カホラルート・コモド(8)
[カホラ]:「炭酸少女かー。すっごく炭酸が強いのよね、これ」
[吹雪]:「飲んだことあるんですか?」
[カホラ]:「味はおいしいんだけど、刺激がすごく強いのよね。まあ、疲れはとれるか」
[吹雪]:「――よし、俺もやってみます」
[カホラ]:「あら? 吹雪も意外とチャレンジャー?」
[吹雪]:「先輩のを見てたらやりたくなりました。こういうチャレンジ精神が人間を強くするんだと思います」
[カホラ]:「さすが、言うことが違うわね」
硬貨を入れて、レッツチャレンジ。
[吹雪]:「先輩、さっきみたいによろしくお願いします」
[カホラ]:「ええ、オッケー」
先輩にお願いし、グルグルと体を回してもらう。
[カホラ]:「吹雪、結構筋肉付いてるわね」
[吹雪]:「そうですか? 人並みレベルだと思いますけど」
[カホラ]:「最近は走ってるから足にもあるみたいね、筋肉」
[カホラ]:「足はまあ、ついてもしょうがないですね」
あれだけ走ってるもんな……。
[カホラ]:「目指すはボディービルダー?」
[吹雪]:「いやいや、それは次元が違いますよ。なりたいなら違う練習しないと」
[カホラ]:「そう? なれなくはないと思うけどね」
[吹雪]:「先輩は俺に何を求めてるんですか?」
[カホラ]:「かっこいい男性、かしら?」
[吹雪]:「……ちょっと難しいかもしれませんね」
[カホラ]:「もう、謙遜しちゃって」
[吹雪]:「いやいや――というか先輩、ちょっと回しすぎじゃないですか?」
すでに10回以上回されている気がするんだが。
[吹雪]:「もう平衡感覚すら怪しいんですけど」
[カホラ]:「真剣勝負だから、これくらいでちょうどいいわ」
[吹雪]:「はあ……」
[カホラ]:「よし、じゃあ逆回転しましょうか」
[吹雪]:「ええ? まだ回すんですか?」
[カホラ]:「ここまできたらとことん回しましょう」
何のスイッチが入ったのか、先輩は楽しそうに俺を回した。
[カホラ]:「どんな感じ?」
[吹雪]:「そうですね、回ってないのに回ってるような感覚です」
[カホラ]:「いい感じね。そんな状態で、一体吹雪はどんなジュースを手に入れるのか?」
バラエティー番組のノリになっている。
[カホラ]:「さあ、緊張の瞬間です」
[吹雪]:「うん、行きます」
そのノリに答えるべく、俺は無駄に精神を集中させてみる。
[吹雪]:「ふう――そりゃ!」
俺は勢いよく振り返ってボタンを押した。……つもりだった。
[吹雪]:「…………」
[カホラ]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[カホラ]:「あー、吹雪、そこにボタンはないわよ?」
どうやら検討違いの場所を押していたらしい。
[吹雪]:「すいません、予想以上に目が回ってるっぽいです」
[カホラ]:「もっと回す?」
[吹雪]:「これ以上回されると、多分立つこともままならなくなっちゃいますよ?」
[カホラ]:「うーん、それもちょっと見てみたいかも」
[吹雪]:「どういう意味ですか?」
[カホラ]:「ふふ、とにかく、も一回後ろ向きましょう、仕切り直し」
[吹雪]:「はい」
くるっと体を回され、先程と同じように。
[吹雪]:「では、行きます」
[カホラ]:「ええ、どうぞ」
精神統一、そしてイメージを浮かべる。
[吹雪]:「――ていっ!」
ガコンと音がしてジュースが下に落ちた。今度は成功したらしい。出てきたのは――?
[吹雪]:「先輩、どうですか?」
[カホラ]:「ちょっと待って。――えーっと、アイスミルクココア。冷たいほうだったわね」
[吹雪]:「うわー、微妙……」
良いとも悪いとも言えない飲み物が落ちてきてしまった。
外すにしても、もう少し何じゃこりゃーってなるものが落ちてきてほしかった。今なら芸人の悩みが分かる気がする。
[吹雪]:「すいません、先輩、ご期待に添えませんでした」
[カホラ]:「どうして謝るの? そんなことで怒ったりしないわよ」
[吹雪]:「でも何か……悔しいですね」
[カホラ]:「確かに、良からず悪からずだからね。気持ちは分かるわ、でも、普通に美味しい飲み物じゃない。ぶーたれたらアイスミルクココアに失礼だわ」
[吹雪]:「そうですね、美味しくいただきます」
[カホラ]:「戻りましょうか。ストーブを付けた暖かい部屋でコールドドリンクを飲みましょう」
[吹雪]:「……それだけ聞くと、一体何をしたいのか分かりませんね」
[カホラ]:「喉を潤すためでしょう。ちゃんと目的はあるわ、行きましょう」
[吹雪]:「はい」
…………。