第十一話……「ええええええええ⁉️」
「ここねちゃん! この前の日曜日は本当にごめん! 将来の人間国宝を失わせるところだった! これからは何でも言うこと聞くから!」
れいさんが私に四十五度の頭を垂れて、真剣に謝ってきた。
あれから、次の土曜日、終業式の次の日に、『ペルソナライズ』に報告と、これからの相談に行くことにして、『モダマス』でれいさんの顔を見かけるや否や、彼女がこちらにすっ飛んできて今に至る。
ちなみにあの日、天川くんは私の家に泊まった。あれ以降、何があったかは言わないでおこう。世の中には誰も答えてくれないことがあるからね。
と言っても、もう私達は同棲していて、お互いに隠すことも何もない。
同棲したら相手の嫌な所も見えてきた、なんてこともなく、至って楽しい生活をこの四日間送ることができた。
「『これから』『何でも』ですか……。それじゃあ、まずは一つ。例の天才さんに会ってみたいんですけど」
「いきなりぶっこんできたねぇ。残念ながら、彼とはもう会えない」
「え、そうなんですか⁉️ もしかして、天才すぎて国の監視下に置かれてるとか……」
「なかなか良い所を突くねぇ」
「え、冗談で言ったんですけど……。ホントに……?」
「りゅうから聞いた? 例の天才の彼、小学生なんだよ」
「ええええええええ⁉️」
天川くんの方を見ると、くすくすと笑っていた。言う機会なんていくらでもあったのに、サプライズでずっと黙ってたな?
ったく……おもしれー男。
「とある学校に通っていて、『今年の四月から規則と監視が厳しくなるから、普通には会えない』って、三月初めに言われた。それ以上は聞かされてない。言えないんだろうけどね。
ただ、監視前提で許可を取れば連絡だけは向こうから取れるから、定期化して、今でも色々と相談には乗ってもらってる」
「とある学校って、天才学校ですかね」
「天才学校? そんなの本当にあるの? 単に金持ちが通うおぼっちゃま学校かと思ってたけど。その中でも優秀な人は学校の責任問題になるから、『単独外出は認めません! 情報漏洩絶対禁止!』みたいな」
「ここねちゃんのお姉さんが当時スカウトされたらしいですよ」
「マジか……。世の中には私達の想像を超える世界があるのかもね……。しかも意外に身近に」
れいさんの言葉に私達は『うんうん』と頷いて、しばらく無言になった。
「まぁ、それはさておき……いや、関係なくはないんだけど、今度の舞台で『愛しのアイアイ』をやることにしたから、二人主演で出てよ」
『ええええええええ⁉️』
今度は天川くんも一緒にハモった。
「よしよし、息ピッタリだねぇ。流石『アイアイ』」
「待ってくださいよ! 僕はまだここでモブ以外演じてないのに、いきなり主役なんて……。
嬉しいですけど……いや、れいさんが言うなら、それが最適なのか……。
それに、『役』と『役者』は関係があるようで実は全くない、っていつも言ってますからね……。
分かりました。やります!」
「はい、待った。流石りゅう。自分で導き出したね。ここねちゃんは?
確認だけど、『ペルソナライズ』参加決定ってことでいいんだよね?」
「天川くんがやるなら、って言うと怒られますか……? 私の気持ちの問題だとは思いますが、天川くんと一緒にやりたいんです。だから、私達が『アイアイ』なら、やってみたいです」
「よし! ここねちゃん、改めてお礼を言いたい。『ペルソナライズ』に参加してくれてありがとう」
れいさんが、また四十五度でお辞儀をして、私にお礼を言った。
「あの……畏まるのは、私が『投影』で求められるクオリティを今も出せるかどうか、確認してもらってからの方が良いと思いますけど……。
それともう一つ。『愛しのアイアイ』はもう別の劇場で公演中ですけど、いいんですか? 同じのやっても。期間が重なるかどうかは分かりませんけど」
「『投影』は関係ないよ。『ここねちゃん』が参加してくれることが嬉しいんだから。でも、間違いなくクオリティは出せると思う。完全創作が原作だとしてもね。私の直観が言ってる。
質問に対しての回答は、『愛しのアイアイ』は原作者不明で、著作権フリーだから、独占公演のようなことはできない。仮に期間が重なっていたとしても問題ない。そもそも、『ウチ』でやる時は原作を改変してもらう。『シン愛しのアイアイ』にね」
「原作を改変したら怒る人達が絶対にいますよ。それが問題となった事件も裁判もあるし」
「知ってる。今回の場合、原作者不明だから、改変が上手く行って、原作より面白かったら全員黙るはず。そもそも、原作者に改変してもらうんだけどね。台本含めて」
「え⁉️ れいさんは原作者を知ってるってことですか?」
「いや、直接は知らない。でも、繋がりはある。その繋がりで台本を書いてもらった。
私は観客を暗い気持ちで帰らせたくないから、ハッピーエンドじゃないと嫌だし、その後の展開のために簡単に交通事故に遭わせないでほしい、『アイ』はもっと賢いはず、殺処分を簡単に下す政府もどうかと思うって希望を出したら、最高の作品がすぐに出来上がってきたよ。
もちろん、私が無理を言っただけで、原作は名作だと思ってるよ。
でも、ハッキリ言う。真の天才脚本家だよ。それを簡単に超えてきた上に、舞台用の台本までわざわざ用意してきたんだから。
しかも、『その要望を待ってたんだよ、それはもう用意してあるんだ』と言わんばかりに、本当にすぐにね。
普通は、舞台脚本を書いたことがないと、役者の動きだったり、どこでどう盛り上げるかの演出だったり、場面転換の方法だったりがチグハグになるはずなんだけど、それも全くなかった。
しかも、ご丁寧にアドリブを入れていい場所が指定されていた。それ以外は絶対に入れるなってことだけど、私達にとっては分かりやすくてありがたかった。
つまり、単なる原作者じゃなかった。舞台の全てを理解した原作者だったんだよ」
「また天才ですか……。どんな繋がりだったんですか?」
「そもそも、『愛しのアイアイ』は自費出版で、とある本屋で置かれていたのを、とあるプロデューサーが見つけて気に入り、メディアミックス企画の中で、それを舞台化したもの。
そのプロデューサーが、本屋と交渉して、原作者への連絡ルートを開拓した。でも、原作者と直接会ったことはないって」
本屋と聞いてすぐに思い浮かぶのは『ウォッチャー』だ。あの人ならそういうことにも関わっていそうだ。
「そのプロデューサーって、『真の天才に会った話』に出ていたプロデューサーですか?」
「え、そうだけど、ここねちゃんあの本知ってるの? 世界に三冊しかないのに」
『ええええ⁉️』
また、天川くんとハモった。
「本屋に二冊、私の所に一冊。ある日、劇場の再起本を三冊作りたいから、許可がほしいって連絡が来て、『何それ少な! 面白そうだからいいけど』って了承したら、見本じゃない本刷りの一冊が私の所に送られてきて、『いや、二冊しか売らんのかい!』って誰もいない所でツッコミを入れた覚えがある」
「いや、一冊は落丁だったので、実質一冊しか売り物になってなかったですよ。まぁ、ここねちゃんは結局交換しなかったので、まだ一冊誰か買えますが」
天川くんの補足に私は頷いた。
「でも、その数少ない本を、ここねちゃんが買ったってことか……。まさに『運命』だ。最後の一冊は果たしてどんな人が買うのか、興味があるね。
中身は誰がどうやって書いたか分からないけど、固有名詞以外は全部真実だよ。ある意味、恐怖だったね。言ったことまでその通りすぎて。だから、それ以上思い出さないことにしてる」
「どれだけの謎を秘めてるんだ、『ウォッチャー』は……」
天川くんが探偵モードに入りそうなところで、れいさんが話を続けた。
「話が逸れちゃったから、元に戻そうか。これからの予定を話しておくよ。
稽古は約一ヶ月。九月から土日祝日限定で公演開始。二人はもう夏休みに入ってるけど、稽古期間でも無理にここに来なくて構わない。『シン愛しのアイアイ』の場合は、『本読み』はないから、『読み合わせ』や『通し』がある時は来てほしいかな。『通し』は『通し稽古』のことね。
『ペルソナライズ』は、特に読み合わせを重視している。本番でアドリブは一切入れない。その代わり、読み合わせの時に役者から色々な意見を出してもらって、台本を修正していく。もちろん、修正台本は脚本家や演出家にチェックしてもらう。でも、今回は完璧すぎてほとんどないんじゃないかな。
限りなく可能性は低いけど、あるとしたら、ここねちゃんから出ると私は思ってる。この人はこんなことを言わないってね。『子どもA』の時はどうだった? りゅうからは本番でここねちゃんの台詞が変わったって聞いたけど」
「えっと……台本は一回だけしか読んでないので、台詞は覚えてないです。本番の台詞はカットが始まって咄嗟に出たものなので……」
『ええええ⁉️』
今度は天川くんとれいさんが驚いた。
「そもそも、監督が私にこう言ったんです。『一般公募で原作にはない短い台詞だから、素人らしさ、子どもらしさを出すために稽古や滑舌練習はあまりしないように、台詞は正確じゃなくてもいいから』って。
撮影後に脚本家からも監督からもオッケーが出たので、『結果オーライ』かなと」
今になって思うと、天川くんも私も『結果オーライ』が意外にあるなぁ。
「それにしたって、一回しか台本を読んでないのも、カットが始まってからっていうのもすごいよ。たったそれだけで『投影』ができるってことだから」
「そうなのかなぁ……現実の人間って、台詞が与えられてるわけじゃないし、その時の状況で何を話すか決まるでしょ? もちろん性格もあるけど、あの時の役は台本からじゃ性格は読み取れないから、だったら全体の流れと空気を読むしかないと思って、そこで出た台詞なんだよね。モブを演じたことがある役者ならきっと分かってくれるよ」
「それはそうなんだけど、台詞改変でバチッと決めてくる精度とクオリティがすごいんだよなぁ……。『良い子の役者は絶対に真似しないでね』って言わないと勘違いされるよ」
「これは面白くなりそうだねぇ。真の天才脚本と天才役者のコラボレーションがどうなるか、乞うご期待だ」
れいさんがニヤニヤしながら私達のやり取りを見ていた。
それから私達は、台本を受け取るため、劇長室に向かった。
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