4分間の恋
駅のホームに立つと、午後2時17分発の電車がちょうど滑り込んできた。
それは、彼女と僕の「約束された」たった4分間の始まりだった。
高校の卒業式から5年。僕と美玲は、進む道が違った。僕は地元の大学に進み、彼女は東京で看護師になった。それからの時間は、互いの生活を少しずつすれ違わせ、連絡の頻度は減っていった。
——もう、会うことはないかもしれない。
そう思っていたある日、彼女から突然メッセージが届いた。
「8月7日、14時17分発の電車で帰省するよ。○○駅に4分だけ停まる。もし、来られたら、来て。」
それだけだった。
なぜ4分間なのか。なぜわざわざそんな短い時間を知らせてきたのか。理由は分からなかったけれど、僕は駅にいた。
電車のドアが開く。乗客が降り、乗り、そして——彼女が現れた。
「久しぶり。」
変わらない声。少し短くなった髪。白いシャツに日焼けした肌。全部が懐かしいのに、どこか知らない人のようでもあった。
「来てくれて、ありがとう。」
「そっちこそ。」
たったそれだけの会話。でもその間、僕の心臓は壊れそうなほど鳴っていた。
「…実はさ、婚約したの。」
彼女の一言に、世界が少し静かになった。
「そうか、おめでとう。」
言葉は出た。でも、声が震えた。
「あなたのこと、ずっと好きだった。でも…待つことができなかった。」
「うん、わかってる。」
僕も、同じだった。好きなまま、何もできなかった。
駅のアナウンスが響く。発車まで、あと1分。
「ねえ、最後にお願い。」
彼女が僕の手をとった。
「4分間だけ、私を好きでいて。」
「…今も好きだよ。」
彼女が笑った。
「ありがとう。それで十分。」
そして彼女は電車に戻り、ドアが閉まる。
動き出す車両の窓越しに、僕は彼女の姿を見つめ続けた。
たった4分間の恋。
だけどそれは、5年分の思いに、きちんと終わりを与えてくれた気がした。