マルカート(11)
[フェルシア]:「うーん、ちょっと上がらなくなったわね」
[セフィル]:「……吹雪、一端止めてくれ」
[吹雪]:「あ、はい」
俺は詠唱を止めた。
[吹雪]:「はあ……はあ……」
停止した瞬間、疲れが押し寄せ俺は地面に片膝をついた。
[セフィル]:「大丈夫か? 吹雪」
[吹雪]:「ちょっと、疲れました」
[セフィル]:「休憩を入れよう。フェル、タオルを」
[フェルシア]:「はい。吹雪くん、どうぞ」
[吹雪]:「ありがとうございます」
受け取ったタオルで汗を拭った。
[吹雪]:「すみません、上手くできなくて」
[セフィル]:「何を言ってる。今日練習に入ったばかりだろう、そんな簡単にできるものじゃないんだ。そんなすぐに覚えられたら私が嫉妬する」
[吹雪]:「し、嫉妬?」
[セフィル]:「そう、嫉妬だ。吹雪のことを嫉んでやる」
[吹雪]:「そ、それはご勘弁を……」
[セフィル]:「はっは。まあ気に病むことじゃないから安心していい」
[吹雪]:「は、はい……」
[セフィル]:「自分で、上手くできてないと感じたか?」
[吹雪]:「そうですね。何て言うんでしょう、力の供給が感じられなかったといいますか」
[セフィル]:「なるほど、確かに吹雪の言ってることは確かだ」
やっぱりか……。
[セフィル]:「最初のほうは上手くいっていたんだ。ちゃんとフェルのメーターは上昇していた。だが途中から、メーターの上下が止まってしまってな」
[吹雪]:「ああ……」
[セフィル]:「吹雪の魔力だけを消費してしまったようだな。本来なら、消費したものがフェルに渡っているはずなんだが」
[吹雪]:「集中が切れたんでしょうか?」
[セフィル]:「自分ではどんな感じだった?」
[吹雪]:「そうですね、集中は、何度も言い聞かせていたんでできてた気がしたんですけど」
[セフィル]:「確かに、私から見ても乱れのようなものはなかったからな。集中はできていたんだろう、だとすると……集中するあまり魔力を受け渡す相手を思い描くことに失敗したのかもしれないな」
[吹雪]:「うーん……」
[セフィル]:「ホーリーカルムが不発に終わる理由として一番にあげられるのはそれなんだ」
[吹雪]:「なるほど」
確かに言われてみると、頭の中でうまくフェルシア先生の姿を思い浮かべることができていただろうか?