カホラルート・フォルテ(9)
[場所:泉]
[カホラ]:「うわ~、すごい」
綺麗な泉が広がっていた。決して大きくはないが、それでも岩の間から水がコンコンと湧き出ていて、とても良い光景だ。
[カホラ]:「綺麗……」
先輩もその光景に目を奪われているようで、目線がそこから離れない。
[カホラ]:「こんな場所が、この島にあったのね」
[吹雪]:「びっくりですね、本当に」
[カホラ]:「人が開拓したわけではないようだし、自然とできたのかしら?」
[吹雪]:「その可能性が高いかもしれませんね」
地図に載ってないことと、踏み荒らした様子もないのが証拠になる。
[カホラ]:「隠しスポットを見つけちゃったみたいね」
[吹雪]:「これは、みんなには秘密にしておきたいですね」
[カホラ]:「ふふ、そうね。私たちだけの場所、みたいな感じかしら?」
[吹雪]:「ですね」
あまり人に知られると、この泉が困りそうだしな。
[カホラ]:「座りましょうか」
[吹雪]:「はい」
俺たちは水辺にある石に腰を降ろした。
[カホラ]:「はあ、落ち着くわ」
[吹雪]:「はい、癒されますね」
水が流れ落ちる音が心地良い。
[吹雪]:「飲めるんですかね? この水」
[カホラ]:「大丈夫じゃないかしら? こんなに透き通ってるし」
[吹雪]:「ですね。飲んでみます」
手で水を掬う。
[吹雪]:「冷たいな」
こぼれないようにそのまま口へ。
[カホラ]:「どう? 吹雪」
[吹雪]:「めちゃくちゃ美味しいです」
市販で売ってるミネラルウォーターよりもおいしいかもしれない。塩素の臭いなんてしないし、とっても冷えてて喉も潤う。
[カホラ]:「先輩も飲んでみたほうがいいですよ」
[吹雪]:「そう?」
先輩も、水を掬って口に運んだ。
[カホラ]:「本当、冷たくておいしい」
[吹雪]:「自然の美味しさを実感しましたね」
[カホラ]:「そうね、なめてたわね私たち。考え方を改めないといけないわね」
[吹雪]:「ですね」
[カホラ]:「ふう……足でも浸そうかしら」
[吹雪]:「いいんじゃないですか?」
誰も咎める者はいない。
[カホラ]:「じゃあ、失礼して――」
先輩は靴を脱いで足を泉に入れた。
[カホラ]:「はあ、気持ちいい~」
[吹雪]:「よかったですね」
足をパタパタしながら、先輩は足を冷やす。
[カホラ]:「意外と、ここが森に生きる宝石だったりしないかしらね?」
[吹雪]:「ああ、そう言われるとしっくりくる気もしなくないですね」
泉の水は、日差しできらきら輝いていて、さながら宝石のように綺麗だ。
[吹雪]:「有り得るかもしれませんね」
[カホラ]:「ここは、候補に入れておいたほうがいいわね」
先輩は、地図に赤い丸を付けた。
[吹雪]:「名も無き泉……何だか良い響きですね」
[カホラ]:「言い換えれば、私たちの秘密の場所ね」
忘れないようにしないと。
[カホラ]:「はあ」
先輩は今の姿勢を保ったまま、目をゆっくり閉じた。端から見て、かなり絵になる図だった。元々先輩は美人だから、何をしても綺麗なんだが、今はいつも以上に綺麗に映っているように見える。
[カホラ]:「ん? どうかした? 吹雪」
[吹雪]:「あ、いや、何も」
見入ってしまっていたようだ。何か最近こういうことが多い気がするな。先輩と過ごす時間が増えたからだろうか?
[吹雪]:「うーん……」
[カホラ]:「悩みでもできたの?」
[吹雪]:「いえ、そんなことないですよ」
考えてもしょうがないな。
……………………。