第二章
第2章 計画開始!お嬢様たちの秘密会議
その日、ララリーの部屋にはティーセットと菓子が並べられ、優雅な午後を装った秘密会議が開かれていた。
「……あらためて整理しましょう、ララリー様――」
「ララリーでいいわ、って言ったでしょう?」
「じゃあ、私もエールルで。うん……さて、改めて敵リストを確認してみたの」
エールルは自作した「復讐ターゲット一覧表」を差し出した。まるでホワイトボードのような整理された表。しかも全員に評価つきだ。
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復讐ターゲット:一次リスト
1.後公爵夫人 デーナ・エバレッセ(危険度SS・腹黒度SS)
2.公爵令息 ブレンダン・エンブラム(調子乗りの馬鹿)
3.第三王子 ケーリー・アーウェル(悪意の貴族)
4.偽証した侍女たち(後ほど対応)
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「……書き方がだいぶ辛辣ね」
「真実です。ララリーを陥れた連中なんて、こう表現しても足りないぐらい!」
エールルは怒りに頬を赤らめながら、紅茶をぐいっと飲む。
ララリーはその様子に思わず小さく笑った。
(変な子……でも、まっすぐでいい子)
「まずは……一番中心にいるデーナを狙うのはまだ早いわ」
「うん。彼女の背後には王宮の後ろ盾もあるし、あまりに急ぐと警戒されちゃう。だから……まずは、末端から崩していく」
「具体的には?」
「ターゲット1号、ブレンダン!」
「……あの男ね。デーナと関係を持ちながら、私に何度も不躾な求婚をしてきた。私が断ったことで怒って、陰で私の悪評を流していたわ」
「そういうの、現代だったら即アウトなのよ。セクハラ貴族男なんて、痛い目見せてやらないと」
エールルは得意げにウィンクした。
「で、実は聞き込みしてたんだけど――」
「え、もう動いてたの?」
「えへへ。伯爵家のパーティで、使用人のふりして厨房に紛れたの。そしたらブレンダンの噂、出るわ出るわ」
エールルはとある証拠品を取り出した。恋文の写し。しかも差出人は……人妻や他の貴族令嬢、そして「男爵令息」まで混ざっている。
「……あの男、節操なさすぎじゃない?」
「でしょ? これ、複数の相手に送ってる内容が“ほぼコピペ”なの。現代で言うところの“量産型口説きLINE”!」
「……それは確かに……なんて情けない男なの……!」
ララリーは呆れながらも、心の中に小さな炎が灯った。
(この子……本当に、頼もしいかもしれない)
「じゃあ、この恋文を材料にして――社交界で“浮気性男”としての評判を広げる?」
「うん! それと、できれば“ララリー様を無理やり口説こうとしていた”って証言も引き出せたら……」
作戦はこうだ。
1.過去の手紙や証拠を整理。
2.ブレンダンの他の相手に接触し、証言を取る。
3.「彼がララリーに好意を抱いていた証拠」を公開。
4.結果として「ララリー断罪の証言は私怨だった」と世論に思わせる。
――直接手を下さず、名誉を潰す。
これぞ貴族式復讐戦略!
「さすがエールル……何者なの、本当に?」
「現代社会という修羅場を生き抜いてきたOLですから!」
2人は顔を見合わせて笑った。
***
その夜。ララリーはふと思った。
復讐はただの手段だった。だが、こうして誰かと一緒に笑いながら計画を立てる――そんな未来があるとは思わなかった。
あの絶望の処刑台からは、想像もできないほどに。
(この手で変えてやる、この世界を。そして今度こそ――)
ララリーの紫の瞳が、夜空の星を映して輝いた。