。そして、供給する人物、杠に向けて魔力を分け与える。
……はっきりとは分からないが、杠の体はぼんやり光を帯びているようだ。これは問題なく魔力が送られている証拠、俺は気を緩めずに供給に徹していく。
……………………。
舞羽のソロパートが無事に終わり、杠にメインパートが移り変わる。それと同時に、魔法を杠からマユ姉にシフトする。
先程と同じように集中し、脳内にマユ姉をイメージする。
[吹雪]:「――エル・エルフィリード・グラディアス。光の精よ、我の力となり、一筋の煌めきを与えん。――ホーリーカルム!」
…………。
発光を確認し、俺は同じように魔力を分け与える。
杠の鍵盤を走らせる指の動きは滑らかで、とても安定感がある。マユ姉はその間に気持ちを高めているようで、目をつぶって深呼吸をしていた。
……………………。
そしてパートはマユ姉に移り、次はカホラに供給する。
[吹雪]:「――エル・エルフィリード・グラディアス。光の精よ、我の力となり、一筋の煌めきを与えん。――ホーリーカルム!」
……問題なく成功。それと同時にマユ姉のパートが始まる。
練習の際、ちょっと他の人よりも間違いが多かったが、今ではしっかりとメロディーを刻むことができている。秋を感じさせる穏やかなメロディーラインが、俺の心にしっかりと響いてきた。
……………………。
ソロパートもいよいよ最後、俺の魔力の供給も最後となる。以前ほどではないが、体に疲労が蓄積し始めている。だが、それはみんなも同じ、俺だけがここで離脱するわけにはいかない。俺はもう一度気を引き締め、舞羽に向けて供給を開始する。
[吹雪]:「――エル・エルフィリード・グラディアス。光の精よ、我の力となり、一筋の煌めきを与えん。――ホーリーカルム!」
――無事成功、後はカホラが無事ソロパートを弾き終えるまで、舞羽に魔力を供給していく。以前の時と同じ、主に曲の始まりを担う舞羽には、三人よりも少し多めに魔力を供給させる必要がある。俺は意識して、舞羽に分ける魔力を増やすよう心掛けた。
……………………。
そして、程よい余韻を残した後、再び舞羽が鍵盤を弾き始める、それに続いて杠、マユ姉、カホラとメロディーを奏でていく。俺はそれを確認し、詠唱を停止した。
どうやら無事に役目を果たすことができたようだ。後は四人が無事に弾き終わることを待つのみだ。
[吹雪]:「(もう少しだ、頑張れ、みんな)」
俺は心の中でもう一度エールを送った。
――徐々に、曲のテンポは遅くなり、音量も低くなっていく。
…………そして。
[吹雪]:「…………」
演奏が終わった。
それとほぼ同時に、新しい年の始まりを告げる鐘の音が島に響き渡る。それと、ほぼ同時だった――。
[吹雪]:「あ、ピアノが」
四季のピアノは白い光を放ち始める。そしてその光は月に向かって一直線に伸びていく。
そして――島全体が優しい光で包まれた。
[吹雪]:「成功、したんだな」
モニターに映るみんなの顔も、成功したという事実に笑顔が満ちていた。
……………………。
…………。
……。