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さよならアイドル~グッバイ、マイハート~  作者: 立沢るうど


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第十話……「全部事実だよ」

「おじゃましまーす」


 天川くんが丁寧に靴を揃えて私の家に上がった。


 男の子を家に上げたのは、もちろん初めてだ。お姉ちゃんも同じく、男の子を上げたことがなかった。それは当然、私一筋だったから。


 天川くんをリビングに通し、ソファに座ってもらっている間に、私がコーヒーを用意する。

 お構いなくとは言われたものの、お菓子も用意した。


 私が向かいのソファに座って、待っていた天川くんと同時にコーヒーを啜ると、彼の方から会話が始まった。


「ご両親はお仕事? 忙しいのかな?」

「あ、うん。二人とも証券会社の社員だからね」


「夜遅くまで働いてそうだね。それとも、忙しすぎてあまり帰ってこないとか?」

「そうだね。あまり……。だから、天川くんはゆっくりしていっていいよ」


「ありがとう、ここねちゃん。ところで、そこにある写真立てに入って写ってるのって、ここねちゃんとお姉さんだよね?」


 なんだか取り調べのように、天川くんが私に質問を畳み掛けてくる。


「あ、うん……」


「見た感じ、ここねちゃんが小学生には上がってそうで、六、七歳。お姉さんが、十一、二歳ぐらいかな?」

「私が七歳で、お姉ちゃんが十一歳の時の写真」


「今、お姉さんは、大学二年生かな? 昨日、ここねちゃんは、お姉さんは完璧超人って言ってたけど、今もそうなの?」

「う、うん……」


「でも、お姉さんの『こころ』さんは、その写真の次の年に交通事故で亡くなってるよね?」

「…………」


「もし、お姉さんが今もいるとしたら、その写真があるはずだけど、他には置いてないよね?」

「…………」


「それに、さっき駅前で僕を見かけた時、僕の横を見て、『お姉ちゃん』って言って少し会話してたけど、あの時は僕以外に誰もいなかったよね?

 短い会話か、あるいは一方的に言われただけだったと思うから、僕も『投影』に惑わされず『いないこと』に気付けたけど」

「…………」


「さっき、ご両親は『あまり』帰ってこないって言ってたけど、『全く』帰ってきてないよね? 生活費が毎月振り込まれているだけで」

「…………」


「つまり、ここねちゃんは毎日一人で生活してるってことだよね?」

「…………」

「…………」


 天川くんの沈黙が、いつもと違って、とても長く感じた。


 そして、話はまだ続く。


「ここねちゃん、僕が調べた事実と君の話から導き出した結論を今から話すから、俯きながらで構わない、しっかり聞いてほしい。

 三空家は、両親と姉妹二人の四人家族。両親が証券マンということもあり、忙しい中でも裕福で幸せな家庭を築いていた。二人の時間が多いこともあり、妹の『ここね』ちゃんは姉の『こころ』ちゃんが大好きで、姉の真似をよくしていた。真似されることは良いことだと姉は考えていたので、妹には自由にやらせていた。当然、聡明な姉は妹の才能に気付く。

 ある時、姉限定ではあるものの、妹の特技である『真似が好き』と『演技が好き』を姉が結び付けて、テレビドラマ『裏社会探偵X』の一般公募に妹を出演させるべく、芸名『九葉ねいろ』を二人で考案し、両親に了承してもらった上で、応募することにした。その証拠に、この芸名には、『ここ』のは『ね』い『ろ』として、二人の名前が含まれている。

 そして、知る人ぞ知る『九葉ねいろ』は、そのドラマでとてつもない才能を発揮する。それを見た姉は、嫉妬に燃えた……わけではなく、自分も妹のように輝きたいと考えた。

 容姿や能力を普段から褒められていたこともあり、妹には絶対に勝てない演技とは別の、アイドルを目指すようになる。妹と芸能界で一緒に仲良くいられるのはその選択しかないと考えたのかもしれない。姉も妹のことが大好きだったから。

 アイドルを目指した姉を見て、妹は当然それを真似する。この辺りで、姉が妹にアイドルを目指すのを辞めるよう優しく働きかけるようになる。

 妹がアイドルになるのは難しく、仮になったとしてもやっていけない、姉妹で仲良く過ごすことができないと考えたから。ここねちゃんに対する『今』のこころさんの接し方は、この時代に構築されたはずだ。

 そんな時に悲劇は起きた。姉が交通事故に遭い、その場に居合わせた医師の応急処置の甲斐もなく、死亡した。葬儀後、すでに才能を覚醒させ、姉の死を理解できていなかった妹が、まるでそこで生きているかのように、日常的に『投影』を行うも、両親はそれを不気味に思い、その悲しみに耐えられなくもなり、たった八歳の妹を家ごとネグレクトする。

 ちなみに、祖父母は亡くなっていたり、施設に入ったりしていて、妹を保護できない。親戚とは元々疎遠だった。

 なぜ妹を児童施設や精神病院に預けなかったのか。おそらく、両親も精神的ダメージを負い、子どもがいた過去をリセットしたかったから。ほんの少しでも思い出したくなかったはずだ。

 保険金が入り、元々裕福だったこともあり、両親はここから遠く離れた別のマンションを購入、転職もして、子どものために作っておいた口座に、生活費を毎月末に振り込んでいる。その振り込みは先に述べた理由により、全て自動化されている。

 驚くべきは、八歳から今まで一人暮らしを続けていた妹だが、これは家族全員に対する『自己投影』を行うことで、家事を含めた生活力を問題なく発揮できる。

 精神的な支えは、『投影』で家族がそこに『存在できる』ので問題ない。それも大好きなお姉ちゃんが一人いれば十分。

 妹は本気でアイドルになるべく応募を始め、それをずっと続けてきたが、何回応募しても書類選考が通らないことで、精神的ダメージを徐々に負っていき、さらに妹に対する姉の当たりもどんどん強くなる一方。

 最終的には、家以外、さっきの駅前で姉の『投影』と区別が付かない幻覚を見るようになり、精神崩壊寸前まで行く。これはハッキリ言って、僕とれいさんのせい。

 昨日の時点で、僕とれいさんは、君の姉がもうこの世にいないこと、君の家庭の状況をすでに知っていた。僕が事前に教えたからね。でも、アイドルを目指していたことは知らなかった。

 あとは、あの時言った通り。姉の生死にかかわらず、妹は姉の幻影と夢を追いかけていただけだった。

 僕達は、その場で諦めさせようと、本当はそうじゃなかったとしても、それを事実であるかのように突き付けて無理に追い詰めてしまった。そして、あえて声だけかけて、君を追いかけなかった。結局、時間が必要だと思ったから。

 あのあと、今言ったことのほとんどをれいさんと共有し、これからについて相談した。

 以上が、僕の出した結論と顛末だよ」

「…………」


「ここねちゃん、僕は『今がベストタイミング』だと言ったよね。あの意味を君も完全に理解しているはずだ。『今』の君なら……、『こころ』さんの存在と僕達によって絶望と希望を経験した君なら、全て受け止めることができるはずだから……」

「…………」

「…………」


 天川くんは私の答えを黙って待っている。会話の始めと違って、今はもう特に何かを質問しているわけではないのに。

 だとしたら、彼の真意は限られてくる。


 いや……違う。私がどう答えたいか、だ。

 天川くんは、僕の質問なんてどうでもいいと言ってくれたに等しい。

 だから、私の答えを待つことなく、最初に質問攻めをした。


 そして、今は無言。私がよく知っている、天川くんのいつもの無言だ。


 あれから始まったんだ。あの前代未聞の無言下校。

 でも、実はその前に『そら』くんとして会っていて、それよりも前に『とら』くんとして会っていて、最近では、劇団員の『りゅう』くんを知った。

 れいさんよりも、私が一番、色々な天川くんを見てきたのではないだろうか。


 それだけじゃない。天川くんは、色々な感情を私にぶつけてきてくれた。

 それなら、私からも……。そうじゃないと、一緒に歩けないよね……。


 私は俯いていた顔を上げ、天川くんを真っ直ぐに見つめ、口を開いた。


「天川くん……。天川くんの言ったこと、全部事実だよ。お姉ちゃんはもういない。私が『投影』していただけ。遺族としての家庭も私が崩壊させた。

 その事実を私に突き付けてほしかったから、天川くんの申し出を受けて、家に上げた。

 以前の私だったら、絶対に上がらせなかった。事実を受け入れることが怖かったから。両親からすれば、私が悪魔の子に見えただろうことを肯定したくなかったから。そして、天川くんに、私の頭がおかしいと思われたくなかったから。

 でも、もう大丈夫。それを全て知った上で、天川くんが『ここ』にいるから。いや、ずっといてくれたから……。

 私からも最後に質問させてほしい……。

 改めて、これからも私と一緒にいてくれますか……?」

「ここねちゃん、その質問はするまでもないよ。そうじゃなかったら、『ここ』にいないからね。その答えは『イエス』だよ。そして、もちろん、『結果オーライ』さ」


「……。いや、全然上手くないから。それ、言ってみたかっただけだよね?」

「正解」


 私達は笑い合った。私は涙が出るほど笑って、その涙が心地良くて、もっと笑いたくなって。


 これからもきっと、思い出せないぐらいに何度も笑い合おうと思う。天川くんとなら絶対に実現できるから……。


「最後に、一つだけ分からないことがあるんだ。あれだけ精神崩壊寸前だった君が、あっという間に立ち直ったことだ。さっき言った通り、時間が必要だと思ったのに。僕はあの時、腕を掴んで引き止めただけだったから……」

「簡単だよ。あの鐘の『音色』が思い出させてくれた。私はお姉ちゃんが大好き。お姉ちゃんも私が大好き。それを思い出しただけ。

 芸名の『九葉ねいろ』は、私達の名前が入ってるだけじゃないんだよ。私達はこれから様々な『音色』を、その演技によって奏でていく。同時に、様々な『言の葉(ことのは)』が自分達を取り巻いていく。姉妹同士でもそう。でも、その茎、根っこは一つ。それは一心同体である私達自身であり、お互いの思いやり。

 同じ言葉でも話者の感情と聞き手の状況次第で違った意味になるよね。例えば、『いつまでそこにいるの?』は、『邪魔だからどこか行ってよ』と『早く前に進みなさいよ』のどちらの意味にもとれる。『早く行ってよ』『どこでもいいから早く』もそれと同じ。全部、あの時お姉ちゃんに言われた言葉。お姉ちゃんは私を前に、今よりも速いスピードで進めたかっただけなんだよ。

 それは私の潜在意識だったのかもしれない。でも、私達の見ている方向は同じだった。最初はお姉ちゃんが私を否定してるのかと思ってた。違うんだよ。私がお姉ちゃんを否定してたんだよ。お姉ちゃんを亡くした後の家庭を崩壊させたのは、お姉ちゃんを『投影』した私だから。そのトラウマをなかったことにしたかったけど、できなかった。

 でも、そんな必要はなかったんだよ。それが今の『私』で、それを受け入れてくれる『天川くん』がいるんだから……。

 芸名に込められた意味はまだあるんだよ。私達が困った時は、神様助けてください。せめて、『運』だけでも、ってね。

 『九葉』には『神の運』という意味があるから、まさに天川くんの言う『運命』『奇跡』があの『音色』を奏でて、私に大事なことを思い出させてくれたんだって思ってる。私がお姉ちゃんの幻覚をあのタイミングで見たことも含めてね。流石にオカルトかな」


「いや……。僕が言うのも何だけど、『ウォッチャー』でそれを思い浮かべてしまったように、今のところはそれを信じて納得せざるを得ないよ。調査、観測できていない以上、『それ』が事実だから。

 それにしても、名付けの天才姉妹だね。当時、六歳と十歳だよね。すごいよ。そんなにたくさんの意味を込めると同時に、名前を初めて見聞きした時にも、素晴らしい魅力やイメージを感じられるんだから」

「ほとんどお姉ちゃんが考えたんだけどね。私はお姉ちゃんの名前も絶対入れたいって言っただけ。本当に天才だったよ。天才だけを集めた学校を作るから入学しないかってスカウトの人が来てたぐらいだし」


「いや、それ本当にすごいよ。そこまでは調べられなかったな……。と言うか、今でも聞いたことがないから、完全非公開か、中止にでもなったかな。

 いずれにしても、お姉さんは、ここねちゃんを理由に断った、でしょ?」

「大正解」


 私達は笑い合った後で、コーヒーを入れ直して、肉体的にも精神的にも一息つくことにした。


「そう言えば、天川くんの家庭については聞いてもいいのかな? 普通?」


「まぁ、普通ではないよ。自分の子どもを子役にして、アイドルデビューさせる家庭が普通なわけないからね。まぁ、演技に興味を持たせてくれたことには感謝してるよ。

 父親はギャンブル中毒でアルコール依存症。そんな夫に愛想を尽かすも離婚はしない母親は息子に一発逆転を賭けて、芸能界デビューさせた。

 僕のギャラは、父親の遊興費に消え、母親も調子に乗って散財する始末。二人の借金は完済するものの、ついに僕の方が愛想を尽かして、今は親戚の家に転がり込んでいる。その親戚からは、なぜアイドルを辞めたのかと責められ、煙たがれている。

 結局、お金が欲しかっただけだったんだよ。ファイアプはそんなに売れてなかったから、ギャラは大したことないのにね」

「いや、あっさり言ってるけど、天川くんも結構大変じゃん! 私も何か協力できることは……」


「それなら、ここねちゃん、僕をここに住まわせてくれない?」

「え……うん……」


 あ、なんかもうこのやり取りが懐かしくなってる。色々あったからなぁ……。


 って、いやいや、同棲じゃん!

 しかもプロポーズされてるし、してるから、ほぼ夫婦生活じゃん!


「ありがとう、助かるよ。ご両親の責任問題になったり、誘拐になったりしないように僕が脅して無理矢理住み着いたってことにしようか。どうせなら、僕の貯金を全部移してもいいかな。れいさんのおかげで、両親と親戚に吸い取られずに、随分あるから」

「どういうこと? 例の経営の天才絡み? 贈与になっても困るから、別に移す必要はないんだけど」


「半々だね。僕が早くに、れいさんに会えたっていう話で、その時、僕が所属していた事務所とれいさんの事務所を二つ経由することで、両親に内訳がバレずに、れいさんに作ってもらったれいさん名義の僕の新口座にギャラの一部が振り込まれるようになった。一応言っておくけど、過大請求や脱税じゃないよ。

 れいさんの事務所とテレビ局や制作会社で直接契約を結んで、そこから、僕がいた事務所に下請けを依頼した構図かな。で、れいさんの事務所から僕の新口座にって流れ」

「れいさんって芸能事務所も持ってたんだ?」


「うん。それに加えて、その時すでに、劇団、声優事務所、社会福祉法人を持っていて、それが今も続いてるから、色々な仕事が来て、所属メンバーは一流を目指せるってことなんだよね。ただ、劇団とは別に、劇場運営だけは上手く行ってなかった」

「いよいよ、劇場を畳もうかと思っていたところで、真の一流役者の前に、とあるプロデューサーが現れた」


「その通り。本当にあの本に書かれてるんだね。いきなり天才が現れないところがミソだよね。じゃあ、この話は省略していいか。

 ご存知の通り、色々あって劇場は再起し、個別のグッズ売上も含めた役者評価システムが導入された結果、劇場や事務所の利益から役者にある程度還元されることになって、僕の新口座が潤ったのが経緯。

 ちなみに、そこから例の天才によって僕の資産は十倍になった。もちろん、報酬を支払った後の話」

「え、すご! お金を預けて、どこかに投資したってことだよね。でも、それ詐欺の常套手段だし、『結果オーライ』だけど、何とも言えないよね」


「そう。本来、そういう話があったら絶対に断るべきなんだけど、この場合は、僕の方から頼んだんだよ。向こうは最初否定的で、『全てを失ってもいいのなら』って言ったんだけど、僕はその姿勢と言葉がむしろ信頼に値すると思った。そして、天才の手腕を試したと言ってもいい。

 結果、紛れもない真の天才だった。会社経営どころか、経済全体を見通す能力があったんだ。実は、報酬は元手の二割、つまり、十倍後の二パーセントしか、『彼』は受け取らなかった。僕は彼を試した手前、『六十パーセント以上支払う。経営に携わる者なら対価はきっちり受け取るべきじゃないか』って言ったんだけどね。

 そしたら、『それは個人間での口約束による契約だし、趣味でやったことで、小遣い稼ぎにすぎないから受け取らない。それでも確定申告しないといけない額は余裕で超えてるから面倒だよ。本当は、一厘でもいいぐらいだ』って。

 ちなみに、れいさんの、と言うか、れいさん所有の持株会社の資産は百倍になって、今は僕もその会社も安定資産運用になっている」

「いや、すごすぎ! そこまでは本に載ってなかったよ。やっぱりノンフィクションで、そのことを知られたら危険だからかな」


「間違いなくそうだよ。まぁ、れいさんは劇場や役者、新世界の構築に投資と還元をしていくから、いくらお金があっても足りないんだけど。

 それに、厳密に言えば、僕の新口座については、れいさんの名義だから、れいさんが裏切って、『私のお金だ、その分の税金も払ってるし』と言えば、僕は何も言えないんだけどね。でも、それでもいいやと僕は思ってる。お世話にはなったし、お金に興味はないし……ん?」


 天川くんが話している途中で、彼のスマホが震えたようだ。


「あ、いいよ、出て。この時間なら親戚の人かな?」

「いや……。僕がいた事務所の社長。考え直してアイドルに戻ってくれっていう電話だよ。そもそも、契約解除は完了していて、前も断ったのに……。

 でも……今考えれば見透かされていたのかもしれないな……。ごめん、出るよ」


 そう言って天川くんは立ち上がり、その場で電話に出た。


「おはようございます。……ええ……はい……その件ですが、やはりお断りします。

 僕は、あれから周囲に『なぜアイドルを辞めたんだ』と罵倒され、その度に心の底で迷っていました。戻れるなら戻った方が良いんじゃないか、戻るなら早い方が良いんじゃないかと。社長もそれが分かっているから、僕に何度も電話してきてるんですよね。

 でも、違うんです。僕はすでにそこを『通り過ぎていた』んだと改めて分かったんです。苦悩を乗り越え、重大な決断をする人を目の当たりにして。僕もそうだったんだと。辞められるなら辞めた方が良いんじゃないか。辞めるなら早い方が良いんじゃないか、たくさん悩んだじゃないかと。またそれを繰り返すなんて馬鹿げてますよね。

 だから、アイドルには戻りません。今の『僕』なら、迷いなく振り返って、アイドルにさよならを言い、再び前を向ける。

 今も必要とされていること自体は嬉しいです。お電話ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。それでは失礼します」


 お辞儀をしながら電話を切った天川くんの表情は、今まで見た中で一番清々しかったように思える。


「一方的に話して切っちゃった。まぁ、大丈夫だよね」

「うん。すぐにかけ直して来ないってことは大丈夫だよ。それにしても、天川くんかっこよかったよ。良いフレーズも聞けた」


「どれのこと? もしかして『アレ』かな? あの鐘を鳴ら……」

「いや、戻りすぎ!」


 私達が一緒に紡いだ思い出なら、いくらでも戻っていい、それは思い出すだけで楽しいから。天川くんがそう言っているようで、私はより嬉しくなって一緒に笑った。



 さよなら、『そら』くん。

次回更新予定日は活動報告をご覧ください。

ブックマーク、レビュー、ポイント等、いただけると嬉しいです。

Xアカウント @tachizawalude

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