マルカート(4)
[場所:社会科室]
[セフィル]:「――ここが、しばらく君たちの寝床となるところだ」
案内されたのは、社会科教室だった。
[セフィル]:「広さ、暖房器具、料理をする時に利用する家庭科室からの近さ、その他諸々の条件を一番満たしているのがこの教室だったから、みんなにはここを利用してもらうことにする。よろしいかな?」
全員が首を縦に振った。
[セフィル]:「夜までに、ここに布団を導入してもらう予定だ。誰とどんな風に寝るかは君たちの自由だ。自分のお気に入りポジションは今のうちに確保しておくといい」
[聖奈美]:「あの、学園長、一ついいでしょうか?」
[セフィル]:「何だ? 聖奈美」
[聖奈美]:「この中に一人、異性が混じっていることはお忘れではありませんよね?」
……明らかに俺のことだな。
[セフィル]:「うむ、お忘れではないぞ」
[聖奈美]:「寝る時も、あたしたちは大久保と和気藹々しなければいけないんですか?」
[セフィル]:「何だ? イヤなのか?」
[聖奈美]:「親しき仲にも、です。いくら仲の良い異性でも、就寝場所は違うじゃないですか?」
[セフィル]:「それはつまり、聖奈美は吹雪を男として意識してしまって寝るどころの話じゃない、ということか?」
[聖奈美]:「なっ――!? ち、違います! そんなことは全くありません!」
すごい剣幕で学園長の言葉を否定した。
[聖奈美]:「ど、どうしてあたしが大久保を意識しなくちゃいけないんですか? 大久保のことなんて、毛ほども意識してません」
随分な言われようだな。
[聖奈美]:「あたしはあくまで、一般的な意見を言ってるだけです!」
[セフィル]:「――ということだが、みんなはどうなんだ? 吹雪と同じ場所で寝るのは嫌か?」
[繭子]:「ワタシは全然平気だよ~、姉弟だし、昔はよく一緒に寝てたから~」
[舞羽]:「吹雪くんは、一般的なマナーをわきまえてるはずだから、特に問題はないと思うけど」
[カホラ]:「でも、どうしたって男の子に変わりはないのよねー。私はどっちでもいいわよ」
[セフィル]:「ふむ、吹雪は女性からの評価が高いようだな」
[吹雪]:「大半が顔見知りですからね」
そのうち二人は家族のようなものだ。
[吹雪]:「だったら、こういうのはどうだ? 杠」
[聖奈美]:「何よ?」
[吹雪]:「お前は、寝てる時に俺の顔がチラつくのが嫌なんだよな?」
[聖奈美]:「い、嫌っていうか……その、やっぱり、気になるわよ」
さっきはあんなに否定していたのに、結局気になってるのかよ。まあいい。
[吹雪]:「だとしたら、これでどうだ?」
俺は部屋の奥のほうにあったカーテンを引いた。
[吹雪]:「これだったら、俺の姿は見えないしいいだろ? 常にここに居ろっていうのはさすがに寂しいから寝る時だけにしてくれると嬉しいが。どうだ?」
[聖奈美]:「……いいの?」
[吹雪]:「だって、じゃないと寝れないんだろ?」
[聖奈美]:「ね、寝れなくはないわよ? ないけど……」
[吹雪]:「なら、こうしようぜ。これで解決」
[聖奈美]:「あ、ありがと」
顔を背け、小さな声でそう呟いた。