プロローグ
―1594年、アーウェル帝国。
絢爛たる王宮の大広間に、若き公爵令嬢ララリー・エバレッセは跪いていた。群衆の視線は冷たい。かつて誰もが憧れた完璧な令嬢、ララリーのその姿を、侮蔑と嘲笑を込めて見下ろしていた。
「公爵令嬢ララリー・エバレッセ。貴女は王子を誘惑し、後公爵夫人デーナを侮辱し、帝国の秩序を乱したとして、爵位を剥奪し、処刑とする」
――それは全て冤罪だった。
後公爵夫人デーナとその愛人、そして第3王子ケーリーが仕組んだ策略。全てを奪われ、孤独のまま命を落としたララリー。
(もう一度だけ……もう一度、やり直せるなら……)
血の匂いが立ち込める中、ララリーは女神に願った。
同じころ、別の世界――現代日本。
ブラック企業で心も体も擦り減らし、ようやく退職を決めた仲村凛は、会社帰りの横断歩道でトラックに轢かれ、意識を失った。
(推しのララリー様が死んだ世界なんて嫌だ……私が代わりに助けてあげたい……)
最後の思考は、涙と後悔と、愛で満ちていた。
二人の魂は、女神のもとで出会った。
「あなたたちの願いは、奇妙に一致しています。ならば、力を与えましょう――」
こうして、ララリーには神の加護を。
エールル―いや、仲村凛には現代知識を生かす機会が与えられた。