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幕間 ロリロ・リィと大昔の約束

 長距離の念話を使ったことによるMP、マナポイントの欠乏のせいで体がだるい。


 魔王、か。いよいよ奴らも奥の手を使って来たね。


「……いよいよ、か」

 薄れゆく意識の中、思い出すのは2000年以上の大昔。だけれど、今でも鮮明に覚えている大切な、約束……。




 ◆◇◆◇




「いてて……あの程度の魔物に怪我させられるなんて……」

 精神魔法に特化されて造られたオリジン種である私は、ハイオーク如きに怪我を負わされていた。

 折れた足の痛みに動くことができず、その場に座り込んでいた。


「キミ、どうしたんだい!?

「――ッ! 誰!?」


「僕は……この森で魔物の生態を調べている者さ。そんなことより、その足診せて!」

「この程度の傷、問題ないっ!」


「どう見ても折れてるじゃないか! 近くに僕の家がある、そこで治療しよう!」

「――はっ! 離せぇっ!」

 この時は小さい体を恨めしく思ったものだけど、今にして思えばそれが良かったんだろう。




 そいつはアーランド・リィと名乗った。


「ほら、たくさんお食べ☆」

「いらんわっ! 食べなくても問題ない!」


 ランク5にあたる私に食事は必要なく、周囲のマナにより怪我は回復するし、生命維持に必要な栄養も賄える。

 そもそもランク5からは生物としての構造が違う。


 逆だね、身体を構成するマナ密度が一定を越えた存在をランク5と呼ぶんだ。

 ……シュナイダーたちはもう知っているのだろうか?


 まぁ、それはさておき。


「そんな訳ないでしょ! 食べないと傷も治らないし、大きくなれないよ!」

「これ以上大きくならんわ! いいから、ほっとけ!」


「いいから、いいから! 元気が1番だよ☆」

「余計な世話だと言うとるのに……」


「ほらほら、あーん!」

「……ぁ、あーん」

 いやに惹かれるその行為に、思わず口を開けてしまった。


「(し、しまった……つい……)」

 無警戒、明るい、お人好し、そんな彼に……こちらの警戒も緩んでしまっていたのだろう。


「(そう言えば、ヒトと深く関わったことなどなかったな……精神魔法向上のためにも、一緒にいてみるか……)

 その後もアーランドは世話を焼いてくれたが、その時の自分はそんなことしか考えていなかった。




 やがて足の怪我も完治したが、まだ彼、アーランドと一緒に生活していた。

 アーランドは当時15歳程、森に居を構えて魔物や動物などの生態を独自に調べているそうだ。


「だって、自然って凄くない? どんな意味や可能性があるんだろうとか、ワクワクするじゃん☆」

 なぜそんな生活をしているか尋ねたが……明るいのか脳天気なのか……そんな調子だった。


「ロリロのことも知りたいなぁっ☆」

「美女には秘密が多いのよ」


「……僕より小さい癖に」

「うるさいっ!」


 オリジン種は、主である“奴”とそれに関連することを話す事ができない。そう制約させられている。

 この時は、そうでなくても話すつもりなどなかったが――。




「馬鹿か、私は大丈夫だと言ったろ。弱い癖に庇おうとしなくてもいい」

「……だって、ハイオーク、怖いでしょ?」

「……いらぬ世話だっ」




「何の絵を描いてるんだ?」

「ロリロだよ☆ 今まで見たなかで1番の美人さんだからね!」

「……変態めっ」




「大変だっ! 見てっ! ロリロっ!」

「どうした!? そんな血相を変えてっ!」

「あそこ、小鳥の雛が孵ったよ!」

「……ばかっ! 心配させるなっ!」




 アーランドと過ごすうちに……やつの明るさや優しさに触れるうちに……。







「ロリロ、まだ寝ないのかい? また遅くまで魔法の本を読んで……体調崩さないか心配だよ」

「……先に寝といてくれ」


「……そんなに焦ってどうしたんだい? ……どこか行っちゃうのかい?」

「……別に、どこにも行きやしないよ」


 自身について話すのに邪魔なこの制約、それを打ち破る方法を必死になって探す。


 本当のことを言ってアーランドの明るい顔を曇らせてやる!

 真実を知って優しくなんてできるもんか!







 やがて、アーランドの髪に白色が目立って来た頃……。

 呪い、という概念に目をつけてしばらく経ち、ようやく制約を破るめどが立った。


 呪い。強力な、何ものにも変え難い、対象への執着。


 本当に思っていることを、隠し事ができないように!

 この忌まわし制約に縛られないように!

 “奴”の制約を打ち破って、アーランドに本当のことを言うんだ!


 そう思いながら強く強く自分を呪う!




 そして――!




「……ざまぁみろ、“神”め! 制約を破ってやったぞ!」

 成功した。その興奮のまま、アーランドに全てをぶちまける!


 私の存在する理由を! この世界の真実を!




 …………。




「――これが、私という存在さ。どうだ! 幻滅したか!? 本当の私を知って欲しい! ――ぁ?」

「ロリロ……」


「まだ脳天気に笑えるかい!? こんな酷いことをして来た私でも……! や、やめっ!」

「……」


「それでも一緒にいて欲しい!」


 呪いによって、現れてしまった本心。

 それすらも叫んでしまっていた。




 アーランドは……。


 優しく私を抱きしめた。


「……話してくれてありがとう。当たり前だよ、お嫁さんなんだから、ずーっと一緒さ☆」

「お……お嫁、さん……?」


「あれ、違ったのかい? 僕達はとっくに夫婦だと思っていたけど……」

「本当に……どこまでもお人好しなんだから……愛してるよ」


「僕もだよ」




 その夜、初めてアーランドと結ばれた。




 気怠くも心地よい幸福感に包まれ、ベッドで2人横たわる。


「だけど、悔しいね……」

「何が?」


「僕達は、神に管理されてるみたいなもんだろう?」

「そうだね」

 この世界は、一定までは効率よく成長させられるが、それ以上……ランク6には到達できないように管理されている。


「それが悔しいよ。僕は君のためならどこまでも強くなりたい。他の人だってそうさ、大切な人のためなら……」

「……」


「それなのに、行き過ぎると排除される。本来は自然の姿なのに……神様に都合が悪いからって。まるで家畜みたいじゃないか」

「……」


「それが……たまらなく悔しいよ」

「……そう言うことは、もっと強くなってから言いな」


「……ふふ、そうだね。でも、成長の限界は誰かに決められたくないよ。僕は僕だもの」

「そう、だな」

 

 この時は、何を言っているのかよくわからなかった。

 しかし、後に忘れられないこととなる。




 数日後、たまたま私1人で出かけた日。

 ……運命の、日。




「おい、ロリロ!」

「お、お前は……!」

 オリジン種、その取りまとめのような存在。


「探したぞ、戻って来い。仕事が溜まっている」

「わ、私は――ッ!


「戻るのに邪魔なモノは排除しておいた。安心しろ、主のことを話したことは俺しか知らない」

 そう言ってそいつは、あるものを持ち上げて見せる。


「……?」

「全く……こんな下等種に話してしまうとは。制約の解き方が気になるが、まぁいい」


「……アー…………?」

「俺たちオリジン種もかなり減って来て困っている。なかったことにしてやるから仕事に戻れ」


「アー……ラン……ド……?」

「私は先に戻っているぞ。別れをさっさと済ませて来い」




「――ぁぁああああああああっっ!?」




 アーランドの生首を抱き締め、慟哭する。

 玉砕覚悟で攻撃しなかったのは……。


 ……お腹に宿る命を感じたから。







 その後、奴らに隠れて子を産んだ。

 奴らの目から背けるため、森で暮らすヒト属に預けた。


 私の遺伝が強いようで、エルフという新しい種族と呼ばれた。


 そして陰ながら様子を見守った。

 呪いが子孫に受け継がれていることを知り、解除の術式を研究してそれも受け継がせる。


 呪いと魔法陣、そしてリィの姓を持つエルフ。生涯をかけて見守り続けると誓う。




 そして私は……ボクは、アーランドの意志を継ぐと決めた。

 神からこの世界を解放すること。

 人間の可能性を摘まれないように。


 彼の最期の望みが、自分の悲願となるのにそう時間はかからなかった。






 もう少し……もう少しで叶いそうなんだ……。

 アーランド、見ていておくれ……。


 あの餓鬼……いや、シュナイダーなら必ず。大切なもののためなら、何でもできるやつだから。




 だから……だから、もしも叶ったその時は――。


 もう一度――。

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