第七章
第7章 公爵家、揺らぐ評議会
帝都の政庁。重々しい空気の中、年に一度の帝国評議会が開かれようとしていた。
議題は、突如として浮上した――「エバレッセ家の後継者差し替え」。
現れたのは後公爵夫人、デーナ・エバレッセ。
かつて愛人だったブレンダン・エンブラムを伴い、堂々とこの場に現れた。
「……本日、我が家から“後継者候補”として推薦するのは、ブレンダン・エンブラムです」
会場がざわつく。彼の名は貴族籍にない。平民出身、しかも血縁すらない男。
それでも、今や公爵家の屋敷で“公的立場”を与えられ、まるで嫡子のように振る舞っていた。
このまま通れば、ブレンダンが「公爵位を乗っ取る」可能性すらある。
そこへ一人の少女が進み出た。
銀髪をたなびかせ、高貴な瞳を湛える――ララリー・エバレッセ。
「その承認、待ってください」
静かだが力のある声に、場が凍る。
しかし今、彼女は確かにこの場にいた。
「私は、帝国が定めた正式な公爵家の後継者です。そして――まだ、何も“裁かれて”いません」
淡々と語るその表情の裏には、女神から与えられた再起の力と、練り上げた復讐の決意があった。
「これは……過去の記録にも記されています。ララリー様はまだ“正式な裁定”を受けていない。ならば、立場は有効です」
動揺するデーナとブレンダンを横目に、ララリーは一枚の書状を差し出す。
「これは私が“療養地”にいた間、エバレッセ家の財産が何に使われたかの帳簿です。……そしてこれは、ブレンダン氏の本名・本国・経歴に関する調査報告です」
騒然とする中、さらに会議室の扉が開いた。
第1王子・ロイズと、第2王子・ロディンの登場だった。
「王家として、この議題に強く関心を持っている。ララリー嬢の訴えは無視できない」
ブレンダンが一歩前に出て、低く言う。
「……たとえ平民でも、貴族より人として優れていれば、継ぐ資格はある。そういう時代に変わるべきだろう?」
「“人として”の資格すら問われていることに、あなたはまだ気づかないのかしら」
切り返したのは、エールルだった。
ララリーの隣に立ち、冷静な視線を向けていた。
「帝国は“信用”の上に立っている。あなたが築こうとしているのは、ただの偽りの玉座です」
沈黙の中、評議会議長が言い渡す。
「本件は異例の審議対象とする。後日、証拠をもとに公開評議を実施。その間、公爵家の行政権は凍結。暫定的に“旧後継者”ララリー嬢の地位を保留とする」
ララリーは小さく息を吐いた。
――次は“断罪”ではなく、“断罪し返す”番。
その隣でエールルが笑った。
「よし。第一段階、クリアってことで」