マルカート(6)
[カホラ]:「チームワークも大事な力になるわけだから、この期間を使ってもっとみんなのことを知らないといけないわね」
[繭子]:「じゃあ、一緒にお風呂入らないとダメだね」
[フェルシア]:「……どうしてそこにつながるの? マユ」
[繭子]:「泊まり込みって言ったらお風呂でしょう? 前からしゃべりたかったあの子やこの子とお近づきになる最大のチャンス。レッツ・バスタイム!」
[フェルシア]:「……さっき学園長が言ってたでしょう? この学園には湯船はなくて、シャワーしか設置されてないって」
[繭子]:「うん、知ってるよ。だから、一つのシャワーに二人で入るの」
[聖奈美]:「む、無理ですよ。一つ一人しか入れないようにできてるものですよ、ああいうのは」
[繭子]:「そういうのは、気の持ちようだよ聖奈美ちゃん。人間成せば成るようにできてるものだから」
[聖奈美]:「そんなことに全身全霊を注ぐ必要性はないんじゃ……」
[繭子]:「でも、ワタシはみんなと仲良くなりたいから。ダメかな?」
[聖奈美]:「ううっ……」
マユ姉の子供のような純真な眼差しに少々返答が躊躇われているようだ。そろそろ止めるか。
[繭子]:「あいたっ!?」
[吹雪]:「そのへんにしとけ。仲良くなりたいって思ってるなら、そんなくだらないことで端に追い込んでるんじゃねぇよ」
[繭子]:「ええ~くだらないことじゃないよ~ワタシは本気だよ~」
[吹雪]:「そんなことしなくたって、仲良くなる方法なんていっぱいあるだろう。もっと頭使って考えろ」
[繭子]:「ぶーぶー」
[吹雪]:「反対意見は受け付けん」
[繭子]:「うう、仕方ないな~」
マユ姉はほっといて、いまのうちに聞いておこうか。
[吹雪]:「なあ、今日の夕食を担当してくれる人は誰なんだ?」
[舞羽]:「あ、はい。私です」
舞羽が片手をぴっとあげた。
[吹雪]:「買い物係の俺としては、何を買ってくればいいかを教えてくれるとありがたいんだが」
[舞羽]:「あ、そっか。そうだよね」
[吹雪]:「まだ何を作るか決まってないのか?」
[舞羽]:「うん、選択肢は色々あるから」
[フェルシア]:「さすが、料理が得意な人が言えるコメントね」
[舞羽]:「え、そういう意味で言ったわけじゃ」
[繭子]:「すごいな~、ワタシなんて料理の選択肢なんて存在しないのに~」
[フェルシア]:「できる子だものねー、舞羽ちゃんは」
[繭子]:「……何か言い方に引っかかりを覚えたのは気のせいかな~?」
[フェルシア]:「気のせいでしょう?」
[吹雪]:「どうする? 舞羽よ」
[舞羽]:「うーん、そうだねー」
[吹雪]:「そういえば、家庭科室の冷蔵庫は使用しても大丈夫なんですか?」
[フェルシア]:「ええ、大丈夫よ。いつもは授業がない時はコンセントを抜いておくんだけど、今日のために予め入れておいたわ。いつでも食材を保存可能よ」
[吹雪]:「それはよかったです」
[聖奈美]:「そうなると、なるべく食材は買いためて余ったものを使いまわしていったほうがよさそうね。食費はなるべく抑えておかないと」
[フェルシア]:「あ、ちなみに食費は5万円預かってあるわ。足りなくなった時は常時連絡を。でもなるべくならこの予算で抑えてほしいと言っていたわ」
[吹雪]:「そのお金って、学園長のですよね?」
[フェルシア]:「おそらくね」
[聖奈美]:「節約を常に念頭においていきましょう」
[カホラ]:「コンセプトは、安くてお腹いっぱいってところかしら?」
[舞羽]:「そうですね、……じゃあ、吹雪くん」
[吹雪]:「おう」
[舞羽]:「吹雪くんのお任せで、食材を買ってきてくれないかな? なるべく色んな料理に使用可能で、長期保存が可能なものを中心で」
[吹雪]:「そんなアバウトでいいのか?」
[舞羽]:「作る料理は、買ってきてくれた食材によって決めるよ。夕食までにいくつかのメニューをイメージしておくから」
[聖奈美]:「須藤さん、そんなに大久保に頼って大丈夫なの?」
[舞羽]:「うん、問題ないよ。吹雪くんは男の子だけど、すごく買い物慣れしてるから。目利きはかなりの腕前だよ」
[繭子]:「人呼んで、半額ハンター」
[聖奈美]:「そ、そうなんですか?」
[繭子]:「ううん、思いついたから言ってみたの」
もちろん俺も初耳だ。
[舞羽]:「信頼していいと思うよ」
[聖奈美]:「そういうなら、信じましょう」
[吹雪]:「じゃあ、何円分買ってくるといいかな?」
[舞羽]:「じゃあ、とりあえず5000円分くらいかな?」
[吹雪]:「うん、了解した」
なるべく安くて使い回しができて、長期保存が可能なものか。忘れないようにしよう。
[カホラ]:「さあ、そろそろ練習に行きましょう」
[聖奈美]:「頑張らないと」
みんなやる気満々だな。俺も頑張らないと。
そして今日も練習が始まる。