アレグロ(5)
あー、興奮した~。もう心臓が飛び出そうだったよ~」
「うん、確かに白熱しましたね。長期戦にはならなかったけど」
「次もあるから、ちょうどよかったんじゃない? 一回戦から長期戦じゃあ、決勝まで魔力がもたないし」
「ワタシは確信したよ。ふーちゃんは絶対に高みを目指せる、優勝はもらったも同然だよ~」
買ってきたおにぎりにパクつきながらマユ姉はそんなことを言っている。
「吹雪の次の対戦者は……後藤さんだね」
「さっき、オレの屍を越えていった先輩だな。手強いぜ、注意しろよ、吹雪」
「まあ、そのつもりではいるけどよ」
お前の屍を越えたから強いんじゃなく、もとから実力者なんだと思うが。三年連続でこの大会に出場しているわけだし。
「でも、後藤選手は確かに今大会の中でかなりの力を持っているみたいだよ」
「そうなのか?」
「うん、生徒会で仕事してるときに、そんな話を耳にしてね。カホラ先輩は知ってますよね?」
「ええ、三年生間では、結構注目されてたみたいだったわ。何と言っても皆勤賞だもんね。一年生の頃から善戦してたみたいだし、経験豊富だからね」
「翔が負けるのは必然ってことだね」
「ぐほっ、祐喜、人が気にしてることを。気だけに振舞ってるけど、結構くやしかったんだぞ」
「だってさ、いくら勝つ気があったとしたって、攻撃魔法一つもできないのに勝てるわけないじゃん。跳ね返して攻撃しようとでも思ったの?」
「うっ……」
「今回で分かったでしょう? やる気だけじゃ、どうにもならないこともあるってこと。後、勝てもしないのに、下心も持つものじゃないよ」
「うう、言い返したいけど言い返す言葉も」
祐喜、すごいな。あんなはっきりと、さすがは生徒会だ。――というよりだ。
「祐喜」
「ん? 何だい吹雪」
「翔にバリア系の魔法を教えたのって、お前なのか?」
「まあ、そうなるかな」
やっぱりか。
「翔に泣きつかれてさ、何でもいいから教えてくれって」
「だから、バリアか」
「長く生き残るためには、あれが一番のはずだからね。攻撃できないから、勝ち目はゼロだって教えたけど、それでもいいって言い出してさ」
「き、奇跡が起きるかもしれないじゃないか」
「そんな何回も奇跡が続いたらそれもう奇跡じゃないでしょう」
「うぐ……」
「でも、ちょっとびっくりしたな。翔くんが魔法使ってたから」
「須藤、それってどういう意味だよ……」
「それ俺も思ったぜ。てっきり一つもできないものだとばかり思ってたからよ」
「ワタシも~」
「確かにそうね」
「み、みんなして、ひどいよ……う、うわあああっ」
翔は泣き崩れた。
「にしてもマジックバリアか、それを二日で教えるなんてすごくないか? 祐喜」
「こんなこと言っていいのか分からないけど、ちょっとだけ細工をしてたんだよね」
「細工?」
「うん、僕の魔力を、翔に分け与える魔法」
「なるほど。魔力が増大していたから、翔でも成功したってわけか。じゃあ魔法を使ったのは翔っていうよりは祐喜じゃないか」
「そう、なるのかな?」
「なるなる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。確かに祐喜に魔力は分けてもらったけど、オレ、頑張って詠唱したんだぜ。だから、そこまで言わなくてもいいじゃない? オレなりに結構頑張ったんだぜ」
「でも、使ったのは祐喜の魔力じゃないか」
「それは、そうだけどさ……」
「次は、祐喜に頼らずとも使ってみせてみろ。そしたら、認めてやる」
「うう、吹雪がいじめる」
「祐喜に出してもらっただけいいじゃないか。本来なら、魔法を使えない奴は出場できないんだぜ」
「ご、ごもっともです。チクショー、来年は魔法を使えるようになって再挑戦してやる!」
こいつ、やっぱり本能で生きてるんだな。
まあ何にしてもだ、次も全力で行こう。そのためにも、ここでエネルギーを充填しておかなければ。
俺はしっかりと昼食を食べた。