第十五話……「もちろん分かってる」
「ところで、天川くん。明日買い物に付き合ってくれない? ちょっと稽古着でも買おうかなと思って」
「もちろん。と言うか、僕も買おうかな。お揃いにしたら僕達の『ラブラブ』『アイアイ』ぶりが表せると思うよ」
天川くんの言葉に、それを表してどうするんだとも一瞬思ったが、それも悪くないと思う自分がいた。私達の惚気かもしれない。
「じゃあ、せっかくだからそうしようか。その方が楽しそうだし。恥ずかしさなんて吹っ飛ばす気持ちで。
でも、そう言えば、『ペルライ』は役者のグッズも売ってるから、恋人がいるとか結婚してるとか、バレない方が良いんじゃないの? それこそ、アイドルみたいに」
「いや、『ペルソナライズ』はデフォルトでプロフィール欄に『恋人あり』とか『結婚済み』とか載るようになってるんだよね。たとえ年齢イコール恋人いない歴でも」
「え⁉️ すごいね。要はアイドル売りはしないってことだよね。演技だけで私達を評価してほしいみたいな」
「そういうこと。まぁ、嘘になる人もいるけど、それは『ペルソナ』ってことで。
希望があれば、『恋人なし』とか『毎晩、彼氏にベッドで癒してもらってます』とか『物心ついてから男の子に触れたことさえありません』とか書けるよ」
「最後のは完全に嘘だろうけど、それも『ペルソナ』か……。都合が良いペルソナだこと……」
「実は全部、実際のプロフィール欄に載ってるんだよね」
「うわぁ……。最後の人の顔が見てみたいよ。それとも、むしろわざとなのかな。そういうキャラですよと知らしめるために。あるいは、『男の子』に触れたことはないけど、『大人の男性』にはたくさん触れてきたとか」
「どうだろうね。ただ、男と触れる役を全部断ってるのは間違いない。男性恐怖症の可能性はあるかな。同性愛者でもそこまでは行かないからね」
「あ、その可能性もあるのか……。自分の思慮の浅さに辟易したよ。決めつけてごめんなさい」
「いや、僕も最初はそう疑ったよ。でも、仮にそうだとしても、少なくとも本人はそれを隠してるんだよね。強気な所もあるツンデレキャラみたいな感じだからかもしれないけど」
「その子、かわいい?」
「ハッキリ言って、トップアイドルレベル。整形もしてない。芸能界で売れたくて整形する人をバカにしてたから。
でも、僕は子役の時からアイドルをいっぱい見てきたから、顔で人を評価することはないけど、仮に男性恐怖症で、それに悩んでいるとしたら本当に勿体無いよ。
何とかしてあげたくても、僕にはここねちゃんがいたから……」
「悩みを解決して好きになられでもしたら困る」
「正解。自意識過剰かな?」
「そんなことないよ。実際そうなると思うし。じゃあ、私が彼女を助けようと言えば、問題ないわけだ」
「え、それはそうだけど、今言った別の問題が発生するよ。それまでと違って僕達はもう付き合ってるんだから」
「もちろん分かってる。まずは彼女に会ってからかな。力になりたいと思えるような人かどうか見極めたい」
「ふふふ、そういうことか。自分が精神的な悩みを抱えていた経験から、他の人の悩みも解決してあげたいと思うようになったってことかな」
「正解。それが余計なお世話だと言われてもいい。自己満足でもいい。なんて言っていいか分からないけど、とにかく動きたい。バランスの話を聞いて、私ならできるような気がすると思ったんだよね。自意識過剰かな?」
「そんなことないよ。よし、二人でチャレンジしてみようか。何たって、『ペルソナライズ』の仲間だからね」
「ありがとう、天川くん。そう言えば、気になってたことがあるんだけど、天川くんもれいさんも『ペルライ』って略さないよね。『モダマス』は略すのに。何か理由でもあるの?」
「僕達『ペルソナライズ』は『ペルソナライズ』のことが大好きで、その劇団名に誇りを持っているからかな。それと、『ペルライ』だと、字面も発音も『薄っぺらい』の『ぺらい』に似ちゃうから。
前者が背景にあって、後者が嫌だからみんなそのまま言ってるような気がするね。僕がそうだし。とは言え、『モダマス』がそうじゃないってわけではないよ。結局、何となくだよ」
「それなら、私が団員の前で『ペルライ』って言ったら、怒られるかもしれないってことだよね。注意しよ。
他にも何かありそうなんだよね。劇場内では、『天川くん』じゃなくて『りゅうくん』って呼んだ方が良いとか」
「流石ここねちゃん。よく気付いてるね。と言うか、まさに今、僕から言おうと思ってたことだよ。れいさんが何も言わなかったのは、ここねちゃんが今日参加を表明したばかりだから。
今からは僕のことを下の名前で呼んで、慣れていてほしい。劇場内では、みんな下の名前でしか呼び合わないし、そもそも劇団での役者名がそうなってるんだよ。名前が被っていないのは幸いだね。
本名じゃない人もいるらしいけど、興味ないから聞いてもいないし、調べてもいない。
ここねちゃんは『そのまま』でいいの? 『ねいろ』にしたり、新しい名前を考えたりとか。『ねいろ』にするなら、れいさんが当時の仮事務所に掛け合ってくれるよ」
「私は『ここね』でいいよ。『ねいろ』の方は、あくまで『九葉ねいろ』だから成り立つんだよね。しかも、『ねいろ』で呼ばれる場合、お姉ちゃんの名前は一文字しか入ってなくて、『ここね』の方は二文字入ってるからね」
私はそう言ってから、本当にそれで良かったのかと、ほんの一瞬だけ不安に思った。
何も考えずに口から出たけど、それで前に進んでいると言えるのかと。お姉ちゃんにまだ依存しているのではないかと。
それなら、お姉ちゃんとの思い出が詰まった名前を使った方が、まだ良いのではないかと。
「そっか、分かった。とりあえず、何か食べようか……と思ったけど、もうこんな時間か」
「うわ、十一時ってマジ? 夜のだよね? それだけが救いだよ」
「お風呂に入って、夜食はとらずにすぐ寝ようか。せめて比較的、健康的な生活を送ろう。役者は体が資本。体調管理も大事だからね」
「分かった。じゃあ、りゅうくんはお風呂でくっついて来ないでね。それだけで時間が過ぎちゃうから」
「いや、くっついて来るのは、ここねちゃんだよね。そう言うなら、いつも通りに振る舞って、どっちからくっついて来るか確認してみようか」
「いいけど、それってくっつきたいだけだよね?」
「大正解」
結局、眠りにつく頃には、どちらからくっついたのかどころか、確認すること自体、忘れていた。また今度でいいか。いや、別にどうでもいいことなんだけど、りゅうくんの手口で、口実にできることが分かったからね。
私の不安な気持ちは、りゅうくんがどこかへ飛ばしてくれる。それがたとえ戻ってきたとしても。
でも、それが大きくなって返ってきたらりゅうくんは、私は、私達は……。
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