カホラルート・ソンス(16)
[カホラ]:「目標って、やっぱり掲げてみるものね。こんな数日じゃあって私自身も思ってたんだけど、頑張ったら現実になったんだから」
[吹雪]:「カホラの下積みを、神様が見ていてくれたのかもしれないよ。神様というか、ピアリーかもしれないけど」
[カホラ]:「それを言ったら、吹雪だって見られてたはずよ。私のために、一生懸命になってくれたんだから」
[吹雪]:「好きな人のためなら、全力を尽くしたいからね」
[カホラ]:「またそんな恥ずかしいこと……ここ数日でここまで変わるものなのね、人間って」
[吹雪]:「俺もちょっと思ってる、少し前なら絶対に言えなかった」
[カホラ]:「調査の間に、そういうところも成長したのね、吹雪は」
[吹雪]:「そうかもね。というか、今まで自分の気持ちを抑えてただけで、素直になっただけかもしれないし」
[カホラ]:「……素直な吹雪は、恥ずかしいことを平気で言えるようになるってこと?」
[吹雪]:「今の感じだと、そうかもしれない。……そんな俺は、嫌かな?」
[カホラ]:「全然、恥ずかしいけど気持ちを口に出してくれるっていうのはすごく嬉しいことだから。今もそう言ってくれて、すごく幸せよ」
そういうとカホラは体を俺に寄せてきた。
[カホラ]:「ちょっと暖かさ、分けて」
[吹雪]:「余熱があるんじゃなかったっけ?」
[カホラ]:「あるけど、暖かくなりたくなったの」
すり寄ってくる姿は猫のように愛らしい。
[カホラ]:「いよいよ明日ね、本番」
[吹雪]:「そうだね」
[カホラ]:「吹雪は、緊張してる?」
[吹雪]:「してないと言えば嘘だけど、きっと成功できると思う。というか、成功しなくちゃいけないんだけど」
[カホラ]:「そうよね、私たちにこの島の四季が巡るかが左右されるから」
[吹雪]:「今回の調査のおかげで、四季のピアノに対する想いっていうのを改められたからね。今までは当たり前のように一年を過ごしていたけど、その当たり前は四つのピアノが与えてくれてたわけで、それがどれだけ恵まれてるかってことを実感できた。だから、感謝の心っていうのが俺の中に芽生えたんだ。それを伝えるためにも、精いっぱい頑張ろうって気分」
[カホラ]:「すごく立派な考えね」
[吹雪]:「カホラも同じだろう? 気持ち的には」
[カホラ]:「ええ、吹雪と似てるけど、当たり前にある幸せなんてないのよね。だから私も、願いを乗せて明日は音を奏でようって思うわ」
[吹雪]:「成功させよう、みんなの力を合わせて」
[カホラ]:「ええ」
今回の泊まり込みは、一人の人間としても成長できた実感を得た気がするな。今後の生活に活かしていきたいところだ。
[カホラ]:「でも、明日で終わっちゃうっていうのは、ちょっと寂しいわね」
言葉通り、寂しそうな顔をしてカホラは呟いた。
[カホラ]:「明日が終われば、みんなそれぞれの家に帰るのよね」
[吹雪]:「大変だったけど、共同生活は楽しかったからね。俺も、ちょっと寂しいな」
[カホラ]:「このまま毎日みんなで過ごせないかしら?」
[吹雪]:「すごい魅力的だけど、学校側が許してくれないと思うよ」
授業で使う教室が生活スペースとして取られてしまうのはとても不便なはずだ。
[カホラ]:「やっぱりそうよね」
[吹雪]:「日にちを決めて、みんなで集まる機会を作ろうよ。きっと来てくれるはずだ」
[カホラ]:「うん、そうね」
[吹雪]:「遠慮なく言ってよ? 俺は呼ばれればいつだって飛んでいくから。というか、自分からいっちゃうと思うけど」
[カホラ]:「ふふ、それは嬉しいわね。でも、それは私も同じかも、すでに飛んでいきたいって気持ちがあるもの」
[吹雪]:「あ、じゃあここに来てくれたのも」
[カホラ]:「そう、自分の気持ちに正直になった証拠よ」
俺の腕にぎゅっと体を押し付けてくる。