支配の輪郭
眠りの檻に、再び静寂が戻っていた。
ザグルは端に控え、ネグレウスは座り込んで空間の歪みを弄び、ルシアは何も言わずリヴァンの背後に立っている。
その空気は、静かだが緊張を含んでいた。
「これで、戦える陣形が整った、ということになりますね」
アルヴィアが手元の魔導書を閉じながら言った。
「本来、魔王様の軍は“七将”を中心に動きます。ですが現状、確実に戦力化できるのは、この三体のみ」
「……試す機会があるなら、試しておくべきだな」
「ご案内いたします」
アルヴィアが歩き出す。
その後ろを、リヴァンたちは無言でついていく。
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通路の先には、別の封印区画があった。
そこは、通常の“眠りの檻”とは異なり、管理すら打ち切られていた“隔離領域”。
「ここには、記録にすら残されていない棺がいくつか存在します。危険性が高いため封鎖されていました」
「その封印が、揺らいでる?」
「ええ。あなた様の目覚めに呼応して、術式の一部が干渉を受けたようです」
扉が開くと、空気が重くなった。
靄が揺れ、結界が不規則に明滅している。
(……これは、“外に出たい”という衝動だな)
一つの棺が、わずかに震えていた。
「反応があるのは、あの棺だけです。試験的に術式を緩め、内部を観測してみましょうか?」
「やれ」
アルヴィアが結界に手を伸ばし、黒神盤が静かに回転を始める。
だがその瞬間、術式が悲鳴を上げるようにきしんだ。
「……っ、術式が暴走します!」
「離れろ」
リヴァンが言うが、もう遅かった。
棺の周囲の地面が割れ、暗紫の魔力が爆発的に吹き出す。
咄嗟にザグルが前に出た。
巨大な身体で衝撃を受け止め、ネグレウスが空間を切って流れを逃す。
ルシアの癒しの魔力が、自動的に発動し、全体の均衡を保った。
(――なるほど、使える)
リヴァンは静かに黒神盤を掲げた。
「全員、座標固定。俺の支配領域に切り替える」
黒神盤の“目”が開き、空間が裏返る。
術式が強制的に切り離され、棺の周囲の魔力が鎮まっていく。
「……鎮静化、完了です」
アルヴィアが報告したとき、棺は静かに再び沈黙した。
リヴァンは黒神盤を戻しながら、配下たちを見渡す。
「想定外の動きにも、対応はできた」
「それが“軍”というものです。お見事でした」
ザグルが頷き、ネグレウスは面白そうに笑っていた。
ルシアはただ、微笑を崩さない。
(これが、俺の軍……)
支配の輪郭が、少しずつ形を成していた。
「……地上の動きについて、情報が入っています」
ふいに、アルヴィアが切り出す。
「先ほど、聖王国より“神託が降りた”との報せが入りました。
――勇者召喚、近し」
リヴァンの目が細められる。
(……来るか、“次の勇者”)
黒神盤が、再び小さく脈動を始めていた。




