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第5話 耐え忍ぶ勇者

 メンシュライヒ王都に向かう道中、馬車の中。


「ぷっ……ぷぅ~……」

 寝ているサキュのほっぺた? いや顔? いや体全体? を指で突っつく。

 実はサキュは良く寝る。1日のうち20時間は寝ている。


「寝てる姿も可愛いよね~♪」

「確かに、可愛いな」

 

 愛らしい顔に負け、今もこうしてツンツンしてるわけです。

 

 カプッ。

 いてっ!


 寝ているサキュに指を噛まれ、そのまま吸精される。

 

「へへっ、いっぱい食べて大きくなるんだぞぉ~!」

「まぁ、可愛いよねっ」

「えぇ、可愛いですわ」


「……ぷぅ? ぷっぷー!」

 ふと目を覚ましたサキュと目が合い、顔目掛けて飛びついてくる。

 全身? 全顔? を使ったスキンシップ。


「ずるい」

 それを目撃したディちゃんが、反対側から俺の頭にお顔をすりすりしてくる。

 

「ああああああああ」

 すりすりすりすり……頭が幸せと物理的な面とで震える!

 これぞハッピーすりすりバーガー!




「……もう少し緊張感を持ったらどうだい☆」

 しかしなぁ……。


 そう思い、この数日間を思い出す。




 ◆◇◆◇




「いいかお前ら! 俺らは野蛮な存在でも狂った復讐者でもねぇ! 向かってくるやつには容赦する必要はないが、不用な殺しはなしだ!」

「「「おうっ!」」」

 この進軍中、初めてのメンシュライヒの町を前にライガが気合を入れる。


 しかし――。


「軍隊どころか……見張りもいない……?」

 俺らを迎撃する存在はそこにはいなかった。


「……正直肩透かしだが……まぁ、いい。次に行くぞ!」

「「「おうっ!」」」




 しかし、次の町でも……。


「いいかお前ら! 俺らは野蛮な存在でも狂った復讐者でもねぇ! 向かってくるやつには――」


 全く同じ状況。




 次の村では――。


「誰か助けてーっ!」

 守る者のいない村人がオークに襲われていた。


「――行くぞっ!」

 ようやく活躍の場を得られた戦士たちが瞬く間に制圧。しかし――。


「ありが……ひぃっ! 獣人!?」


「……構うな! 次行くぞっ!」

「「「おう!」」」

 少しばかり悲しい思いをしたかと思いきや。


「まってぇー、おじちゃんたちー! ママをあいがとー!」

 そう言ってライガにお花を渡してくれる女の子。


「……こちらこそ、ありがとな」

「えっへっへ~、どういたまして!」

 キャワワッ!




 そして次の町でも――。


「いいかお前ら――」

「わかってるよ大将! けどまた何もねえ! どうなってんだ!?」

「ここまで腹すかしたヒトのガキどもに飯分けてやったり魔物から助けたりしてやってばかりだ!」


 うんうん、さすが気のいい獣人さん方!

 こういう草の根運動大事!


「そうじゃないでしょ☆ しかし、本当どうしたんだろうねぇ?」


 ◆◇◆◇


 そうして遂に今日の夕刻頃、メンシュライヒの王都まで目前というところまで来た。


「……俺さ、あの演説、一生懸命考えたんだよ。みんなが少しでも頑張れるようにってさ」

「まぁ、そうね、そうだろうね」

 いつも威風堂々としたライガ、今日は覇気も語彙力も足りてない。


「……それがよぉ、あんまりじゃねぇか?」

「あー、ね」

 昨日なんか、道中のホッコリするエピソード対決なんてしてたものね。


 ちなみに1位は『女の子に貰った花を眺めるライガ』

 『立ち寄った村でサキュをボールに、村の子と投げっこするディちゃん』は惜しくも2位だった。

 ……サキュも楽しそうだったからいいんだよ!




「一応聞くけど、戦線布告みたいなことは?」

「……奴らの伝達兵が来たときに、その場で言ってやった。親書とか言う手紙も破いてやった」

 そら完全に敵対行動ですね。


「そ、そっか……」

「うむ……」

 だったらなぜ、ここまで無警戒なのでしょうか……。


「ま、まぁ、本番は明日ですわ! 今日はゆっくり英気を養いましょう!」

「う、うむ……そうだな!」

 そう、いよいよ明日。メンシュライヒの王都に殴り込む!

 気を取り直して――!


 今日のエピソードは何にしようかなぁ~!

 リルちゃんに言い寄ってきたやつをぶっ飛ばした話にしようかな~!




「伝令! 大将はどこっ!?」

 などと考えていると、慌ただしく鳥人族のお姉さんが近づいてくる。

 一気に緊張感が走る!


「な、内乱です! メンシュライヒ王都が戦場になってます!」




 ◆◇◆◇




 ――『紅蓮の剣』ブレイヤ視点――


「ぐうっこのままじゃっ!」

「諦めるなっ! 『ちょっと頑張った火の壁!』」

「何だこの火の壁はっ! 退け退けぇっ!」


「た、助かりました、勇者様……」

「俺は勇者ではない……が、礼はありがたく受け取っておくよ」


 あの日、臆病だった僕に彼らが示してくれた戦い方。

 殺せないなら、壁を作ればいい。そして耐え続ければいい。


「もう少しで援軍が来るはずだ! 頑張ろう!」

 背後の王宮には避難している国民たち。

 必ず守り切って見せる!




「燃やし尽くした方が早くない?」

 ホーネットが物騒なことを言うが――。


「バカ言うな、同じ人間だぞ!?」

「同じ人間だからよ。主義主張が異なれば殺し合うのが人間じゃない?」

 物騒すぎるこの女! もう嫌だっ!!!


「……第一王女の言葉を信じて待とう」

 しかしこいつから離れれば何をするかわかったもんじゃない。

 いいんだ、もう逃げるだけの人生は終わったんだ。今はただ、耐えるのみ!


「大丈夫ですか勇者様! あなたのおかげで誰も死んではいませんが……その、そろそろMPが……」

「……もうすぐ夜だ。夜になれば一時休戦だろう。それまでは持たせるさ」

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