カホラルート・アンダンティーノ(16)
[吹雪]:「あ、うまい」
[カホラ]:「そうでしょう? 私のお気に入りだから」
[吹雪]:「先輩、そこまでビスケット大好きでしたっけ?」
[カホラ]:「ううん、このシリーズだけよ。他のものが嫌いってわけじゃないけど、ビスケットはこれが一番好き」
[吹雪]:「そうなんですか」
[カホラ]:「1年くらい前にたまたまお母さんが買ってきたのよ、甘いものが食べたかったらしくて。それで一緒に食べてみたら、すごくおいしくて、それ以来ハマっちゃったの」
[吹雪]:「良い出会いをしたんですね」
[カホラ]:「安くておいしいから、吹雪も是非ご贔屓に」
[吹雪]:「せ、宣伝ですか?」
[カホラ]:「何となくね、やったほうがいいと思って」
[吹雪]:「機会があれば、舞羽たちに教えておきますよ。美味しいのは確かですから」
[カホラ]:「よし、ファンが増えたわね」
嬉しそうに先輩は笑った。その姿は、びっくりするくらいかわいらしかった。先輩なのにこんな風に言うのは失礼なのかもしれないけど、かわいらしいというのが一番しっくりくる。
というか、何を考えてるんだ俺は。
[吹雪]:「……忘れよう」
[カホラ]:「ん? 何か言った? 吹雪」
[吹雪]:「い、いえ何でもないです」
[カホラ]:「そお?」
[吹雪]:「お気になさらず」
面と向かって言えるほど俺は強心臓じゃない。
[カホラ]:「今何時かしら?」
[吹雪]:「あ、ちょっと待ってください」
携帯を開いて時刻を確認する。
[吹雪]:「今、2時半ですね」
[カホラ]:「思ったより時間が経ってたのね」
[吹雪]:「ですね、予想外でした」
[カホラ]:「やっぱり、誰かと一緒に作業してると、時間が過ぎるのが早いわね。一人でしてる時と大違い」
[吹雪]:「それは分かりますね。退屈な時間ほど過ぎるのが遅いんですよね」
[カホラ]:「そうよね、どうして逆にならないんだろうって思うわ」
[吹雪]:「人生、そううまくはいかないようにできてるんですよね」
[カホラ]:「詩人みたいなことを言うわね、吹雪」
[吹雪]:「お、思ったことを口にしただけですよ」
[カホラ]:「分かってるわ、私もそう思うもの。それだけ、今の時間が楽しいってことよね」
[吹雪]:「ほ、本当ですか?」
[カホラ]:「ええ。吹雪は話が通じるし、一緒にいてて楽しいからね」
[吹雪]:「あ、ありがとうございます」
さすがに、そんなことを面と向かって言ってもらえると――。
[カホラ]:「顔、真っ赤ね」
[吹雪]:「お、お気になさらず。言われ慣れてないものですから」
[カホラ]:「うふふ、そうなの」
ひょっとして、先輩は俺の反応を分かった上で言ってるのだろうか?
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