アレグロ(4)
「――では、四試合目行ってみましょう。加藤洋(一年生)VS大久保吹雪(二年生)の対決です。成長著しい一年生の加藤選手が勝つか、それとも、学園で噂になっている『杠の刺客』大久保選手か。注目の対決です」
いざこの場に自分が立たされると、結構緊張するな。何にしても、全力を尽くすのみだ。
「はーい、みんないくよ? せーのっ!」
「フレー、フレー、ふ・ぶ・き!
はい、フレ、フレふぶき、フレ、フレふぶき、ワー!」(クラスメイト)
「ふーちゃーん、頑張って~、負けちゃダメだよ~」
「おーっと、クラスメイトと担任教師の直々の応援、大久保選手にはかなりの期待が寄せられているのが伺えます」
応援は素直に嬉しいが、これで負けでもしたら赤っ恥もいいところだ。これは、負けられない、いや、負けることができない。それに、よく目を凝らしてみれば――、
「…………」
杠がこちらをじーっと見てやがるし。シードだから俺の動きやら何やらを研究しておこうとでもしてるんだろうか? 何にしても、だ。結局のところは、ここで負けることはできないってことだ。二回戦に駒を進めなければ。
「吹雪ー、オレの分まで頼んだぞー!」
いや、お前はどうだっていいって。
「吹雪ー、ファイトー」(先輩)
俺のモチベーションはかなり上昇している。
「さあ、注目のカード、いってみましょう! レディー・ゴー!」
「行きますよ、先輩」
「望むところだ」
互いにあいさつを交わしたところで試合開始だ。
「エル・エルファードゥス。水の精霊よ、我を包み込みたまえ」
実を固めてからってことか。なら、俺は――。
「炎の精霊よ、我に力を与えたまえ」
自らをブースト状態にして、魔法の威力アップを図る。
「行きます、エル・エルス・水の精霊よ、我に力を与えたまえ、ウォータードラゴン!」
加藤がそう唱えると、その名の通り、竜の形をした水がこちらに向かって襲いかかってくる。
初めから、なかなかの大技を使ってくるな。短期決戦で勝負をかけようとしているのか。水、それならこっちは――、
「エル・エルファクス、大地の精霊よ、我の絶対的盾となれ」
これで、加藤の攻撃は防げる。…………。
「く、やりますね」
「大久保選手、見事に加藤選手の攻撃を防ぎきりました」
「いいぞー、ふーちゃん、その調子~」
「吹雪くーん、頑張ってー」
よし、それなら今度は、俺からいかせてもらおう。
「エル・エルファンディウス、炎の精霊よ、我に力を与えたまえ。クロスフレイム!」
指を交差させて強く念じると、十字型の炎が加藤めがけて一直線で飛んでいった。
「大久保選手の攻撃が炸裂、加藤選手、どう出るか!?」
「炎には水です。ウォーターウォール!」
現れた水の防壁に、俺の技は消えてなくなってしまう。
なるほど、加藤は水系の魔法に長けているわけか。補助系も場面に応じて使い分けていて、一年生と言えど実力はかなりあるようだ。だとすれば、炎系の魔法は使うべきじゃないな。戦略を変えていこう。
「加藤選手、見事に大久保選手の攻撃を防ぎました」
「ふーちゃーん、もっと攻めて攻めて~」
うるさいな、応援するのはいいが、集中を途切れさすようなことは言うなよ。
――よし、なら次だ。
「いくぜ。――エル・エルフィシャス、雷よ、我に力を与えたまえ、ライトニングジュエル!」
俺の両手から、雷の玉が発射される。水には電気、属性的に、これは相性がいいはずだ。
「くっ……」
加藤は走りながら攻撃を交わしていく。俺は攻撃を続けながら加藤を追いかける。
「大久保選手の攻撃の嵐、加藤選手はこれを防ぐことはできるのか!?」
「ふーちゃーん、そのまま押しちゃえ~!」
「水の精霊よ、我に力を与えたまえ、アクアブースト!」
守りを固めてきたか、……この場面じゃ、まだあの技は使わないほうがよさそうだ。ここは押すのみ。
「――エル・エルフィデス、雷よ、我に力を与えたまえ。――ボルトブレーブ!」
「雷系の強力な魔法が加藤選手に襲い掛かる!」
「くそ……このままじゃあ」
加藤に焦りが見え始めているようだ。
「水の精霊よ、我に力を――ウォーターウォール!」
水の防壁が目の前に現れる。しかし、水に対して雷は相性がいい。力で破壊することは、果たして可能か? ……やってみなくちゃ分からないな。
もう一度だ!
「ライトニングジュエル!」
連射系の魔法でシールドの消失を狙う。
……………………。
…………。
……。
ピシッ。
「ま、まずい……」
どうやらシールドの耐久力が落ちてきているようだ。よし、これでトドメだ。もう一度、あの技をお見舞いする。
「ボルトブレーブ!」
――衝撃波が、水の防壁を突き破った。
「うわああっ!?」
加藤の体は衝撃で後退し、体勢を崩す。俺はその隙に加藤に自分の身を近づけた。そして立ち上がる前に――。
「…………」
「く、完敗です」
「大久保選手の勝利です。加藤選手を破り、見事二回戦に駒を進めました!」
「ふーちゃーん、わー!」
「おめでとう、吹雪くーん!」
「吹雪―、愛してるぜー!」
いや、今のはおかしいだろう。
「さすがですね、全然歯が立ちませんでしたよ」
「いや、今回は相性だろう。お前の実力は確かなはずだ」
「大久保先輩にそう言っていただけると、俺も嬉しいです。この調子で、さらに上を狙ってくださいね」
「ああ、サンキュー」
加藤と俺は、握手を交わした。