カホラルート・フォルツァンド(3)
[場所:社会科室]
練習を終え、社会科室に戻ってきた俺たちは、今日の儀式の最終ミーティングを行う。詳しい日程に関しては、昨日のうちに大半を聞いている。場所が場所なだけに、島民から注目を浴びるということはないのだが、島に設置されたスピーカーを通してピアニストの活躍を確認する。そう、この儀式の参加者は、島民全員ということだ。俺も昔、父さん母さんと一緒に住んでいた頃は、家の外の広場に出てピアノの音色を聴いていた記憶がある。それを今回は、俺がサポートする。緊張するけれど、ちょっと誇らしい気分だ。……帰ってきた時にでも伝えてやりたいな。
[セフィル]:「大体のことは把握したな?」
[全員]:「はい」
儀式の始まりは年が変わる15分前。ピアニストとハーモニクサーが選出されるのと似ていて、曲が終わると同時に四季のピアノが月と共鳴し、優しい光で包まれた時、来年の四季は約束される。
[セフィル]:「練習風景を見せてもらった限り、君たちに落ち度は見当たらなかった。本番もあの感じで弾ければ、間違いなく成功するはずだ。だから、あまり緊張はしないで、リラックスして臨むんだ。いいか?」
[全員]:「はい」
[セフィル]:「じゃあ、私は用があるから一度退散させてもらうぞ」
学園長は社会科室から出て行った。この後はしばしの休憩を挟み、本番前にもう一度だけ練習を入れる。この休憩で緊張を解せということかもしれない。
[舞羽]:「お茶でも煎れようか、私家庭科室行ってくるよ」
[聖奈美]:「あ、あたしも行くわ」
そう言って二人が立ち上がった時だった。
コンコン。
ドアがノックされ、ガラガラと扉が開かれた。そこから出てきたのは――。
[祐喜]:「失礼します。あ、やっぱりここにいたんだ」
[愛海]:「あ、みんなそろってるわね」
[翔]:「な、何と言う羨ましい光景……」
すっかり見知った三人組だった。
[吹雪]:「お前ら、どうしてここに?」
[愛海]:「そんなの一つしかないでしょう? 友人が大切な儀式の中心として頑張るのに、激励もしないなんて考えられないでしょう?」
[祐喜]:「三人でお金持ち寄って、みんなに差し入れ買ってきたんだ。僕たちにできることと言ったらこれくらいしかないから」
[翔]:「羨ましい光景だ……」
約一名変なことをずっと呟いているが、今はまだ触れないでおこう。
[舞羽]:「わざわざ買ってきてくれたの?」
[祐喜]:「うん、たいしたものは買ってこれなかったけど。はい、どうぞ」
祐喜は舞羽に持っていたものを手渡した。
[祐喜]:「中身はケーキだから、一応美味しそうなものを見つくろってきたつもりだけど……」
[カホラ]:「そこまでしてくれただけで十分嬉しいわ、ありがとう、三人とも」
[繭子]:「わーい、ケーキだケーキだ~」
予想通り、マユ姉は子供のようにきゃっきゃとはしゃぎ出す。
[聖奈美]:「ここまでしてもらって、失敗はできないわね」
その横で杠は静かな闘志を漲らせている。