カホラルート・コモド(3)
[場所:図書室]
先輩はすぐに見つかった。
[カホラ]:「…………」
フロアの端にある勉強スペースで、真剣に本を読んでいた。相変わらず勉強熱心のかたである。とりあえず声をかけよう。
[吹雪]:「カホラ先輩」
[カホラ]:「…………」
どうやら集中しすぎて俺の声が聞こえてないらしい。しょうがないから肩を叩いた。
[吹雪]:「先輩」
[カホラ]:「え?」
やっと振り向いてくれた。
[カホラ]:「あら? 吹雪、どうしたの?」
[吹雪]:「お迎えにきました」
[カホラ]:「お迎え? 私そんなこと頼んだかしら?」
[吹雪]:「別に頼まれてはないですよ、ただ時間がちょっとね」
俺は時計を指さして先輩に伝える。
[カホラ]:「あら、もうそんなに時間が……ごめんなさいね」
[吹雪]:「別に大丈夫ですから。何の本を読んでいたんですか?」
[カホラ]:「ええ、これよ」
それは、この島の歴史書だった。結構古びていて、ところどころがくすんでいた。
[吹雪]:「随分と昔の本ですね」
[カホラ]:「そうね、今から70年くらい前の本だから」
70年、そりゃあ本だって劣化していくわけだ。
[吹雪]:「この島の歴史について……気になるんですか?」
[カホラ]:「ええ、もちろん」
何の迷いもなくうなずいて見せた。
[カホラ]:「前に、私がピアノについて調べてるって言ったこと、覚えてる?」
[吹雪]:「はい、暇がある時によく研究してるんですよね」
[カホラ]:「ええ、私は後少しで卒業してしまうから、自由に調べられるのは今しかないの。だから、悔いを残さないようにやれるだけやっとこうと思うのよ」
[吹雪]:「そっか……」
卒業か、先輩がいなくなってしまうのは、寂しいな。
[カホラ]:「吹雪? 何でそんな顔してるの?」
[吹雪]:「え? だって……」
[カホラ]:「心配ないわよ、まだ3ヶ月もあるのよ? 今からそんな顔しちゃダメよ」
[吹雪]:「は、はい。つい考えちゃって」
[カホラ]:「元気出しなさい? ね?」
[吹雪]:「は、はい」
[カホラ]:「さあ、戻りましょうか? みんなに謝らないといけないわね」
[吹雪]:「いいんですか? まだ終わってないんじゃ」
[カホラ]:「いいわ、明日にでもできるし。それに、さすがに練習をすっぽかすわけにはいかないでしょう?」
[吹雪]:「そうですね」
[カホラ]:「さ、行きましょう」
――改めて、先輩を尊敬したのだった。