カホラルート・フォルツァンド(4)
[舞羽]:「嬉しい、すごく」
[祐喜]:「喜んでもらえたら何よりだよ。僕たちは、成功すること信じてるから……みんな、頑張ってね」
[吹雪]:「おう!」
[舞羽]:「うん!」
[聖奈美]:「任せときなさい」
[カホラ]:「ええ」
[繭子]:「頑張るよ~」
[吹雪]:「――ところで祐喜。あれは、あのままでいいのか?」
[祐喜]:「え? ああ、これね」
これと言われて指差されたのは、祐喜の横に立っている翔のことだ。
[祐喜]:「さっきからずっといいなーってばっかり言ってて、いざ部屋に入ったら……どっかに魂飛んでっちゃったみたいだね」
[愛海]:「確かに、この空間には美女がたくさんいるもんね。不自然なくらい」
日野はそう言ってピアニスト4人を眺める。
[愛海]:「天は二物を与えずって言うけど、あれは嘘みたいね。美女で才能持ってる人ばかりがここにいるんだから」
[舞羽]:「べ、別にそんなことは……」
[愛海]:「はいストーップ! 舞羽、それ以上言うと、他の女子にいつか刺されちゃうわよ?」
[舞羽]:「さ、刺される!?」
[愛海]:「自覚は持てないとしても、口に出すのはやめとくのが吉よ? それが自己防衛になるから」
[吹雪]:「……女子の世界って、やっぱりドロドロしてるものなのか?」
[聖奈美]:「あ、あたしに聞くのやめなさいよ……」
[吹雪]:「……確かにそうか」
[聖奈美]:「今の間は一体何よ……」
[吹雪]:「ううん、気にしないでくれ」
[愛海]:「――だから、翔っちが飛んじゃうのは分からなくはないわね。見てるだけで幸せな空間だと思うし」
[祐喜]:「でも、一応言うこと考えてたみたいだし、そろそろ正気に戻さないと」
祐喜は右手の指を三本立て――。
[祐喜]:「ふっ!」
[翔]:「おおおっ!?」
背中の孔にビシっと突き立てた。
[翔]:「え? あ、オレ……えっと」
どうやら正気に戻ったらしい、目の色がいつもの翔になっていた。
[祐喜]:「言いたいことあるんでしょう? もう僕たち言ったから、後は翔だけだよ」
[翔]:「あ、ああ。そうなのか、えー、みなさん、オレは手助けも何もすることができませんが、成功することを心から祈ってますので、頑張ってください……決まった」
大きい独り言を零すあたり、こいつらしい。だが、女性陣は何だかんだ言って優しいから――。
[舞羽]:「ありがとう翔くん」
[繭子]:「その言葉で頑張れるよ、ワタシたち」
[聖奈美]:「儀式の時、ちゃんと起きてなさいよ」
[カホラ]:「しっかりやってくるわ」
[翔]:「うう……今年一番の幸せかもしれない」
どんだけ今年良いことなかったんだよ……。
[翔]:「そして吹雪よ」
[吹雪]:「ん?」
[翔]:「……今度こういうシチュエーションがあったら、オレを呼んでくれよ?」
これが、さっきの理由なんだろうと、俺は確信した。
[祐喜]:「じゃあ、僕たちはそろそろ行くよ。長居したら悪いだろうし」
[愛海]:「また学校で会いましょう」
[翔]:「みんな、オレのこと忘れないでくれよ」
[吹雪]:「おう、サンキューな」
三者三様の言葉を残し、三人は社会科室を出て行った。
[舞羽]:「予想外に、良いものもらっちゃったね」
[吹雪]:「早速食べるか?」
[舞羽]:「うん、せっかくだしね。私、お茶煎れてくるよ」
[聖奈美]:「須藤さん、あたしも行くわ」
――三人が来てくれたおかげで、俺たちから緊張が解けたようだった。やはり持つべきものは友達だな。
[カホラ]:「? ふふ」
偶然目が合ったカホラが、俺にいつもの笑みを浮かべてくれた。
――そして、来るべき時間がやってくる。