カホラルート・ピウ(2)
[吹雪]:「――分かったか!? この腐れ外道が!」
[翔]:「…………」
[祐喜]:「ここまで、吹雪がキャラ崩壊することも珍しいね」
[吹雪]:「はあ、はあ……。ふう……悪いな祐喜、取り乱しちまった」
[祐喜]:「しょうがないよ今回は。これくらい言わないと、翔も分からなかったかもしれないし」
[翔]:「…………」
[祐喜]:「ちょっと飛んじゃってるみたいだね」
[吹雪]:「ほっとこうぜ、その内勝手に復活するさ」
[祐喜]:「そうだね。二人とも、もう大丈夫だよ」
祐喜が肩を叩いて二人に知らせる。
[愛海]:「終わった?」
[祐喜]:「うん、終わったよ」
[舞羽]:「……何か魂が抜けてるみたいだけど」
[祐喜]:「はは、大丈夫、大丈夫。ちょっと置いておけば治るはずだから」
[舞羽]:「そ、そうなんだ。……何か涙が目に光ってるけど」
[愛海]:「舞羽、翔っちにはこれくらいがいい気つけなのよ」
[舞羽]:「う、うん」
[愛海]:「スッキリした? 大久保くん」
[吹雪]:「おう、溜まってたもの全て吐き出すことができたからな。気分は晴れ晴れとしてるぞ」
[愛海]:「それはよかったわ。ストレスをため込むのはよくないからね」
[祐喜]:「吹雪を怒らせちゃダメだってことがよく分かったね」
[吹雪]:「大丈夫だ、そう簡単には沸点に達しないはずだから」
[祐喜]:「そう考えると、吹雪の沸点に達するまで怒らせちゃった翔って、ある意味すごいよね」
[翔]:「あう……ああ、う……」
[祐喜]:「完全に抜け殻だけどね」
[舞羽]:「あ、あはは……」
[愛海]:「そういえば、今日はクリスマスイブよね。二人はいつも通り練習なの?」
[舞羽]:「そうだね、本番までちょうど一週間だし、ここで休んでる時間はないから。でも、今日は特別な日だから、夕ご飯は腕によりをかけて作るつもり」
[吹雪]:「そういえば、今日は舞羽が当番だったな。どんな料理になるか楽しみだ」
[舞羽]:「うん、とびっきり美味しいのを作るよ」
[愛海]:「舞羽~、私にはないの~? ごちそう」
[舞羽]:「一応、こっちも決まった予算内で料理を作ってるから、突然の人数増加には対応できないんだよね」
[愛海]:「食べたかったわ~、舞羽の作るパイグラタン」
[舞羽]:「また今度作ってあげるから、今回は許してよ」
[吹雪]:「つうか、パイグラタンなんていつ作ったんだ?」
[舞羽]:「バーバロで働いてる時に、一回賄いとしてみんなに作ったことがあったの。試作品だったんだけど、結構上手にできたんだ」
[愛海]:「てっきり大久保くんは食べたことあると思ってたんだけど」
[吹雪]:「いや、今日初めて聞いた。本当に何でも作れるんだな、舞羽は」
[舞羽]:「えへへ、それほどでも。残念ながら、今日は作ることはできないけど」
[吹雪]:「気にするな。名前を聞く限り、すごく手間がかかるものなんだろう?」
[舞羽]:「そうだね、じっくり焼かないといけないから」
[吹雪]:「じゃあ、やはり次回に持ち越しだな。楽しみにしてるさ」
[舞羽]:「うん」
[祐喜]:「――あ、そうだ吹雪。前に話した四季のピアノに関して、何か進展はあったの?」
[吹雪]:「ああ、話してなかったな」
[愛海]:「何? その話。私、聞いた覚えがないんだけど」
[祐喜]:「そういえば、僕たちにしか話してなかったんだっけ。言っても大丈夫かい? 吹雪」
[吹雪]:「…………」
[愛海]:「ちょっと大久保くん、どうしてそこで黙っちゃうのよ」
[吹雪]:「いや、日野のことだから、どうせ何かに託けて茶化してきそうだなって思って」
[愛海]:「全くオブラートに包むことなく物申したわね、逆に清々しいわ」
[吹雪]:「俺は間違ったことは言ってない自信がある」
[愛海]:「大丈夫よ~、真剣にやってることなんでしょ~? それに横槍を入れる気なんてこれっぽっちもないわよ~」
[吹雪]:「そう言ったお前に、俺と舞羽は何度も茶化されてきた記憶があるんだが」
[愛海]:「過去は過去よ、今回はゼーッタイにしないから? ね?」
[吹雪]:「……破ったら日野にも容赦なく怒るからな」
[愛海]:「ええ、いいわよ」
[吹雪]:「前回祐喜たちにした話っていうのは――」
……………。