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ソプラノ  作者: BAGO
カンタービレ
26/1013

カンタービレ(2)

……………………。

[セフィル]:「おっと、本題を忘れるところだった。そろそろ話を戻そうか」

[カホラ]:「お母さん、戻すのが遅いよ」

[セフィル]:「いやいや、つい話がおもしろくなってしまってな」

[カホラ]:「もう、お話なら本題が終わってからでも問題ないでしょう?」

[セフィル]:「うむ、気をつけるとしよう」

こほんと咳払いを一つ挟んだ。

[セフィル]:「えっと、どこまで話したかな?」

[繭子]:「ふーちゃんの名前が難しいってことじゃないですか?」

[吹雪]:「それはもう終わってるんだよ、バカたれ!」

[繭子]:「うひゃううっ!?」

[吹雪]:「吹雪くん、すごい突っ込み……」

[繭子]:「うう、イターイ、身長がさらに縮んじゃうよ……」

[吹雪]:「安心しろ、そこまで低かったら縮んでも分かんない」

[繭子]:「せめて手加減してよー。ふーちゃんが思ってる以上に強力なんだからね」

[吹雪]:「じゃあ、もっと教師らしい振る舞いをするんだな。それができたら手加減手加減してやる」

[繭子]:「う、うにゅう~」

[セフィル]:「大久保弟、いや、もう吹雪でいいか。吹雪は繭子よりも強いのだな」

[カホラ]:「まあ、吹雪はしっかり者だからね」

[吹雪]:「すいませんでした。学園長、話の続きをどうぞ」

[セフィル]:「ああ。えっと、そうだ。四つのピアノを吹雪以外の四人に弾いてもらうというところまで話したんだっけな」

[聖奈美]:「ええ、そうです」

[セフィル]:「そのピアノをどうやって選ぶかだが、自己申告ではもちろんない」

[聖奈美]:「そうでしょうね」

[セフィル]:「というわけで、四人にはこれを渡しておこう」

学園長はみんなに石のようなものを手渡した。

[繭子]:「うわ~、きれい~」

[聖奈美]:「学園長、これは?」

[セフィル]:「宝玉だ。口で説明するのは難しいのだが、ピアノに選ばれた者は、その宝玉が違う形に変化するんだ」

[舞羽]:「変化ですか?」

[セフィル]:「うむ。それは後で自ずと分かるだろう。次に、何を弾くかだが、四人はピアノの経験はあるか?」

[繭子]:「趣味でくらいしかないです~」

[カホラ]:「音楽の授業で少ししか……」

[聖奈美]:「ええ、まあ」

[舞羽]:「あ、私は昔習い事でやってました」

[セフィル]:「なるほど、鍵盤の位置は掴んでいるか?」

[繭子]:「何となくは~」

[聖奈美]:「はい、大丈夫です」

[セフィル]:「それならよかった。何分儀式だからな、少々曲調が難解なものなんだ」

[聖奈美]:「確かに、去年聞きましたけど、すごく複雑なメロディーでしたもんね」

[舞羽]:「でも、すごく綺麗だったな」

[セフィル]:「そう思うか? 舞羽」

舞羽も名前呼びに変わっていた。

[舞羽]:「はい、あのメロディーは一つのピアノじゃ奏でられないものです。四つのピアノだからできるメロディー構成でした」

[セフィル]:「うむ、舞羽はよく分かっているな」

[舞羽]:「ありがとうございます」

[セフィル]:「折角だ、去年の生徒が奏でたそれがここにある。一度聞いてみるとしよう」

学園長が音源を機械にセットする。しばらくして、メロディーが流れてきた。

……………………。

何とも言えないような綺麗な音だ。複雑なテンポなんだけども、決してイヤなテンポではない。どこか心が落ち着く柔らかなメロディー。

[繭子]:「すごい、何だか体にすーっと染み込んでくるよ~」

[カホラ]:「ホント、すごくステキ」

[聖奈美]:「でも、かなり難しそうな感じね」

[セフィル]:「そうだな、でも、決してできないものではないはずだ。君たちなら可能だろう」

[舞羽]:「これを私たちが弾くのか」

[吹雪]:「頑張れってしか言えないな、俺には」

[舞羽]:「ふふ、その言葉で十分だよ、吹雪くん」

しばらく、俺たちはピアノの音色に聞き入っていた。

……………………。

[セフィル]:「という感じだ。どうだったかな?」

[舞羽]:「すごかったです。何ていうか、さすが四季のピアノって感じです」

[繭子]:「そうだね~、何だか穏やかになった気がするよ~」

[セフィル]:「良さを分かってくれたか?」

[舞羽]:「はい、とっても」

[セフィル]:「弾く曲は難解だが、音色の良さは本当に素晴らしいんだ」

[舞羽]:「そうですね、他のピアノとは、何か少し違いますよね。何とは言い表せないんですけど」

[セフィル]:「うむ、やはり舞羽は分かっているな。さすがは経験者だ」

[舞羽]:「いえ、そんなことはありませんよ」

舞羽は恥ずかしそうに笑った。

[セフィル]:「今聞いてもらった曲を、四人には弾いてもらう。それに伴って練習スケジュールを決めなくてはいけないな。一応こちら側で仮のスケジュールは立てている。教師たちには君たちを全力でサポートするように伝えてある。だから、なるべくそれに従って君たちには動いてほしい」

[四人]:「はい」

[セフィル]:「一応印刷してある。持っていてくれ」

学園長が用紙を配っていく。

[聖奈美]:「基本は午前中、か……」

[セフィル]:「日にちが近くなった時は授業を免除することもあると思う。出席できなかったからと言って評価を下げたりはしないから安心していい。無事にピアノを弾くことだけを考えてくれて構わない」

[繭子]:「うわー、何だかピアニストに選ばれた実感が沸いてきたよ~」

[吹雪]:「なかったのかよ、今まで……」

[セフィル]:「まあ一握りの中の一人に選ばれたわけだからな。無理もないだろう」

[吹雪]:「全力でやれよ? マユ姉」

[繭子]:「もっちろん! ワタシが本気を出せば、さっさっさーと弾いてみせるよー」

例えはよく分かんないけど、それなりにやる気はあるみたいだな。

[セフィル]:「うん、じゃあ次に吹雪の担当するハーモニクサーについて説明しよう」

[吹雪]:「あ、はい」

[セフィル]:「吹雪よ、ハーモニクサーの役割は知っているか?」

[吹雪]:「何となくは。ピアニストのサポートが仕事ですよね?」

[セフィル]:「まあ、端的に言えばそういうことだ。ピアノを弾いている最中に、集中力が途切れて曲調が変化してしまうと、平穏な四季を遅れなくなってしまうかもしれない。それをアシストするのが、ハーモニクサー、吹雪の仕事だ」

[吹雪]:「なるほど」

[セフィル]:「ピアニストはピアニストで練習に励んでもらうわけだが、ハーモニクサーにはハーモニクサーの練習に励んでもらう予定だ」

[吹雪]:「俺は、何をすればいいんでしょうか?」

[セフィル]:「うむ、吹雪には、一つの魔法を拾得してもらいたい」

[吹雪]:「魔法ですか?」

[セフィル]:「そうだ。吹雪は今年のマジックコロシアムの優勝者だ。魔法は得意だろう?」

[吹雪]:「それは、どうなんでしょう? 得意っていうよりは、俺の両親のおかげだと思いますけど」

[セフィル]:「それはそうかもしれんが、実力があることは確かだろう。杠を負かしたわけだからな」

[聖奈美]:「う……」

横にいる杠が小さくダメージを受けていた。

[セフィル]:「杠、吹雪はなかなかの強さだったんだろう?」

学園長、何という質問を……。

[聖奈美]:「そ、そうですね。この学園の中では、それなりの実力は兼ね備えてるんじゃないでしょうか」

[セフィル]:「うむ、だそうだ吹雪。杠がそう言ってるんだ。お前は実力者だぞ」

[吹雪]:「は、はい。ありがとうございます」

[聖奈美]:「次は、絶対負けないわよ……」

杠は小さな声でそうつぶやいた。

[セフィル]:「唱えてもらう魔法なんだが、吹雪は光系魔法は使えるか?」

[吹雪]:「光ですか? 唱えられるのもありますが、あまり得意じゃないです」

光系魔法は他の属性魔法と比べて体力の消耗が激しく、且つ難しい。以前俺が唱えたセイクリッドスパークルも、あの場では成功したけど、何度も何度も失敗した記憶がある。

[セフィル]:「高等魔法だからな。他の属性魔法と比べて数も限られている。普通は唱えられなくてもおかしくはないんだが、お前は使えるのだな」

[吹雪]:「親のおかげですよ、それも」

[セフィル]:「君は謙虚だな。もっと誇ってもいいものを」

[繭子]:「ふーちゃんは昔からこんな感じなんですよー。だから代わりにワタシが誇ってまーす」

[セフィル]:「なるほど、だから学園の知名度が高いんだな、吹雪は」

マユ姉、言い散らしてやがるのか。

[セフィル]:「ピアノも良い人材を選んだもんだ」

[吹雪]:「ありがとうございます」

[セフィル]:「唱えられるならそこまで苦労はしないかもしれないな。君に唱えてほしいのは、光魔法なんだ。ホーリーカルムという魔法を知っているか?」

[吹雪]:「ホーリーカルム?」

[セフィル]:「ああ。うーん、何と説明すればいいのか、簡単に言うと、能力を分け与える感じか? マジックコロシアムで君が使った魔法と逆と考えるのがいいかもしれない」

[吹雪]:「逆ですか」

セイクリッドスパークルは全てを打ち消す効果を持つ技、とするとホーリーカルムは俺の力を四人に与えるってわけか。

[セフィル]:「始めに言っておくと、かなりの魔力を必要とする。普通の供給魔法とは種類が違うからな。君の前にハーモニクサーを担当してくれた者たちは終わった後にかなり疲労していた。いつだったか、唱え終わって保健室に行った者もいたな」

[吹雪]:「本当ですか?」

[セフィル]:「うん、本当だ」

それは、相当だな。

[セフィル]:「自分の力を分け与えるわけだからな。打ち消すよりも疲れるのは当然と言えば当然だ。大変なのは、その状態をキープするってことだろう」

[吹雪]:「キープか……」

[セフィル]:「だがまあ、吹雪は素質持ちだ。他の者たちよりも楽にできるかもしれないがな」

[吹雪]:「いや、それはないですよ」

選ばれるだけの実力を持ってる人が疲労してるわけだ。俺も例外じゃないはず。

[セフィル]:「とりあえずは、吹雪の魔力が現時点でどれだけあるかを知らなければならないな。ちょっと見せてもらえるか?」

[吹雪]:「え? いいですけど、どうやってですか?」

[セフィル]:「まあ、そこに立っていてくれ」

[吹雪]:「は、はい」

言われたとおりにすると、学園長は俺に近づいてきた。

[セフィル]:「目を閉じろ」

[吹雪]:「はい」

[繭子]:「わー、ドキドキイベントの予感」(繭子)

[聖奈美]:「先生、少し静かに」

[繭子]:「はーい」

[セフィル]:「…………」

[吹雪]:「…………」

……………………。

[セフィル]:「うむ、なるほど。いいぞ、吹雪」

[吹雪]:「あ、はい」

俺が目を開けると、学園長はうなずいていた。

[セフィル]:「うん、なかなかの魔力を秘めているな。さすが杠を打ち破っただけのことはある」

[聖奈美]:「う……」

[吹雪]:「あ、ありがとうございます」

[セフィル]:「現段階で、75ってところか。後25必要だな」

[吹雪]:「俺の魔力分量ですか?」

[セフィル]:「ああ、平均を50として考えてな」

25と言っていたからホーリーカルムを唱えるには100必要ってことか。

[セフィル]:「スケジュールに活かすとしよう」

[聖奈美]:「普通にしてて75って、あんたどんだけ持ってるのよ」

[吹雪]:「そんなこと言われてもな……」

[聖奈美]:「……」

怖いな……。

[繭子]:「後25ってことは、ふーちゃんの魔力じゃまだ足りないってことですかー?」

[セフィル]:「そうだな、頑張ればできるのかもしれないが、倒れる危険性があるな」

[繭子]:「そうなんだ、ふーちゃんでもかー」

[セフィル]:「だが、現時点でこの魔力なんだ。歴代のハーモニクサーの中でもかなり高い能力を持っているよ、吹雪は」

[繭子]:「ホントですか? さすがワタシの弟だー」

[セフィル]:「ふむ、ラブラブだな、二人は」

[吹雪]:「ら、ラブラブって……」

[セフィル]:「とりあえずは、だ。吹雪にもスケジュール表を渡しておこう。飽くまでも仮だから、変更の場合も大いにあるから、そこを抑えていてくれ」

[吹雪]:「分かりました」

紙を受け取り、ざっと目を通す。

……………………。

[セフィル]:「まあ、後でゆっくり目を通すといい。ホーリーカルムを拾得するのが、吹雪のすべきことのまず一つだ」

[吹雪]:「はい」

[セフィル]:「もう一つだが、吹雪には四人の練習を見てもらおうと思う」

[吹雪]:「見る? 練習に付き合うってことですか?」

[セフィル]:「うむ、そういうことだ」

学園長はうなずいた。

[セフィル]:「ホーリーカルムを拾得するのも大事だが、ハーモニクサーでもっとも大事なのはピアニストとのつながりだ。自分の能力を分け与えるわけだから、友好を結んでおかないといい結果にはつながらないからな」

[吹雪]:「そうですね。付き合うっていうのは、どんな風にでしょうか?」

[セフィル]:「それは吹雪の自由だ。吹雪のスタイルで四人の練習に付き合ってくれ。こちら側からは特に指示はない」

[吹雪]:「分かりました」

[セフィル]:「心を一つにして頑張ってくれ」

[吹雪]:「はい、了解です」

心を一つに、か。

[セフィル]:「ああ、ピアニストのみんな。吹雪が来たからって追い返したりしないようにな」

[繭子]:「はーい」

[舞羽]:「分かりました」

[カホラ]:「分かったわ」

[聖奈美]:「…………」

三人はすぐに返事をしたが、杠はちょっと顔をしかめていた。

[セフィル]:「よし、そろそろいい時間だな。みんな、行くぞ」

[舞羽]:「え? 行くってどこに?」

[セフィル]:「もちろん、ピアノのところにだ。あ、さっき渡した石を忘れるなよ」

[聖奈美]:「ピアノって、それぞれ違うところにあるんですよね?」

[セフィル]:「ああ、少し歩くが、大丈夫か?」

[舞羽]:「はい、大丈夫です」

[セフィル]:「よし、では行くぞ」


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