第33話 弱いゴブリンで勝つ方法――モンスターコロシアム攻略開始
モンスターコロシアムに登録した翌日。
僕たちはギルドで「ゴブリン討伐」の依頼を受けていた。
「よしジョン、今回はゴブリンを捕まえるぞ」
「……捕まえる? 倒すんじゃなくて?」
思わず聞き返す。
ゴブリンといえば、牙も短く、足も遅い、力も弱い魔物だ。
どうせコロシアムで戦わせるなら、もっと強力な魔物、あるいは少なくとも「戦える相手」の方がいい気がする。
「なんでゴブリンなの?」
だが、おっさんは理由を言わない。ただ、いつものようにニヤリと笑うだけだった。
「いいからついてこい。理由はあとで分かる」
――嫌な予感しかしない。
向かった先は、あの竜騎士団反対で騒いでいた村だった。
村の入り口に近づいた瞬間、空気が変わる。
「……なんか、雰囲気悪くない?」
「旦那ぁ……こりゃ完全に“よそ者お断り”ですぜ」
マクダフの低い声に、村人たちの視線が刺さる。
村人たちは明らかにこちらを警戒していた。
「おい! また王国の連中か!?」
「ち、違うよ! 僕たちは冒険者――」
「同じだろうが!!」
怒号と同時に、石が飛んできた。
「うわっ!」
肩に鈍い衝撃。
思わずよろめく。
バランスを崩しかける。
「旦那ぁ!下がってくだせぇ!」
マクダフが前に出る。
だが――
「……ちっ、面倒くせぇな」
おっさんは露骨に嫌そうな顔をしていた。
結局、僕たちは村に入ることすらできなかった。
「帰れ!!」
「竜騎士団の仲間だろ!」
「魔物を連れてくる気か!」
完全に話が通じない。
彼らにとって僕たちの存在は、すでに「敵」や「迷惑者」に定義されていたのだ。
「……なんでこんなことに」
僕のつぶやきに、マクダフが小さく答える。
「旦那ぁ、あいつらもう“理由”で動いてねぇんですよ」
「え?」
「“雰囲気”ですぜ」
――ああ、そうか。
あのケムトレイルの話と同じだ。
誰かが言ったことを、みんなが信じて、広がって――
それが“正しいこと”になっていく。
一度「敵」と定義されたら、論理的な説明など不要で、感情だけで判断されてしま
う。
それが人間の「仕組み」だ。
「仕方ねぇ、外でやるぞ」
おっさんはさっさと踵を返した。
「ゴブリンはこの辺にも出る。村に入る必要はねぇ」
「最初からそうすればよかったんじゃ……」
「いや」
おっさんが一度だけ振り返る。
「あの反応を見せたかった」
「……え?」
「あの村も、後で使う」
意味は分からない。
でも――きっとまた、ろくでもないことだ。
森に入ってすぐ、ゴブリンは現れた。
「ギギッ!」
「出た!」
短剣を構える。
「待て、殺すな。弱らせろ」
「え!?」
「動けなくなる直前で止めろ」
――倒さない戦い。
それは思っていた以上に難しかった。
力加減を間違えれば、一発で頭をぶち抜いて死なせる。
逆に手を抜けば、反撃されて足を切断されたり、あるいは牙で喉を抉られたりす
る。
「弱らせる」とは、単にダメージを与えることではなく、「意識を失わず、かつ戦
闘不能にさせる微妙なライン」を指すのだ。
「い、今だ!」
膝をついた瞬間、おっさんが何かを投げてきた。
「それ使え!」
受け取ったのは、小さな札のようなものだった。
「それがテイム用アイテムだ。口に突っ込め」
「く、口!?」
「いいからやれ!」
覚悟を決める。
ゴブリンの口をこじ開け、札を押し込む。
冷たい感触が舌に触れた。
そして――
「テイムッ!」
一瞬、光が弾けた。
ゴブリンは、ゆっくりと動きを止めた。
呼吸はしているが、瞳が動かず、四肢も完全に固定されている。
「……死んだ?」
「成功だ」
おっさんはあっさりと言った。
「そいつはもう、お前の“駒”だ」
僕は思わず後ずさる。
さっきまで襲ってきていた存在が、まるで物のように静止している。
「駒」と言われると、少しぞっとする。
しかし、その冷静さが、逆に安心感を与えた。
「これでいいの?」
「ああ。あとはコロシアムに持ってくだけだ」
「でも、なんでゴブリンなの?」
しつこく聞くと、今度は答えが返ってきた。
「ゴブリンは“弱い”からだ」
「え?」
「数が多い。扱いやすい。誰でも手に入る」
そこで、おっさんは笑った。
「そして――弱い」
その意味が、まだ分からない。
なぜ「弱い」ことが重要なのか。
「ジョン」
おっさんが僕を見る。
瞳には、先ほどの戦闘の冷徹さとはまた違う、何かが宿っていた。
「お前はモンスターコロシアムの“英雄”になる」
「……え?」
「いいか。コロシアムの勝敗はな」
一拍。
「“強さ”じゃねぇ」
「……じゃあ何?」
「“決まってる”んだよ」
マクダフが笑う。
「旦那ぁ……ここからが本番ですぜ」
僕は、ようやく理解し始めていた。
これは戦いじゃない。
仕組まれた勝負を――さらに利用するための金策だ。
捕まえたゴブリンを見る。
銀行のこと。
指輪のこと。
そして、今回のこと。
「……この世界ってさ」
ぽつりとつぶやく。
「最初から決まってること、多くない?」
おっさんは答えなかった。
ただ――
楽しそうに、笑っていた。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 18
盾スキル 3
戦闘技術スキル 11
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
671g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・蛇肉(大量)
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・木剣2本
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




