カホラルート・コモド(5)
[カホラ]:「――ふう、お粗末さまでした」
自然と拍手で返していた。
[吹雪]:「お疲れさまです」
[カホラ]:「ありがとう」
[カホラ]:「で、どうだったかしら?」
[吹雪]:「それはもう、すごく素敵でした」
またしても月並みな言葉で返してしまった。
[カホラ]:「素敵だった?」
[吹雪]:「はい、流れるようなメロディーが俺の中にすーっと入ってきて、すごくいい気分になりました」
[カホラ]:「本当?」
[吹雪]:「はい、何一つ嘘は言っていません」
[カホラ]:「ありがとう。じゃあ、気になったところとかは? 何かあるでしょう?」
[吹雪]:「気になるところですか?」
[カホラ]:「遠慮はしなくていいわ。ちょっとでも気になったところとかがあれば言って?」
[吹雪]:「あー、そうですね」
[セフィル]:「うむ、じゃあ私から幾つかあげよう。吹雪は考えていてくれ。いいか? カホラ」
[吹雪]:「はい」
[セフィル]:「まず、吹雪の言うとおり、かなりメロディーラインの出来は上向いていると感じた。そのイメージを忘れないように努力してくれ」
[カホラ]:「はい」
[セフィル]:「で、改善すべきところだがもっと強弱をはっきりつけた方がいいな。全てが同じ音量で聞こえた気がした。平坦な演奏は他の3人の演奏を台無しにするかもしれない。もっと意識的に強弱をつけてみるんだ」
[カホラ]:「はい。特に気をつけるべきは、やっぱり2枚目の3小節目かしら?」
[セフィル]:「そうだな、そこからしばらくカホラのメインパートだからな。一番気を使わなければいけないな」
[カホラ]:「分かりました、全体的に強弱の確認を怠らず、と」
[セフィル]:「さあ、じゃあ次は吹雪だ」
[吹雪]:「あ、はい」
[カホラ]:「何でもいいわ、思ったことを包み隠さず言ってちょうだい」
[吹雪]:「そうですね……専門的なことは分らないんですが、もっとメロディーラインをはっきりさせたほうがよりよくなるんじゃないでしょうか?」
[カホラ]:「メロディーライン?」
[吹雪]:「はい、この四季のピアノの曲って、テンポの変化が総じて激しいじゃないですか。そこをもっと強調するように弾けば、よりメロディーに味が出て良くなるんじゃないかと」
[セフィル]:「確かに、さっきの感じだと、テンポの変化がイマイチつかめなかったな」
[カホラ]:「そっか。もっと気を配る必要がありそうね」
[吹雪]:「でも、今のままでも十分綺麗なメロディーラインでした」
[カホラ]:「ええ、じゃあ、そこに意識を集中させてみるわ」
[セフィル]:「吹雪、目の付けどころが違うな」
[吹雪]:「いや、本当にちょっとしたことであって……」
[セフィル]:「そういうのをほったらかすのが一番危険なんだ。早期解決が身を結ぶ、すごくいい部分に気がついてくれた。これでまたカホラは一皮剥けるわけだ」
[吹雪]:「役に立てたなら何よりです」
[カホラ]:「じゃあ、今頂いたアドバイスを重点に置いてもう一度弾いてみるわ」
先輩は椅子に座りなおした。
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