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「魔王として転生した元勇者、もう人間には味方しない」  作者: ごま
この世界に、俺の居場所はない
10/16

偽りの聖都にて


王都ルメル。

かつて勇者が讃えられ、いまなお女神信仰が息づくこの都市。


その中心に位置する“聖光広場”は、早朝にも関わらず賑わいを見せていた。


白亜の石で敷き詰められた広場の中心には、巨大な女神像が立ち、両腕を広げて天を指している。

その足元には民が集まり、祈りを捧げていた。


「これが……人間の“信仰”か」


ネグレウスの声には、皮肉というよりも興味が混じっていた。


「祈ることで、秩序の中に居場所を得る。なかなかに巧妙な設計だ」


俺は黙って広場を見渡した。

広場の端では、神官たちが儀式の準備をしていた。

今日の午後、神託の再演があるという。


「王。そろそろ神殿の裏手に向かいましょう」


ネグレウスが密やかに言う。


「裏口の警備は緩い。空間のひずみも観測できる。何かが“残されている”」


俺は頷いた。

黒神盤がわずかに脈動する。


この街には、神が創ったとされる“正義”がある。

だが――それが本当に正しいものか、見定める必要があった。


俺たちは、聖光広場を後にし、神殿の裏路地へと足を踏み入れた。



神殿の裏手は影が濃く、ひっそりとした空気が漂っていた。

ネグレウスが指を鳴らすと、空間が揺らめき、隠された扉が浮かび上がった。


「ここだな」


俺は扉に手を触れた。

古い木の感触。だがそこには、微かな魔力が宿っている。


「旧神託の空間か……面白そうだね」


ネグレウスが楽しげに呟く。


扉を押し開けると、暗く狭い階段が地下へと続いていた。

空気は湿り、古びた紙と埃の匂いが充満している。


階段を下りきると、そこには古びた石造りの広間が広がっていた。


壁には無数の文字が刻まれ、中央には祭壇があった。

そして祭壇の上には、古ぼけた水晶が一つだけ置かれている。


ネグレウスは迷うことなく水晶に近づき、指をかざした。


「……残ってるね。神託の記憶が」


水晶が淡く輝き始める。

そこに浮かび上がったのは、過去の映像だった。


女神教会の神導たちが、祭壇を取り囲んでいた。

その中心には女神像があり、その足元に一人の少年が立っている。


「……これは?」


「昔の勇者召喚の光景だよ。君の時とは少し違うみたいだけど」


映像の中の少年は困惑した表情を浮かべていた。

神導たちは熱心に祈り、少年に力を与えていたが――


「彼らの祈りに真実はない」


俺は静かに呟いた。

ネグレウスが頷く。


「そうさ。ただ秩序を維持するための、道具としての勇者」


俺は拳を握った。

かつて自分がそうだったように、彼もまた道具にされている。


「王。この世界は偽りで満ちている。だが、それを壊すのが僕らの役目だ」


ネグレウスの言葉に、俺は再び頷いた。


「……暴く。全てをな」


黒神盤が静かに輝きを増した。

その時、地上からかすかな鐘の音が響いてきた。


新たな勇者レオナの、初任務が始まろうとしていた。



地上へ戻ると、聖光広場はさらに賑わいを増していた。


広場の中央には、新たな勇者レオナが立っていた。

その表情は緊張に満ちていたが、群衆は熱狂していた。


「勇者レオナ! 女神の祝福あれ!」


神官が高らかに宣言すると、人々が一斉に歓声を上げる。

レオナは戸惑いながらも、その歓声に応えるように小さく手を振った。


俺はその姿を静かに見つめた。


「まるで昔の君みたいだね」


ネグレウスが軽く言った。


「……違う」


俺は即座に否定した。


「あいつはまだ、何も知らない。これから知ることになるんだ……全てを」


俺の視線は、レオナではなくその背後にいる神導たちに向けられていた。

彼らは満足げな笑みを浮かべている。


(この笑顔もまた、偽りだ)


俺は胸の内で呟いた。


「ネグレウス、次の動きを考えるぞ」


「ああ、もちろん。君の計画通りに」


俺は小さく頷いた。


(全ての偽りを、この手で壊す。そのために――俺はここにいる)

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