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「魔王として転生した元勇者、もう人間には味方しない」  作者: ごま
この世界に、俺の居場所はない
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選ばれた者たちの影



聖光広場を離れ、俺とネグレウスは市街地の路地裏に隠れていた。


「見えるか?」


俺の問いに、ネグレウスが頷く。

彼は指先で空間を撫でるように動かし、小さな窓を作り出した。


「よく見えるよ。あれが勇者レオナの“初任務”ってやつだ」


その窓越しに見えるのは、王都外縁に広がる荒れ地だった。

勇者レオナを先頭に、小隊が魔物と対峙している。


「……随分と派手だな」


「派手に見せる必要があるんだよ。人々の期待に応えるためにね」


確かに、レオナの動きは華麗で隙がない。

その剣技は優雅で、訓練された美しさすら感じられた。


だが――彼の目には、確かな戸惑いと迷いがあった。


「何を迷ってる?」


ネグレウスが不思議そうに呟く。


「……おそらく、自分の役目の意味だろう」


俺にはその感覚が痛いほどわかった。

かつて、自分も同じような表情で戦場に立っていた。


「ま、当然だよね。勇者はただの道具。物語を紡ぐための駒に過ぎないんだから」


ネグレウスの皮肉な口調が響く。

その言葉に反論はなかった。


「リヴァン、君はどうしたい?」


「……まだわからん。ただ――」


俺は静かに目を細めた。

レオナの剣が魔物を切り裂き、人々の歓声が遠くから聞こえる。


「こいつを通して、この世界が何を隠そうとしているのか暴く」


俺の中で、何かが静かに燃え始めていた。

それは怒りではなく、もっと冷たく、もっと鋭いものだった。


「いいね。その決意、僕は嫌いじゃないよ」


ネグレウスが軽く笑った。


その時、遠くの建物の影で小さな動きを感じた。


(……ルシアか?)


だが振り返った時には、もう何もなかった。


俺は再び視線を戻し、レオナの姿を見つめ続けた。

まだ答えは見えない。

だが、それを見つけるまで――俺は止まらない。











任務が終わり、レオナは王都へと戻っていった。


俺たちは人目を避け、広場の裏路地を歩いた。


「王。レオナの動き、どうだった?」


「……悪くない。だが、完成していない」


「彼自身がまだ、何を守るべきか分かってないからね」


俺は黙って歩を進める。


聖王宮の塔が、遠くに見えた。


「そろそろ女神教会の本当の“顔”を見に行こうか」


ネグレウスが悪戯っぽく笑う。


俺は頷いた。


(この世界が作り上げた偽りを、すべて暴くために)


黒神盤が、静かに脈動していた。


聖王宮の裏門は、表の荘厳な造りとは違い、簡素だった。

儀式の華やかさとは裏腹に、裏手には現実的な匂いが漂っている。


「ここから侵入する」


ネグレウスが空間に指を走らせ、結界の隙間を探る。


「……結構、古い防御だね。すぐ抜ける」


指先が触れると、空間に微かなひびが走る。

次の瞬間、結界がわずかに緩み、穴が開いた。


「行こう、王」


頷き、俺たちは闇に紛れて聖王宮の内部へと潜り込んだ。


白い大理石の回廊を、靴音を立てずに進む。


奥へ進むほどに、空気が冷たく、乾いていく。


やがて、巨大な扉が現れた。


その扉の上には、女神レリアを象った紋章が輝いていた。


「……ここだな」


この奥に、教会の最高機密――勇者召喚と神託に関する真実がある。


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