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ソプラノ  作者: BAGO
アニマート
22/1013

アニマート(5)

 [場所:生徒会室]


[祐喜]:「入るのは、初めてだよね?」

[吹雪]:「ああ、初体験だ」

[祐喜]:「ちょっと資料だらけで汚いけど、許してね」

[吹雪]:「ああ、問題ない」

それくらいの汚さ、マユ姉で慣れてるからな。

[祐喜]:「じゃあ、どうぞ」

[吹雪]:「お邪魔します」

ガラガラガラ。

中に入ると、真っ先に目に飛び込んできたのは。

[聖奈美]:「な!? 大久保?」

[吹雪]:「あ、杠、それにダルク」

[聖奈美]:「どうしてあなたがここに来てるのよ? ここは生徒会よ? あなたは無関係でしょう」

[吹雪]:「無関係だけどよ、暇だったから手伝いに来たんだ」

[聖奈美]:「ふーん」

[吹雪]:「お前は――ああ、生徒会長だったな」

[聖奈美]:「それはさすがに知ってるみたいね」

[吹雪]:「まあ、投票したしな」

[聖奈美]:「知ってるならいいわ。知ってなかったら氷魔法の刑に処すところだけど」

[吹雪]:「おっかねぇな、もっとスマートにいこうぜ」

[聖奈美]:「いいじゃないの、やらないんだし」

口調を柔らかくしてほしいんだけどな。

[聖奈美]:「祐喜が連れてきたの?」

[祐喜]:「うん、手伝ってって頼んだら、快くオーケーしてくれたんだ」

[聖奈美]:「そう。……」

[吹雪]:「な、何だよ?」

[聖奈美]:「別に、なかなか殊勝な心がけじゃない」

[吹雪]:「まあ、どうせなら役に立つほうがいいだろ」

[聖奈美]:「そうね、まあいいわ。手伝ってくれるんなら手伝ってもらいましょう。今日はあたしと祐喜とダルクだけだったから、人手は多い方が助かるわ。とりあえず、空いてる席に座りなさい」

[吹雪]:「お、おう」

俺は近くのイスに腰を下ろした。机の上にはたくさんの資料が高く積まれている。

[聖奈美]:「狭いってのは禁句よ? 片づけたくても片づけるスペースがないんだから」

[吹雪]:「いや、別に言う気はないって。この資料の数だけ、お前たちが働いてるってことだし」

[聖奈美]:「まあ、そうね。でも、学園にあんまり関係ない資料も混じってるわよ。生徒会と教師は嫌が応にも密接な関係があるから、教師が会議で使用した資料とかも混じってるかもしれないわ」

[吹雪]:「なるほど、何割くらいだ?」

[聖奈美]:「2、3割くらいかしら? 頻繁に会議やミーティングが開かれるから、数えたことないわ」

[吹雪]:「忙しいんだな、生徒会は」

[聖奈美]:「そりゃそうでしょ、学園を仕切ってるんだから。それ相応の準備は必須よ」

[吹雪]:「なるほど」

[聖奈美]:「じゃあ、作業始めましょう。ダルク、大久保に何をするか教えてあげて」

[ダルク]:「うん、分かった」

ふわふわとダルクは俺のほうに近づいてくる。

[ダルク]:「ありがとね、オーケーしてくれて」

[吹雪]:「これくらいは別にいいさ。ダルクはいつも手伝ってるのか?」

[ダルク]:「まあね、早く帰る理由もないし、聖奈美は私のマスターだからね。マスターに使えることが私の存在意義だから」

[吹雪]:「そうか。偉いな、ダルクは」

[ダルク]:「そんなことないよ、これは使い魔共通の暗黙の了解だから」

暗黙の了解ね、使い魔の世界も大変なんだろうな。

[ダルク]:「じゃあ、準備室に行こう。私たちはこっちで作業だから」

[吹雪]:「ああ、分かった」

ガラガラガラ。

[吹雪]:「うわ……随分けぶたいな、ここ」

[ダルク]:「掃除する時間がないからね、生徒会室は掃除の範囲内だからいいけど、ここはそうじゃないから」

[吹雪]:「けほ、すごい埃だ。何か年代物のお宝でも出てきそうだ」

[ダルク]:「雰囲気はね、でもあるのは印刷資料ばっかりだよ」

俺たちは少し奥のほうに進んでいく。

[ダルク]:「ここかな、うん」

[吹雪]:「ここにあるのは?」

[ダルク]:「近年使用した学園を住みよくするための提案資料だね。昔の会長さんたちがどんな風にやってきたのかを参考にしながら決める場合もあるから、捨てずに取っておいてあるの」

[吹雪]:「ほお、それにしてもすごい量だな」

[ダルク]:「一週間に一回は会議やらミーティングがあるからね。増えちゃうのは必然、かな」

[吹雪]:「ふーん」

[ダルク]:「よいしょっと」

ダルクは上の棚からファイルを取り出して机に置いた。

[ダルク]:「とりあえずは整理だね。これを会議した日にち順に揃えてほしいんだ」

[吹雪]:「分かった。ん? でもきちんとファイリングされてるじゃないか」

[ダルク]:「ああ、見た目はね。でも、よく見るとどれもこれもバラバラだよ。ほら、これなんか半年もズレが生じてる」

[吹雪]:「あ、本当だ」

[ダルク]:「整理してる暇がないから、とりあえずファイルに入れてるだけで、順番なんてあったもんじゃないんだ」

[吹雪]:「じゃあ、俺たちの仕事はこれか」

[ダルク]:「うん、下に日にちが書いてあるから、古い順に重ねていってもらえる?」

[吹雪]:「了解だ。この上の棚全て、か?」

[ダルク]:「うん、そうだね。でも、二人なら早く終わるよ」

早速作業に取りかかろう。

[吹雪]:「ん、これは二ヶ月前、これは四ヶ月前、ん? ダルク、日にちが重なってるのがあるが、これはどうするんだ?」

[ダルク]:「あ、それは議題の頭文字が早いほうを上にして。そっちのほうが分かりやすいから」

[吹雪]:「オッケー」

ってことは、こっちが下だな。

[吹雪]:「それにしても、あれだな。こうやって見ると、生徒会って何でもやってるんだな」

[ダルク]:「そうかもしれないね」

手は休めずにダルクは返事する。

[吹雪]:「水質調査とか、窓ガラスの修復とか、ベニヤ板の配送の申請とか、普段日常で出てこない雑務も生徒会が担当してたのか」

[ダルク]:「まあね。それが生徒会のメインの活動だから。生徒が部活や勉強に専念できる環境を作ってあげる。住みよい学園生活のサポートだね」

[吹雪]:「なるほどな。じゃあ、マジックコロシアムの日も、生徒会は動いていたんだ?」

[ダルク]:「うん、もちろん。受付はもちろん、パトロールだって生徒会がやってたんだよ」

[吹雪]:「やっぱりか、どうりで祐喜がいなかったわけだ」

[ダルク]:「祐喜さんは副会長だからね。その日はパトロールの代表だったから、休憩時間以外はずっと歩き回ってたよ」

[吹雪]:「そうだったのか。ん? じゃあその流れでいくと、杠も仕事してたってことだよな?」

[ダルク]:「うん、もちろん。会長が仕事しなきゃ、生徒会は成り立たないからね」

[吹雪]:「でも、あいつコロシアムに出てただろ。準備とか忙しいだろうに」

[ダルク]:「うん、だから聖奈美が主にやってたのは、この部屋での情報処理だったの」

[吹雪]:「あ、なるほどな」

役員を捌いていたってわけか。

[ダルク]:「処理が遅れると、問題解決も遅れちゃうから、結構重要な役回りなんだ。それをやりながら、聖奈美はコロシアムに出場してたの」

[吹雪]:「そうか。……じゃあ、俺が決勝で勝てたのは――」

[聖奈美]:「関係ないわよ、それは」

[吹雪]:「おわっ!?」

気付けば後ろに本人が立っていた。

[吹雪]:「い、いつからそこに?」

[聖奈美]:「たった今よ、ちょっと資料を取りにね。言っとくけど、あんたが思ってることは度外視していいことだからね。こんなこと肯定したくはないけど、あんたは実力であたしを任したんだから」

[吹雪]:「だが、仕事と両立してたんだろ。俺以上に疲労は」

[聖奈美]:「溜まってなかった、って言えば嘘かもしれないけど、大したことはなかったわ。それに、あたしは一回戦シードだったし、疲労の度合いはあんたと同じくらいよ。条件的にはほぼ同じよ」

[吹雪]:「そうか?」

[聖奈美]:「そうよ、イチイチそんなことは気にしないほうがいいわ。そんなこと言ってたらいくらでも理由が作れるじゃない」

[吹雪]:「ま、まあな」

[聖奈美]:「しゃきっとしなさい、しゃきっと」

[吹雪]:「お、おう」

[聖奈美]:「さあ、仕事仕事。ダルク、去年の年末の日程資料、出してもらえる?」

[ダルク]:「うん。えーっと……はい、コレ」

[聖奈美]:「ありがと、じゃあ、サボるんじゃないわよ? 大久保」

[吹雪]:「分かってるよ」

杠は生徒会室に戻っていった。

[吹雪]:「認めてくれたんだな、俺のこと」

[ダルク]:「うん、最初は悔しがってたけど、区切りをつけたみたいだよ」

[吹雪]:「ふーん」

俺が思ってるよりも、あいつはいい奴なのかもしれないな。まあ、出会いが出会いだから、というのもあるかもしれないが。

[ダルク]:「再開しよっか、仕事」

[吹雪]:「おう」

気を取り直して資料に目を落とした。

……………………。

[吹雪]:「大分、揃ったな」

[ダルク]:「うん、次はこれを綴じ込まないとね」

[吹雪]:「このファイルに入れるのか?」

[ダルク]:「うん、これでパッチンしてからね」

ダルクは穴開けパンチを持ってやってくる。

[ダルク]:「これが終われば、一段落するよ」

[吹雪]:「よし、じゃあ早速やるか」

[ダルク]:「うん、頑張ろう」

一旦これをこっちに置いてと。しかし、本当にたくさんあるな。よく見ると10年前の資料とかも中から出てくる。卒業生の意見を参考にするのも大切なことなんだろう。

[ダルク]:「気になる? 吹雪」

[吹雪]:「ん、少しな。こうして見ると結構おもしろい」

[ダルク]:「忙しいけど、やってみると色々分かることもあるんだよ。完全な雑学だけどね」

[吹雪]:「そうなのか、例えば?」

[ダルク]:「そうだねー、じゃあ。マジックコロシアムで優勝した人でも、テストで実技試験を受けなきゃいけないよね」

[吹雪]:「ああ、成績を付けなきゃいけないからな。当然のことだな」

[ダルク]:「当時、マジックコロシアムで優勝した人は、魔法関連のテストは全て免除になるっていう特権があったんだ」

[吹雪]:「何ー? それマジか!?」

[ダルク]:「うん、優勝できる力を持ってるなら実技でも結果は見えてるってことで、しなくても最高点を上げるってことになってたんだって」

[吹雪]:「何だそれ、教師も楽がしたかっただけなんじゃ」

[ダルク]:「どうなんだろうね。でも、今からは考えられないくらいとっても素敵な特権だったんじゃないかな」

[吹雪]:「まあそりゃあ嬉しいだろうな」

[ダルク]:「でも、その当時、ちょっとした問題があってね。多分それがあったからそういう特権を設けたんだと思うの」

[吹雪]:「問題?」

[ダルク]:「うん、マジックコロシアムの出場者が激減したんだって」

[吹雪]:「ああ、なるほど」

[ダルク]:「年々出場者が減っちゃって、このままじゃ大会がなくなってしまうんじゃないかって言われてたんだって。でも、伝統行事を途切れさせるわけにはいかない。それで思いついたのがその特権ってわけ」

[吹雪]:「で、効果は?」

[ダルク]:「もう絶大。テストが免除になるならって人がたくさんいたみたいでその年の出場者は50人を越えたみたい」

[吹雪]:「50人? そりゃ多いな」

今年の出場者を倍にしても足りないぞ。

[ダルク]:「おかげで生徒会も保健室もてんてこ舞いの忙しさで、一日じゃ終わらないから大会日程も二日に変更になったんだって」

[吹雪]:「じゃあ、大盛況だったんだな」

[ダルク]:「うん、予想以上のものだったみたいだけどね」

[吹雪]:「その特権は約束通りに適応されたのか?」

[ダルク]:「うん、優勝者は実技テスト諸々免除、来年も出る意思を見せてた人もたくさんいたみたい」

[吹雪]:「ほお」

[ダルク]:「でも、学生の本分は勉強なのに、テスト免除っていうはやっぱりやりすぎだって声が大きくなってきて、その年から三年後くらいにその特権は廃止されたんだ。それでも、マジックコロシアムのおもしろさは生徒に伝わったみたいで、出場者は今年ぐらいをキープできてるみたいだよ」

[吹雪]:「そうか、じゃあ特権はもうないのか」

[ダルク]:「どうだろう。ひょっとしたら、少しは評価されてるのかもしれないけどね」

[吹雪]:「でも、廃止にしたのは間違ってないかもな」

テストしたくないから頑張るっていうのは、動機が不純だしな。

[吹雪]:「当時の優勝者に会ってみたいもんだ」

[ダルク]:「まだこの島にいるのかな?」

[吹雪]:「どうだろうな」

……………………。


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