マルカート(3)
……こんな会話、杠とかの前でしてたら殺されるだろう。これは、舞羽だから許されるものだ。
[吹雪]:「心配するな、見ようなんて思ってないから。そういうのは、記憶の大事な奥底に閉まっておくのが一番のはずだからな」
[舞羽]:「う、うん。ありがとう?」
[吹雪]:「いやいや、気にすることはない」
むしろ、ありがとう言わないのは俺のほうかもしれない。
[繭子]:「ふーちゃーん、雪降ってきたよ~」
[吹雪]:「あれ? マジか?」
空を仰いだ直後、白い結晶が俺の眼球に滑り込んできた。
[吹雪]:「うっ! くそ、やられた」
[舞羽]:「あははは、あっ!?」
横で同じように目を抑え込む。
[舞羽]:「うう、やられたよ……」
[吹雪]:「自分は大丈夫と思いこむ、その油断が命取りになるぞ」
[舞羽]:「うん、今身に染みて感じてるよ」
[繭子]:「あはは、二人ともおもしろいね~」
[吹雪]:「油断してると、マユ姉も同じことになるぞ」
[繭子]:「大丈夫~、ワタシは二人より年上だから~」
[舞羽]:「年上とか全く関係ないと思うんだけど……」
[吹雪]:「まあ、聞き流してやってくれ」
[舞羽]:「う、うん……積もっちゃうかな?」
[吹雪]:「予報ではどうだったんだ?」
[舞羽]:「降るとは言ってたけど、積もるとは言ってなかったような気がする」
[吹雪]:「まあ、神のみぞ知るって感じか? 積もったら積もったでいつもと違う風景が見えていいんじゃないか? 別に嫌いじゃないだろ? 雪」
[舞羽]:「うん」
[吹雪]:「風情を楽しもうぜ」
[繭子]:「えーい!」
[吹雪]:「わぷっ!」
[繭子]:「わーい、当たった~。オリジナル変化球、“マユーン”」
このチビ介は、風情を欠片も分かってないようだ。
[舞羽]:「うっすらだけど、積もり始めてるみたいだね」
[吹雪]:「よーし、もう1球」
[繭子]:「そうは、させるか!」
[吹雪]:「にゃああっ!?」
俺はマユ姉の額に雪球をぶつけた。
[繭子]:「うう、痛冷たい」
[舞羽]:「新しい単語だね」
[吹雪]:「思い知ったか、ちんちくりんが」
[繭子]:「何~? なりたくてこうなったんじゃないんだぞ~?」
[吹雪]:「ふん、そんなの理由にならんわ。首を洗って出直して来い」
[繭子]:「むむ、負けるもんか。我の本当の力、今こそ見せてやる」
何だ、そのありきたりの展開は……。
[繭子]:「とりゃあっ!」
[吹雪]:「喰らうかよ! そらっ!」
――結局、登校するまでの間、マユ姉の雪合戦に付き合う羽目になった。