第5章
第5章 第2王子と秘密の取引
王宮の西翼にある、離宮の一室。
その部屋に招かれたのは、エールルただ一人だった。
「……第2王子ロディン殿下が、私に“密会の指名”を?」
エールルは不審に思いつつも、慎重に礼を整え室内に入る。
そこにいたのは、淡く微笑む金茶の髪の青年――第2王子ロディン・アーウェル。
社交界では気さくで物腰柔らかな王子として知られるが、彼の真の顔を知る者は少ない。
「エリールル嬢。……いや、エールル、と呼ばせてもらおうか」
「……それは、私の“本名”を知っているという意味でしょうか」
「君の目の奥にある“常識”は、ここの貴族にはないものだ。違う世界から来たと、僕は確信している」
エールルは驚いた。
だがそれを悟らせまいと、あくまで微笑で返す。
「おそれながら、殿下。証拠もなく、他人の正体を見抜いたなどと言えば、陰謀論者と呼ばれますよ?」
「証拠はない。でも……僕の“勘”は、外れたことがない」
そしてロディンは、本題を口にした。
「――君たちが、デーナに復讐しようとしていることも、知っている」
「……!」
「ララリー嬢の生還も、僕にとっては予想の範囲内だ。……君たちの“女神の導き”が本物なら、僕は協力する」
「どうして?」
「父王が愚王となる前に、帝国を立て直す必要がある。そして“ブレンダン”のような影の人物を、王族の近くに置いてはいけない」
ロディンは、ブレンダンが王家に接近しようとしていることを危惧していた。
デーナの後ろ盾として王子たちに取り入り、次代の後継者に干渉しようと画策していたのだ。
「君たちの戦いは、私の未来にも関わっている。協力しよう」
「……条件は?」
「ただ一つ。君が持つ“知識”を、一部だけでいい。私にも共有してくれ」
交渉は静かに、しかし確実に成立した。
「では――手を取りましょう、“未来の王”」
エールルが手を差し出し、ロディンがその手を取る。
互いに信じきるには早すぎるが、共通の敵がある限り、同盟は続く。
***
その夜、ララリーとエールルは密かに再会する。
「……第2王子が、味方に?」
「そう。私たちの手に入らない“王家の情報”が、これからは流れてくる」
ララリーの瞳が鋭く光る。
「ふふ……面白くなってきたわね」
「次は、“証拠”を一つずつ形にしていこう」
――復讐の駒が、また一つ進んだ。