嫁き遅れ公爵令嬢と、初恋を拗らせた大公殿下の契約結婚(※溺愛には気がつきません)
「コーデリア、僕と契約結婚しないか?」
あまりにも唐突な言葉に、コーデリア・グランフォードは動きを止めた。手にしていたグラスの中で、繊細な泡を立ち上らせる淡い金色のワインが、かすかに揺れる。
その日、王宮では盛大な祝賀会が開かれていた。国王夫妻の嫡男である第一王子が、十六歳の誕生日を迎えたのだ。
この国では、王子は十六歳で成人の儀を迎えて初めて、正式な王位継承者となる。それまでは、王弟ヴィンセント・アルセリオンが暫定王位継承者を務めていた。
今日を境に、第一王子は王太子となる。そしてヴィンセントは、暫定王位継承者としての役目を終える。
祝賀会では、貴族たちが次々と王太子へ祝辞を述べていた。そんな華やかな会場から離れた、控室の一室。
呼び出されたコーデリアは、目の前に座る幼馴染――ヴィンセントを見つめたまま、手にしていたグラスを置いた。
「……ヴィンセント殿下。今、何と?」
「契約結婚をしないか、と言ったんだ」
ヴィンセントは、銀縁眼鏡の奥の、宵闇のような紫色の瞳を穏やかに細めていた。艶やかな黒髪も、端正な顔立ちも、いつもと変わらない。だが今日は正装に身を包んでいるせいか、普段にも増して人目を惹いている。
「祝賀会の最中に、突然呼び出されたかと思ったら……」
コーデリアは困惑したように眉を寄せた。
「からかっていますか?」
「まさか。僕は本気だよ」
その言葉に、コーデリアは小さく息を吐いた。
ヴィンセントとは、四歳からの付き合いだ。気づけば、出会ってからもう二十五年になる。幼馴染として、友人として、互いの人生を見てきた。だからこそ分かる。ヴィンセントはいつものように涼やかな笑みを浮かべてはいるが、冗談を言っているわけではない。
「国王陛下が、僕に早く結婚しろとうるさくてね」
「それは……大公殿下ともなれば、当然でしょうね」
暫定王位継承者としての役目を終え、ヴィンセントは新たに大公位を賜った。縁談が押し寄せるのも当然だろう。もう二十九歳だというのに、これまで婚約すらしていなかったのが不思議なくらいだ。
その理由は、余計な王位継承争いを避けるためだと、ヴィンセントは説明していた。第一王子が正式に王太子になるまでは、結婚を避けていたのだという。そして今、その心配をする必要もなくなった。
「これから、縁談はますます増えるでしょうね」
「すでにうんざりするほど来ているよ」
ヴィンセントは、ため息をつきながら肩をすくめた。
「僕としては、ひとつひとつ丁寧に断るくらいなら、妻がいることにしてしまったほうが早いと思ってる」
「……それで、契約結婚ですか」
「そう。僕には、縁談を穏便に断るため、妻が必要なんだ」
そこでヴィンセントは、一度言葉を切った。紫色の瞳が、まっすぐにコーデリアを見つめてくる。
「きみだって、結婚を考える必要はあるんじゃないか?」
「…………」
コーデリアは、返す言葉に詰まった。
王家とも縁が深い名門公爵家の長女であるコーデリアも、今年で二十九歳になる。縁談は数え切れないほどあった。けれど、そのすべてを断ってきた。
理由はひとつ。コーデリアは幼い頃から、騎士になることを夢見ていた。そして今、その願いは叶い、王国騎士団の第六師団長を務めている。
貴族の妻となれば、社交の場に出ることが求められる。師団長としての務めと、貴族の妻としての務め。その二つを両立させることは、現実的には難しい。少なくともコーデリアにとっては。
「父も母も、今でも諦めずに、私に結婚しろと言っています」
「だろうね」
「ですが、私は騎士を辞めるつもりはありません」
第六師団は、北部の防衛を任されている。魔物の討伐に加え、国境の警備にもあたっており、王都に戻れる日は多くない。
その生き方に、コーデリアは誇りを持っていた。公爵家を継ぐのは、弟がいいと思っている。経営にも明るく社交も得意で、コーデリアよりずっと向いている。
「うん。だから、僕と結婚すればいい。そうすれば、公爵夫妻も納得するだろう」
「ですが、それでは騎士を――」
「辞めなくていい」
「え?」
「僕は、きみに騎士を辞めてほしいなんて、絶対に言わない。きみはこれまで通り、北の防衛任務を続ければいい」
ヴィンセントは、まるで仕事の契約条件を説明するように淡々と言った。
「僕に必要なのは、縁談を断るための妻。きみに必要なのは、騎士を続けるための結婚」
そして、穏やかにほほえむ。
「互いに利害が一致していると思わないかい?」
確かに、その通りだった。コーデリアにとっては、これ以上ないほど都合のいい話だ。
それでも答えを出せずにいるコーデリアに、ヴィンセントは少しだけ眉を下げた。
「……覚えているかな。十六歳のときも、僕はきみに言ったよね。結婚について」
コーデリアの記憶が蘇る。春風に花びらが舞う王立学院の庭園で、ヴィンセントは言った。
『コーデリア、僕と結婚しないか?』
当時は先代国王の在位中で、ヴィンセントは第二王子だった。公爵家のコーデリアなら、第二王子妃にふさわしいと考えられていたことは、コーデリアも自覚していた。公爵家にもコーデリアにも、王位への野心がないことも、信頼されてのことだろう。
だが彼と結婚すれば、王族としての公務や社交に追われることになる。騎士として生きたいと願っていたコーデリアに、その未来を選ぶことはできなかった。
「もちろん、覚えています。私は、お断りしました。騎士になりたかったので」
「うん、分かってる。あの時の僕では、騎士を続けても大丈夫とは言えなかった。でも、今は違う」
ヴィンセントは、真剣なまなざしで続けた。
「大公になって、僕自身の裁量で動ける範囲がかなり広がった。きみを公務で縛ったりはしないよ。今まで通り、北にいていい」
「……そう、ですか」
コーデリアは少し視線を落として考えた。
二十九歳の自分は、社交界ではとうに「嫁き遅れ」と囁かれているのを知っている。自分の選んだ道に後悔はないが、公爵家に生まれた以上、家のために相応しい相手と婚姻することも、自分の役目のひとつだとコーデリアは理解していた。それを果たせずにいることを、申し訳なく思っていたのも事実だ。
騎士を続けられる。公爵家の娘として、結婚という責任も果たせる。そして相手は、自分をよく知る幼馴染。コーデリアにとって、断る理由はなかった。
コーデリアは顔を上げた。
「分かりました。提案を受けます」
その瞬間、ヴィンセントの表情がぱっと明るくなった。
「本当に?」
「はい」
「……良かった」
ヴィンセントは嬉しそうに目を細めた。こんな表情を見るのは随分久しぶりだなと、コーデリアは思った。大人になって、お互いに無邪気に笑うことは少なくなった気がする。
「ありがとう、コーデリア」
「いえ、私のほうこそ。ありがとうございます」
「結婚したら、僕も北へ行くから」
ヴィンセントが当然のことのように言ったので、コーデリアは驚いた。ヴィンセントに与えられた大公領は、王都のすぐ南だ。
「国王陛下は、ヴィンセント殿下がそばにいることをお望みなのでは?」
「国王陛下の周りには、もう十分に人材がいるよ。僕だって、しばらく王宮を離れてゆっくりしたいんだ」
「大公領はどうするのですか。ヴィンセント殿下には魔導研究所の所長という立場もあるでしょう」
「領地は信頼できる人間に任せているし、定期的に戻るから大丈夫。仕事は、魔導具を使えば遠隔で指示を出せる」
ヴィンセントは何でもないことのようにさらりと言った。
「ですが……」
「北には、きみの屋敷があるだろう?」
「はい」
「そこに、僕も住まわせてもらえないだろうか?」
コーデリアは驚いて、すぐに返事ができなかった。だが、少し考えてみれば、結婚するのなら一緒に暮らすのは当然であろうし、王国のため尽力してきたヴィンセントが、ゆっくりしたいと思う気持ちも分からなくはない。
「……私は騎士団にも部屋があり、屋敷に戻らないことも多いですが」
「構わない」
「生活時間も不規則で、ヴィンセント殿下の時間に合わせられないと思います」
「問題ないよ」
「北は王都より寒いですよ」
「知ってる」
心配など何もないと、ヴィンセントのまなざしが語っていた。
コーデリアは小さく息をついてうなずいた。
「……分かりました。部屋は余っていますので、好きに使ってください」
「ありがとう、コーデリア」
「では、父と母に報告しておきます。後日、正式に使者を送っていただけますか」
「ああ、もちろん。すぐにでも」
ヴィンセントは、満足そうに美しくほほえんでいた。
◇――◇――◇
ヴィンセントは笑顔を保ったまま、コーデリアが祝賀会へ戻るのを見送った。
扉が完全に閉じると、ヴィンセントは息を吐き出した。
「……よし」
「よし、ではありませんよ」
背後から即座に届いた呆れ声に、ヴィンセントは振り返る。そこには、心底残念そうな顔をした補佐官のルーク・コナーが立っていた。二十五歳になるルークは、成人して以来ずっとヴィンセントに仕え、今では主席補佐官になった。
「普通に告白すればいいのに、どうして理屈っぽく契約結婚だなんておっしゃるんですか」
ヴィンセントの計画を初めて聞いた時も、ルークは「普通に告白したほうがいい」と言っていた。それができるならそうしていると、ヴィンセントはむっとした顔で答えた。
「無理だ」
「なぜですか」
「一度フラれている」
「当時のこともお聞きしましたけど、その時もご自身のお気持ちを伝えてませんよね」
「結婚しないかと言った」
「好きだと言ってないですよね」
「…………」
「グランフォード師団長に、伝わっているとは思えません。第二王子妃として必要な人材だから求婚された、くらいにしか思われてなかったのでは?」
「…………」
それは、十分にありえる話だった。求婚の前後でコーデリアの態度は何も変わらず、淡々としていた。あったのは、せっかくの話を断って申し訳ないという感情くらいだろう。
何も言えないでいるヴィンセントに、ルークは遠慮なく続ける。
「殿下は何事においても素晴らしい成果を挙げていらっしゃるのに、グランフォード師団長のことになると、致命的なまでに臆病になりますね」
「……臆病にもなるさ。コーデリアはずっと、高嶺の花だ」
ヴィンセントはテーブルにあったグラスに手を伸ばした。気泡が弾けるワインを口にしながら、コーデリアのことをルークに語って聞かせた。
ヴィンセントがコーデリアと出会ったのは、四歳の時だ。王宮で開催された園遊会で初めて目にした少女は、淡い金髪と、澄み渡るような空色の瞳を持ち、まるで妖精のように愛らしかった。幼いヴィンセントは、一目で心を奪われた。
だが彼女がヴィンセントを虜にしたのは、可憐な見た目だけが理由ではない。
魔力洗礼の儀において、コーデリアは希少な光属性の魔力を宿していることが判明した。しかも、極めて膨大な魔力量だった。誰もが、コーデリアは将来、人々を癒す聖女になるのだろうと期待した。
その後、王立学院に入学して、ヴィンセントもコーデリアが自分と一緒の魔導科に進むものだと思っていた。
ところがコーデリアが選んだのは、武器を手にして戦う騎士科だった。衝撃を受ける周囲をよそに、コーデリアは「将来は、騎士になりたいから」と当然のことのように言った。そしてその道で、類稀なる才能を発揮していった。
今でも鮮明に覚えている。魔導科と騎士科の合同演習でのことだ。
校外での演習中、想定外の強力な魔物に遭遇し、一隊が窮地に陥った。颯爽と駆けつけたのは、可憐なコーデリアだった。
コーデリアは光魔法を発動し、負傷した全員を一瞬で完治させた。その圧倒的な魔力と神々しい姿に、生徒たちはやはりコーデリアは聖女なのだと歓喜した。
しかしコーデリアは、聖女らしくほほえむことなどしなかった。冷ややかに、むしろ怒気さえ感じさせる様子で、言い放ったのだ。
『何を呆けているのですか。さっさと立ち上がり、戦いなさい』
そして彼女は、手にしたメイスで魔物を殲滅していった。無表情に返り血を浴びるコーデリアの姿に、生徒たちは恐怖に顔をひきつらせながら、慌てて武器を握りなおして立ち上がった。
「コーデリアはいつも、強く気高く美しい」
崇めるように言ったヴィンセントに、ルークは引きつった顔で肩をすくめた。
「グランフォード師団長は、物理最強ですよね。光魔法でどこまでも耐えられますし。ですがあれほど実力があって、どうして王都を守る第一師団を希望せず、辺境の第六師団にずっといらっしゃるのですか」
「王都と違って、北は魔物が相手だから、手加減をしなくていいと言っていた」
「怖っ」
「コーデリアは唯一無二なんだ。だから僕が北へ行く。お前も一緒だ」
「……はあ」
あからさまに嫌そうなルークのため息を無視して、ヴィンセントはグラスを置いて立ち上がった。
「国王陛下に伝えてくる。グランフォード公爵家に使者を送る準備を整えておいてくれ」
「祝賀会の最中ですよ。終わってからになさっては?」
「耳打ちだけだ。話せるときに話しておかないと、時間が取れない」
ヴィンセントは足早に祝賀会へ戻った。
◇――◇――◇
コーデリアの予想よりもずっと早く、婚姻の準備は整えられていった。
二十九歳の嫁き遅れの娘が、ヴィンセントというこの上ない相手と結婚することを、両親は心から喜んだ。忙しいからとすぐに北部へ戻ったコーデリアに代わって、王都での準備は両親が進めてくれた。
ヴィンセントから渡された魔導具で連絡は取っていたが、基本的には任せていいと言われ、あとは指定された日に、王都へ戻るだけだった。
王都の大聖堂には、大勢の参列者が集まっていた。高い天井からは色鮮やかなステンドグラスの光が差し込み、祭壇まで続く白い花々が、祝福するように静かに揺れている。
コーデリアは支度をしている間も、何度となく自分ではない誰かを見ているような気分になった。
普段身につけているのは、動きやすさを最優先した騎士服か、戦闘に向かう際の甲冑だ。今日の純白のドレスの裾は長く、輝く白い糸で繊細な刺繍が施され、その上にはいくつものダイヤモンドが散りばめられている。社交の場で身につけるドレスよりも、また一段と動きづらい。
不思議と、緊張はしていなかった。相手がヴィンセントだからだろう。しかもこれは契約結婚だ。気負う必要などないと思っていた。
やがて、大聖堂の扉が開き、その先に立つヴィンセントを見て、コーデリアは一瞬視線を止めた。
白を基調とした正装に身を包み、艶やかな黒髪は綺麗に整えられている。眼鏡の奥で輝く紫色の瞳は、深く美しい。今日のヴィンセントは、いつにも増して息を呑むほど素晴らしかった。
コーデリアは小さく瞬きをして、隣でエスコートをしてくれる父とともに、ヴィンセントのもとへと向かった。
祭壇の前で、ヴィンセントがほほえんだ。いつもの穏やかな笑み。今日はなぜか少しだけまぶしく感じる。
大司教の前で誓いの言葉を交わし、指輪を交換する。やがてヴェールが上げられ、額に柔らかな唇が触れる。その瞬間、周囲から歓声が上がった。
◇――◇――◇
長い祝宴が終わり、大公邸へ戻った頃には、夜がすっかり更けていた。
「疲れただろう、コーデリア」
「そうですね。さすがに少しは」
ヴィンセントの部屋に通され、コーデリアはソファに腰を下ろした。ヴィンセントから差し出されたグラスを受け取ると、中には冷たい水が注がれていた。
「ありがとうございます」
一口飲むと、コーデリアは静かに息を吐いた。これで、ひとつ肩の荷が下りた。
「ヴィンセント殿下」
「ヴィンセントでいいよ、コーデリア」
「……では、ヴィンセント様」
「ヴィンセントでいいのに。まあいいか。何だい、コーデリア」
「私は明日、北へ戻ろうと思います」
「……明日?」
ヴィンセントが瞬きをした。
「はい。私がこちらで、他に何かするべきことがあるのなら、予定を変更しますが」
「いや、それは特にないけど……」
「問題はありませんか?」
「……うん」
「ありがとうございます。では私は、先に戻ります」
「明日、僕も行くよ」
「いえ、ヴィンセント様は後からでも――」
「一緒に行く」
「……そうですか? では、そうしましょう」
「うん」
「それと確認したいことがあるのですが、こちらでも私の屋敷でも、部屋は別々ということでよろしいですよね?」
するとヴィンセントは、手にしていたグラスをトンと机に置いた。固まったように何も言わない。
「私たちは契約結婚です。ヴィンセント様に必要なのは、縁談を断るための妻。ヴィンセント様は、国王陛下と王太子殿下を支持されている。そうですよね?」
「……そうだね」
「王位継承争いを避けるため、これまで結婚しなかったんですよね?」
「うん……まあ……」
いつになく歯切れの悪いヴィンセントを、コーデリアは不思議に思った。騎士団では駆け引きなど行わず、簡潔なやり取りに慣れているせいか、コーデリアは無意識に少し眉間に皺を寄せる。
「王位継承争いを避ける――つまり、王太子殿下がご結婚されてお子を成され、次世代の王位継承が安定するまでは、ヴィンセント様はお子を成すつもりはない、ということですよね?」
「……いや、うん……確かに、後継者争いを避けるとは言った。言ったけど――」
「けど?」
「その……大公家の後継者について、何も考えてないわけじゃないというか……」
「もちろんです。王太子殿下の地位が安定し、大公家について改めて考える時が来たら、もう一度話し合いましょう。それが何年後かにもよりますが……年齢的に、私ではご期待に添えない可能性もあります」
ヴィンセントの顔が青くなった。
「……それ、どういう意味?」
「私では無理でしたら、その時点で改めて適切な方を妻に迎えてください」
完全に固まったヴィンセントに、コーデリアは首をかしげる。
「ヴィンセント様?」
「……きみはいつも、冷静だね」
「そうですか? ありがとうございます」
コーデリアは置き時計を見る。
「そろそろ休みましょう。明日は早いです。では明朝、また」
「……うん、また」
笑顔がひきつったヴィンセントと別れて、コーデリアは部屋を出る。すると、廊下に控えていた侍女たちが驚いた顔をして礼をした。
「私の部屋に案内してくれる?」
侍女たちは一瞬顔を見合わせた後、黙ってコーデリアを案内してくれた。途中、ヴィンセントの補佐官であるルークに遭遇した。
「奥様。どちらに?」
「ああ、コナー補佐官。自分の部屋よ。明日は早いから」
「……恐れ入りますが、殿下は?」
「休まれる準備をされているのではないかしら。ヴィンセント様も明日、私と一緒に北へ向かうと言っていたから」
「明日ですか!?」
目を丸くしたルークの苦労を察して、コーデリアは苦笑する。
「ヴィンセント様まで無理に急ぐことはないと、あなたから言って大丈夫よ。調整がついてから王都を発てばいいわ。それじゃ」
「お待ちください、奥様。あの――」
「どうしたの?」
「……家臣の身でこのようなことを申し上げるのは大変に恐縮ですが、本日はご結婚後初めて迎えられる夜です。もう少し殿下と一緒に過ごされるのはいかがでしょうか」
ルークの言葉に、コーデリアはくすりと笑った。ルークが、ヴィンセントに長く仕えていることは知っている。主人を思いやる良い補佐官なのだろう。
「私たちは互いに利害が一致して結婚した。大公家の後継についても確認したし、今後状況が変われば、その時にはきちんと話し合うから、大丈夫よ」
「……そう、ですか。大変失礼いたしました」
「いいのよ。あなたもヴィンセント様と一緒に北に来ると聞いているわ。私の屋敷はこちらより狭くて申し訳ないけれど、歓迎するわ。これからよろしく」
「もったいないお言葉です」
「それじゃ」
頭を下げたルークに別れを告げて、コーデリアは侍女とともに部屋へ向かった。
◇――◇――◇
コーデリアが去った後、ヴィンセントは一人、しばらく呆然としていた。
静まり返った部屋の中で、テーブルに置かれた二つのグラスが目に入る。
ヴィンセントは深くため息をつくと、立ち上がってサイドボードに並んでいたウイスキーボトルを取り上げた。ソファに戻り、新しいグラスに澄んだ氷を入れて琥珀色の液体を注ぐと、それを一気にあおった。
「……はあ」
喉が熱くなる感覚に顔を歪めながら、二杯目を注ぐ。
「どうして……」
どうしてこうなった。
幼い頃からずっと好きだったコーデリア。コーデリア以外の女性と結婚するのはどうしても嫌で、十六歳でフラれて以来、もっともらしい理由を並べてはずっと結婚から逃げ続けてきた。王位継承争いがどうとかなんて、要するにフラれた後に作った単なる言い訳だ。国王はむしろ、早く結婚しろと言っていた。
そして今日、念願叶って、ついにコーデリアと結婚することができた。
式の最中、隣に立つコーデリアを見ているだけで胸がいっぱいになった。純白のドレスに身を包んだコーデリアは、それはもう美しかった。夢のようだった。
あれだけ幸福な気持ちに包まれていた結婚式から一転、こんな現実が待っていようとは。
コーデリアはどこまでも真面目で、合理的だった。ヴィンセントの提示した契約結婚を完璧に履行しようとしてくれているだけなのだ。自業自得だということは嫌というほど分かっていたが、胸を刺すようなショックはどうしようもなかった。
そのまま自暴自棄になって、三杯目の酒に手を伸ばしたところで、大きなノックの音が部屋に響き、そのままこちらの返事を待たずに扉が開いた。
「殿下。何をやっているんですか」
入ってきたのは、渋い顔をしたルークだった。書類の束を抱えたルークは、ヴィンセントの様子を見て、心底呆れたように言った。
「先程お部屋に戻られる奥様にお会いしました。奥様は、殿下とは大公家の後継についても確認したとおっしゃっていましたが。要するに、お子をもうける予定はないと、そういうことですか?」
「……うるさいな」
「このまま白い結婚でいくおつもりですか? それでいいんですか?」
「いいわけないだろう。コーデリアに触れたいし、抱きしめたいし、彼女との子どもだって欲しい!」
酒の勢いもあって、ヴィンセントはやけになって言い返した。ルークは一切の同情もない、冷ややかな目でヴィンセントを見下ろしていた。
「……殿下、一言よろしいですか」
「何だ」
「拗らせすぎて、ちょっと引きます」
「お前、ひどすぎるぞ」
「最初に好きだって言わないからこうなるんですよ」
「……分かってるよ」
ヴィンセントは呻くように答えて、酒を口に含んだ。ルークは持っていた書類を、荒々しい手つきでヴィンセントの執務机に置いた。
「それにしても、明日から北へ発つなんて無茶です。魔導具があるとはいえ、直接サインしてもらう書類も山ほど残っているんですよ」
ルークの悲鳴のような抗議に、ヴィンセントはグラスを弄びながら、平然とした顔で言った。
「必要なものは今日中に済ませる。お前は後から来てもいい」
「当たり前ですよ!」
間髪入れずに叫んだルークは、額を押さえて深々とため息をついた。
「殿下、北へ着いたらすぐにでも覚悟を決めてください」
「覚悟?」
「早めに、奥様に好きだって伝えてください!」
ルークはビシッと人差し指を立てた。
「いいですか? 殿下も恋愛に関してはまったく駄目ですが、奥様も大概疎いとお見受けします。いつまでも契約なんていう枠組みに収まっていたら、一生、このままの関係で終わりますよ」
そしてルークはその人差し指を、机の上の書類に向ける。
「今すぐ酒をやめて仕事をしてください。私も徹夜でお手伝いします。手当はいただきますからね!」
「……ルーク」
「何ですか」
「お前、後でちゃんと北に来てくれるな?」
「……はあ。ついて行かなかったら、殿下がますます駄目になりそうなので行きますよ。だから早く仕事をしてください! 私はこれから執事長と話をして、先に明日の準備をしてきます」
バタン、と勢いよく扉が閉められる。
残されたヴィンセントは、駄目駄目言われて暗い気持ちになりながらも、すっと立ち上がった。
まずは明日、絶対にコーデリアと一緒に出発する。そのためにも、今は仕事を片づけるしかなかった。
◇――◇――◇
北部、国境の街に位置するコーデリアの屋敷は、王都の大公邸や公爵邸に比べれば随分小ぶりではあったが、寒冷な気候にも耐えうる質実剛健な造りをしている。
その一室に足を踏み入れたコーデリアは、眼前に広がる光景に思わず動きを止めた。
部屋の中央にある執務机で、ヴィンセントは青白い光を放つ魔導具に囲まれていた。光の中には、何人もの姿が投影されている。魔導研究所の研究員たち、大公家の執事、そして王宮の官吏たち。それぞれが同時に話しかけているのに、ヴィンセントはよどみなくそれらを捌き、的確に指示を出していた。
コーデリアの気配に気がついたヴィンセントが、顔を上げた。
「コーデリア」
ヴィンセントがほほえみを浮かべる。
「おかえり」
「ただいま戻りました、ヴィンセント様。お仕事の邪魔をしてしまったでしょうか」
「いや、もうすぐ僕も終わるから。あとでお茶を一緒に飲もう」
「はい。ではお待ちしています」
そう言ってコーデリアは居間へ戻った。ヴィンセントは確か「王宮を離れてゆっくりしたい」と言っていたはずだが、彼がゆっくりできているとは言い難い。
王都から馬車で数日かけて北部へ移り、一緒に暮らし始めてから二週間ほどが経っていた。お互いに仕事があり、すれ違う日も少なくない。朝食をともにできれば良いほうで、夜まで顔を合わせないこともざらだった。それでも、コーデリアにとってこの生活は驚くほど快適だった。
夫となったヴィンセントは、コーデリアを理解し、無駄な口出しをせず、それでいて顔を合わせれば労いの言葉をかけてくれる。誰かがあたたかく迎えてくれることが、これほどまでに心地良いのだとコーデリアは初めて知った。
しばらく待っていると、ヴィンセントが居間に現れた。侍女が紅茶を淹れてくれ、一緒にそれを飲む。ヴィンセントのそばには、後からこの地に到着したルークも控えている。
「ヴィンセント様、明日はお忙しいですか?」
「明日?」
ヴィンセントがルークに顔を向けると、ルークが答えた。
「明日は朝から魔導具を使った会議が三件入っております。午後は同じく魔導具を使って、国王陛下とのお約束が」
「どうしたんだい、コーデリア」
「いえ、急ですが明日は休暇を取れることになったので、ヴィンセント様がよければ街を案内できたらと思ったのですが……お忙しそうですね」
すかさずルークが言った。
「お待ちください、奥様。午前中の会議はすべて調整します。国王陛下とのお約束の時間まで、どうぞお二人でお出かけください」
「国王陛下にも延期してくれと伝えてくれ」
「ヴィンセント様、それはいけません!」
コーデリアが慌てて止めると、ヴィンセントは残念そうな顔をした。
「コナー補佐官、午前中の調整は本当に可能なの?」
「もちろんです、奥様。お任せください。すぐに調整してまいります」
ルークはそう言ってさっと部屋を出ていったが、コーデリアは少し申し訳ない気持ちになった。
「わがままを言ってしまいましたね、ごめんなさい」
「いや」
ヴィンセントは優しく首を横に振った。
「嬉しいよ、きみと街を歩けるなんて。楽しみにしてる」
「では、明日は朝食の後に出発しましょう」
「分かった」
そう言うと、ヴィンセントはきらきらとまぶしい笑顔になった。
コーデリアの胸に、思いがけない感情が浮かんだ。かわいい、と。
◇――◇――◇
翌日、コーデリアとの朝食を終えたあとヴィンセントは、ルークから「必死に調整したんですからね。絶対にちゃんと告白してくださいよ!」と密かに釘を刺された。
屋敷のホールで待っていると、やがて身支度を整えたコーデリアが現れた。街歩きに合わせた動きやすい軽装だ。ヴィンセントは、用意していた上質な毛皮のマフラーを差し出す。
「外は寒いから、これを。巻いてあげるよ」
そう言ってヴィンセントはコーデリアの返事を待たずに、手際よくマフラーを巻き付けた。コーデリアは少しだけ瞬きをした。
「とても暖かいです。ありがとうございます」
「良かった。似合っているよ」
満足そうに目を細めて、ヴィンセントはコーデリアとともに屋敷を出た。
コーデリアの案内で、街の大通りを歩く。冷たい風すら心地よい、ヴィンセントにとっては夢のような時間だった。
「ヴィンセント様、これです。この地域の名物なんですよ」
コーデリアが購入し、差し出してきたのは、手のひらに収まるふんわりとした菓子だった。淡い焼き色のついた生地の間に、北部の特産である濃厚なミルククリームが挟まれている。手に取って口にすると、生地はふわっと柔らかく溶け、口いっぱいに優しい甘みが広がった。
「美味い」
「そうでしょう?」
「ルークにも買って帰ってやろう」
「優しいですね」
「少しは機嫌をとらないと」
それに無邪気に笑ったコーデリアの横顔を見て、ヴィンセントの胸が甘く締め付けられた。
街は王都とは違った活気にあふれていた。人々の服装も、建物の造りも、店先に並ぶ品物も、王都とは違っている。
騎士団で使う食堂や、鍛冶屋にも案内してくれた。歩きながら、コーデリアは丁寧に北部の様子を教えてくれる。魔物の生息地、天候、王都とは違う文化のこと。コーデリアの日常を聞くことができて、ヴィンセントはその一つひとつが嬉しかった。
だが、楽しい時間はあまりにも早く過ぎ去った。
「少しはゆっくりできましたか?」
「え?」
「ゆっくりしたいと言っていたのに、こちらに来てからもずっと忙しくされていますし」
「ああ……」
そう言ったのはただの口実で、本心ではコーデリアと一緒に暮らしたかっただけ。少しでもコーデリアのそばにいられるのなら、忙しいくらい何ともなかった。
コーデリアの優しさが、ヴィンセントの胸に沁みた。
「うん。ゆっくりできたよ。こんなに心が穏やかなのは何年ぶりだろう」
「それは良かったです。では、そろそろ戻りましょう。仕事に戻る前に昼食を取ってくださいね」
迎えに来た馬車が、通りの角で待機しているのが見える。
この馬車に乗れば、ヴィンセントは仕事に戻らなければならない。そして明日からはまた、こうした時間がいつとれるのか分からない。
御者が馬車の扉を開けたその瞬間。
ヴィンセントは、咄嗟にコーデリアの手首をつかんでいた。
「ヴィンセント様?」
驚くコーデリアには答えず、ヴィンセントはその手を引いて走り出していた。
「……ヴィンセント様!?」
風を切って石畳の街並みを駆ける。ヴィンセントは人々で賑わう大通りを外れ、古い神殿の裏手にある静かな広場へと逃げ込んだ。
誰もいない広場には、冷たい風と木々のざわめきだけが満ちている。二人は足を止め、荒い息を吐いた。
「どうしたのですか、急に? 何か――」
「……言いたいことがあるんだ」
息を整えてから、ヴィンセントはコーデリアを真剣なまなざしで見つめた。コーデリアが不思議そうに首をかしげる。
「昔――十六歳のとき、僕はきみに結婚しないかと言ったよね。どうしてあのときそう言ったのか、分かる?」
「どうしてって……私が公爵家の長女で、第二王子妃としては最も適していたからですよね」
「違う!」
ヴィンセントの声が響く。コーデリアは空色の瞳を驚きで見開く。
「違うんだ、コーデリア。公爵家とか、王子妃にふさわしいとか、そういうことは関係ない。僕はずっと――」
この年齢になっても、恥ずかしいくらいに緊張して、頬が赤くなっているのが自分でも分かった。寒さのせいだと、言い訳はできないだろうか。
「ずっときみが好きだった」
コーデリアの顔をまっすぐに見ることができなくて、ヴィンセントは視線を落とした。
「……今回も、契約結婚だなんてもっともらしい言葉を使って、条件を整えてきみに承諾させた。本当のことを言えば、きみに断られるのが怖かったからだ。本当はただ、ずっと――きみと結婚したかっただけなんだ」
しばらくの沈黙。ヴィンセントは視線を上げられないまま、それでもコーデリアの手首をつかんだままだった。どうしても、離したくない。
「ヴィンセント様」
「……うん」
「ありがとうございます」
穏やかな声が返ってきて、ヴィンセントは顔を上げた。コーデリアはほほえんでいた。
「私も、ヴィンセント様のことは信頼しています。幼馴染で、友人でしたから――」
その言葉を聞いて、ヴィンセントの胸に痛みが走った。
「友人では、もう嫌なんだ」
ヴィンセントは切実な声で訴えた。一度思い切ってしまえば、気持ちを抑えることができなかった。
「きみが好きだ。夫婦になりたい。形だけじゃなくて、本当の夫婦に」
「ヴィンセント様……」
「ごめん。急にこんな――子どもみたいな無理を言って」
コーデリアの表情はずっと優しかった。それでも、何かを考えるように彼女が黙っていたので、ヴィンセントは緊張していた。わずかな時間であったのに、ずっと長く感じられた。
やがて、コーデリアが静かに口を開く。
「……ヴィンセント様はずっと、私の選択を応援してくれていましたよね。覚えていますか? 王立学院で私が騎士科を選んだ時、ヴィンセント様はかっこいいって言ってくれました。実はあの時両親は少々渋っていたのですが、他でもない第二王子殿下がそう言うのならと、承諾してくれたんです」
そうだったのか。幼い頃の自分、よく言った。
ずっと変わらないコーデリアへの気持ち。今ならそれを素直に伝えることができる。
「誰かに決められた道じゃなくて、自分で選んだ道を進むきみが好きなんだ」
コーデリアは少しだけ目を細めて、ヴィンセントを見つめていた。
「ヴィンセント様は、私の生き方を尊重してくれました。騎士をやめなくていいと、ここまで一緒に来てくれました。本当にありがたいと思っています。だから私も、ヴィンセント様の気持ちを尊重したいです」
「コーデリア……」
「私に、好きになってほしいということですよね?」
「……うん」
「分かりました」
あまりにもあっさりと言われて、ヴィンセントは戸惑った。
「本当に?」
「はい。今、ヴィンセント様とまったく同じ気持ちかと言われたら、違うのかもしれませんが、さっき言ったように、私はヴィンセント様を信頼しています。ヴィンセント様のことは、これまでもずっと特別に思っています。ヴィンセント様に何かあれば、きっと私は誰よりも心配すると思います」
特別。その言葉を聞いて、ヴィンセントの胸に喜びがこみ上げた。我ながら単純だ。
「コーデリア、ありがとう。正直、嬉しい」
それから、おそるおそる言った。
「……できれば、その、子どもを持つことについても考えてほしい」
「はい、分かりました」
「……いいの?」
「ヴィンセント様が望まれるのなら」
即答するコーデリアに、ヴィンセントは逆に不安になる。コーデリアは妻の役割として、仕事を引き受けるような感覚で考えているのではないだろうか。
「後継者が欲しいからじゃないんだ」
「え?」
「僕は、きみとだから子どもが欲しい。きみと夫婦になって、家族になりたいから。でも、たとえ子どもができなくても、僕はきみと一緒にいたい。だから、自分では無理なら他の妻を迎えるように、とは言わないでほしい。僕はきみ以外は考えられない」
「……あの時はヴィンセント様の気持ちを知らなかったので、ごめんなさい」
「いや、言わなかった僕が悪い」
コーデリアに謝らせるつもりではなかったヴィンセントが申し訳なさそうに言うと、コーデリアは優しくほほえんでくれた。
「では王家のこと、大公家のこと、私たち二人のこと。もう一度、一緒に考えましょう。私も王都へ戻ったら、騎士団長に相談しておきます。王都の第一師団、大公領のある南の第二師団という選択肢もありますから」
ヴィンセントは感動で目頭が熱くなるのを感じた。どこまでも真面目で誠実なコーデリア。だから彼女が好きだった。
「ヴィンセント様、そろそろ戻りましょう。国王陛下との時間に遅れてはいけません」
「待って。最後に、もうひとつ」
「何ですか?」
「……キス、してもいいかな」
「え?」
「結婚式の時も、額にしかできなかったから」
コーデリアは一瞬だけ驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。
「いいですよ」
ヴィンセントは、つかんでいたコーデリアの手を引き、彼女を自分のほうへ引き寄せた。反対の手で、コーデリアの頬を優しく包み込む。そのままゆっくりと顔を近づけると、そっと唇が重なった。
唇が離れると、ヴィンセントは高鳴る胸の内と熱を持った頬を隠すように、指の腹で眼鏡の中央を押し上げる仕草をしてごまかした。コーデリアはふっと笑った。
「ふふ。私たち、いい大人なのに」
確かに。二十九歳同士の、あまりにも遠慮がちで初々しいキスだった。十代の頃だって、周りはもっとちゃんとしていた。
「いいんだ。今、最高に幸せだから」
そう言って笑ったら、コーデリアも穏やかな笑みを返してくれた。ヴィンセントは、コーデリアの手をそっとつなぐと、この時間を惜しむようにゆっくりと歩き出した。
「ヴィンセント様、もう少し急がないと」
「昼食を抜けば、十分に間に合うよ」
「そういう体に悪いことは、駄目です」
街の空気は冷たい。けれど重なり合った手から伝わるぬくもりで、不思議なくらいあたたかかった。
(THE END)
午後、政務のことで相談があった国王との会話(昼食は結局抜いた)
「僕はコーデリアとの間に子どもをつくりたい」
「…………うん、つくれば?」




