カンタービレ(1)
12月3日(金曜日)
[場所:学園長室]
[セフィル]:「――というわけで、私が学園長だ。まあ、本名を言っておけば、セフィルだ。沢渡・E・セフィルだ」
[吹雪]:「沢渡……? え? 先輩?」
[カホラ]:「うん、実はね」
[舞羽]:「そ、そうだったんだ」
[吹雪]:「学園長が、カホラ先輩のお母さんだったのか」
二年も同じ部活で過ごしていたのに全く気付かなかったぞ。
[カホラ]:「言ってなかったかしら?」
[吹雪]:「初耳ですよ」
[カホラ]:「ごめんね、別に言う必要もないかなって思って。先入観持たれるのも少しイヤだしね」
[セフィル]:「そんなことでそんな風に見る生徒は放っておけばいいんだ。気にすることはない」
[カホラ]:「まあ、そうなんだけどね。お母さん、威厳あんまりないし」
[セフィル]:「何を言うんだ。時折お茶目をするだけだぞ」
[カホラ]:「それがいけないのよ」
[セフィル]:「そうなのか? それは困った……」
確かに、言われてみると親子って感じがするな。顔が結構似てる気がする。
[セフィル]:「それにしても、こうしてみると見知った顔ばかりだな。須藤に繭子に杠にカホラ、そして大久保だな」
[俺&舞羽]:「ど、どうも」
[聖奈美]:「知っていただけて光栄です」
[繭子]:「まさかワタシが選ばれるなんてな~」
[セフィル]:「そうだな。教師で選ばれるのは、かなり久しぶりかもしれんな」
[繭子]:「どうしてワタシだったんでしょうか~?」
[セフィル]:「それは決まってるだろう、四季のピアノに気に入られたからだ」
[繭子]:「それしかないですよねー」
[セフィル]:「繭子はピアノに選ばれたんだ、たくさんいる学園の者たちの中でな。しっかりしなければならないぞ」
[繭子]:「はい」
[セフィル]:「で、こっちは生徒会長だな。お前の活躍はよく知ってるぞ」
[聖奈美]:「お褒めに預かり光栄です」
[セフィル]:「そんなに堅くなるな、もっと柔らかく接してくれ」
[聖奈美]:「いえ、しかし、この学園で一番偉いわけですし」
[セフィル]:「何を言う、お前とは立場上ちょくちょく顔を合わせているじゃないか。こんなガチガチな会話をする仲じゃないはずだ」
[聖奈美]:「わ、分かりました。でも、敬語は使わせてください、これはケジメですので」
[セフィル]:「うん、頼んだぞ」
[聖奈美]:「はい」
[セフィル]:「そして、魔法研究部の二人だな」
[舞羽]:「(ペコリ)」
[吹雪]:「はじめまして」
[セフィル]:「うん、君たちの作品は評判がいいぞ。完成度が高いようだな、カホラからよく聞いてるぞ」
[吹雪]:「そう言ってもらえると嬉しいです」
[舞羽]:「ありがとうございます」
[セフィル]:「また新しいのが完成したと聞いてるが」
[吹雪]:「あ、はい、プラネタリウムを作ってみました」
[セフィル]:「プラネタリウム? それはすごいな。一度見てみたいものだ」
[舞羽]:「部室にありますから、よければ見にいらしてください」
[セフィル]:「それは楽しみだ。もし暇があれば、私の欲しい物を作ってほしいな」
[吹雪]:「学園長、何か欲しい物があるんですか?」
[セフィル]:「うむ、ある」
[吹雪]:「それは一体?」
[セフィル]:「車だ」
[吹雪]:「いやいやいや、ちょっと待ってください。車はちょっと無理がありますよ」
[セフィル]:「む? そうか? 君たちなら出来そうな気がするんだが」
[舞羽]:「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、多分学園生活中には終わらないです」
[セフィル]:「そうか、ではミニカーでもいいぞ」
[吹雪]:「それは玩具ですから、学園長乗れなくなりますよ」
[セフィル]:「確かにそうだな。じゃあ何でもいいから私に作ってくれ」
そんなアバウトな……。
[セフィル]:「今から楽しみにしているぞ」
[カホラ]:「お母さん、吹雪たちが作りたい物とかを優先させてあげようよ」
[セフィル]:「うん、それでいい。それを私が奪うというわけだ」
[カホラ]:「それって犯罪じゃないの?」
[セフィル]:「ギリギリ冤罪だろう」
[カホラ]:「ギリギリって……」
[セフィル]:「まあ暇があったらでいい。考えてみてくれ」
[カホラ]:「はい、分かりました」
[セフィル]:「さて、全員との面識を確認したところで、そろそろ本題に入ろうか」
[全員]:「はい」
[セフィル]:「一応聞いておくが、ピアニスト、ハーモニクサーを辞退したいって者はいないよな? うん、ないようだな。まあ不安は持ってる者が多いとは思うが、学園側が全力でサポートするから、あまり気を張らずに望んでほしい」
[全員]:「はい」
[セフィル]:「君たちのやるべきことだが、大体は把握してるはず。でも、今一度説明しておこう。君たちがしなければならないことは、ピアニストはピアノを弾き、ハーモニクサーはそれをアシストする。ただ弾けばいいわけではない。一番大事なことは、ピアノと心を一つにすること。ピアノと波長を合わせることで、ピアノに願いが届いて、来年も平穏な四季を送らせてもらうんだ」
[聖奈美]:「波長を合わせるっていうのは、具体的にはどういうことなんですか?」
[セフィル]:「言い表すのは少々難しいんだが、ピアノの気持ちになることが大事だろうな」
[聖奈美]:「気持ちになる、ですか?」
[セフィル]:「うむ、四季のピアノは生きている。私たちと同じで心がある。気持ちのいい弾きかた、気持ちが悪い弾きかた、良い悪いがあるだろう。ピアノが心地良いメロディーを奏でてやるのが、君たちがしなければならないことだな」
[舞羽]:「なるほど、生き物なんですね」
[セフィル]:「まあそうと言うほうが自然だろうな。君たちはピアノに選ばれたわけだ。
それは即ち、ピアノに心が宿ってるってことと同義だろう」
[吹雪]:「そうですね」
[セフィル]:「ピアノは四つ存在する。春を司る『桜花のピアノ』、夏を司る『海風のピアノ』、秋を司る『紅葉のピアノ』、そして冬を司る『風花のピアノ』。この四つを大久保弟以外の四人に弾いてもらう」
[繭子]:「名前からして、冬のピアノはふーちゃんが弾くのが妥当そうなのにな~」
[吹雪]:「名前で決めんな、名前で」
[聖奈美]:「でも、大久保が弾いたら冬が大変になるんじゃないですか? 先生」
[繭子]:「あーそっかー。常に豪雪になっちゃうかな~?」
[吹雪]:「だから、名前で勝手に想像すんな。なりたくてこの名前になったんじゃないんだよ」
[カホラ]:「珍しい名前よね、吹雪って」
[吹雪]:「まあ、あんまりいないみたいですけど……って今は俺の話じゃあないでしょう」
話が脇道に反れてってる。
[吹雪]:「俺のことはどうでもいいから。すいません、学園長」
[セフィル]:「うむ、でも、私も少々気になるな。大久保弟の名前は」
[吹雪]:「ええ~!?」
[セフィル]:「それなりに学園長生活は送ってきたが、吹雪という名前は耳にしたことがない。君が初めてだ」
[繭子]:「でしょ~? 学園長は分かってるね~」
[セフィル]:「繭子、弟のネーミングの由来は知らないのか?」
[繭子]:「うーん、正直聞いたことはないです~。でも、吹雪だから勇ましいってことなんじゃないのかなーって思います」
[セフィル]:「なるほど、まあそう考えるのが妥当だな」
[繭子]:「ふーちゃんにはこの名前が合ってると思いますよ、ワタシー」
[セフィル]:「だそうだ、モテモテだな、弟」
[吹雪]:「いや、違うと思いますけど……」
[セフィル]:「うむ、よく考えてみると、このメンバーには結構珍しい名前の者が多いな。須藤の名前も、私は初めてみるぞ」
[舞羽]:「そうですか?」
[セフィル]:「うん、舞羽か。ありそうでなかった名前だ」
[舞羽]:「そうですね、たまに、まいはじゃなくてまうって読まれちゃいますけど」
[セフィル]:「でも、素敵な名前じゃないか。須藤に似合っているぞ」
[舞羽]:「ありがとうございます」
[セフィル]:「杠は、漢字が少々難解だな。これでみなみと読ませるのだろう?」
[聖奈美]:「はい。聖と書いて「み」とは読みませんからね」
[セフィル]:「そうだな、でも、何か意味があって付けられたのだろう?」
[聖奈美]:「親の名前にも同じように聖の字が入っているので、それを受け継いだのだと思います」
[セフィル]:「なるほど、親の字を受け継いだわけか」
[聖奈美]:「はい、結構間違われるのでたまに、はぁってなりますね」
[セフィル]:「そうか、でも君にあったいい名前だと思うぞ? 似合っている」
[聖奈美]:「本当ですか? ありがとうございます」
[セフィル]:「うむ、自信を持ってもいいだろう」
[聖奈美]:「はい」