第6話 気付いたときには終わってました
「うぅ……ここは……?」
「あら、あなた。ようやくお目覚めですの?」
「……弟、おはよ」
はっ! 思い出した!
「ディちゃん……」
ディちゃんに拒絶されて意識を失ってしまったんだった……。
「……」
「……」
がばっ!
ディちゃんが抱きついてくる。
「ディ、ディちゃん?」
「あらあら、まぁまぁ」
隙間から見えるディちゃんの顔が真っ赤っか!
あ、あかん! また気絶しそうっ!
「あなた、お顔がその……とても気持ち悪いですわぁ……」
何を言われても一向に構わんッ!
「ところでここは?」
今だ顔を埋めてるディちゃんのしっぽを撫でながら尋ねる。
「領主さんのお宅ですの」
「えっ!? それ大丈夫なの?」
ルフアードに前領主であるソフィたんの家族を殺され、その後釜となった人物。
「えぇ、どうやらソフィアさんたちの知り合いみたいですわ。わたくしも詳しくはわかりませんが、危険はないみたいです」
「そっか……プリンちゃん、診ていてくれてありがとね!」
「ふふっ、寝顔がおもしろいから全然大丈夫でしたわ!」
お、おもしろいって……ひどい!
◆◇◆◇
屋敷のメイドさんによる案内のもと、ディちゃんを抱えてみんなのいる方へ向かう。
時折顔を埋めたままスリスリしてくるのでくすぐったい。
なぜかメイドさんが怪訝な顔をしてこっちをチラチラ見てくる。理由が全くわかりませんけど?
少し歩き、みんなの元にたどり着く。
「おお、目覚められましたか! 戦いの後に気絶されたとか、心配しましたぞ!」
えぇ……悲しい事件がありましてね。
「そ、そうね……」
「私は現領主のバッジオと申します。かつてはソフィア様やクリス様のご両親、ご祖父母にとてもお世話になっておりまして――」
何でもかつての襲撃の際に敵側に捕らえられ、領主として立たされていたとのこと。
インキュバスの町、クインレイブスと似ているね。
「よもや恩人の仇の為に働かされるなど、耐えがたい屈辱でしたが……お2人が必ずや戻られると信じてこの日まで生きてきたのです!」
同じだ……。いつか救われると信じて、耐え忍ぶ戦い……。
バッジオさんはしっかり敬おう!
「私たちも、バッジオさんに会えて本当に嬉しいです!」
「あぁ、もうみんな死んだとばかり思っていた」
「私も、本当に……よくぞご無事で……」
「もう泣かないでくれ! さっき散々泣いただろう!」
あぁ、俺が来る前に感動の再会は済んでたのね。
「すみません……ところで、早速お2人、いやソフィアさんに領主の座をお譲りしたいのですが……」
「……少し考えさせてくれませんか? 言い訳を……」
そっか、前領主一族最後の生き残りだものね……ん?
「はい! ……ん? 言い訳?」
「は、はい……お断りする言い訳を……あ、あれ?」
「え、えぇ~と……つまり、領主になる気はないと?」
「は、はい……。私は今はみんなと色んな所に行きたいんです……」
「そ、そうですか……てっきり、ルフアードのやつから逃亡しているだけかと思っていたのですが……」
「そうなんです……だから良い言い訳をと思っていたのですが……」
「……」
「……」
「隠しときたかった事、言っちゃいましたわね」
「そ、そうねっ」
「……わかりました! ソフィア様のやりたいようになさってください。いつかまた戻られるまで、この町は私がお預かりします!」
「……いいんですか?」
「ええ。元より何十年でも待つつもりでしたから……それより、ソフィア様はお変わりになりましたなぁ……」
「そ、そう?」
「はい。以前は、その……ご自身の意見を言うことがあまりなかったかと。それに強い意志も感じます」
はっと思い胸元のディちゃんを見る。
可愛いから、心配だからと束縛しちゃあいけないってこと……?
目が合ってディちゃんがサッと顔を伏せる。
こ、こんな可愛い子を……!?
「……それはきっと彼の、みんなのおかげかな?」
「……そうですな、きっとそうなんでしょう」
多分違うんだろうなぁ……けど。
束縛の行き過ぎを指摘する機会も、喧嘩する機会も永遠に奪われた。
そして、そこに残ったのは確かな親の愛。
それでいいんだ、それで……。
再び胸元のディちゃんを見る。
自由に、しかし近くで見守ろう。
「ところで、今日はようやく皆さん目覚めたということで宴の用意をしてもよろしいでしょうか?」
「わーい! 待ちくたびれたよー!」
「あぁ、待たせてすまないな」
宿敵を倒したこと、故人を偲ぶ意味でも、今日はお言葉に甘えて楽しく過ごそう!
……しかし、何だか違和感があるなぁ……。
「では夕刻までには急ぎ準備しますので少々お待ちください!」
この場は解散となった。そして一度部屋に戻る途中でふと鏡を見つけた。
そういえば、起きてすぐ来たからなぁ。せめて前髪だけでも――。
と思ったけど、鏡じゃなくてただのガラス? 知らん人が向こう側にいて目が合ってしまった。
「あ、ども、こんにちは」
「? どうしたの? 鏡に向かって挨拶なんかしちゃって」
「え、鏡? 映ってるの俺じゃないよ……?」
何だか角が生えてるし、目ん玉金色だし、口から八重歯っぽい牙も生えてるし……。
「あー……あまり変わらなくって良かったね♪」
「ちょっとワイルドになったわよねっ」
「おもしろい顔ですの!」
「……?」
――っ! 鏡に映ったディちゃんと2人。
情けないようで、逞しくも……いや間の抜けた顔が映っていた。
「えっえっ? 何これ? えっ?」
「気絶してすぐ光って、進化したんだよー♪」
えっマジで? もっとこう、強敵との戦いの最中とか……えー……寝ていて意識なかったんですけどぉ……。
「丸3日間も眠ったままでしたのよ!」
「そんなに経ってたの!? ご迷惑をお掛けしましたね……」
あの日の夜、お胸をもみもみする約束があったのに……!
「ふふっ、それとねぇ~、ふふっ! 養ってあげますからねぇ~♪」
頭を撫でられながらそんなこと言われる。んん?
「くっ……確かに仕方ないところもあるけどさっ!」
「あなた、例の通知で『個体名シュナイダー・ロベット』と……」
えっ! そうなの!? 俺の姓ってロベットなの!?
「よしよし、ママでちゅよ~♪ お胸もいいんでちゅよ~♪」
ママー! お胸もみもみするー!
「そ、それは違うと思うけど……まぁいっか! 改めてよろしくね!」
あぶね、本音が顔以外ででるとこだった!
いかんいかん、話題を変えなければ……!
「ところで、そうなるとみんなもロベットを名乗るの?」
「ぐぬぬっ!」
「まぁ、そうしましょうか。いい加減カプチーノ呼びされるのは勘弁して欲しいところでしたし!」
まずそうだしね。
「ウィン・ディ・ロベット?」
「ディちゃんは、ロベット・ディかしらねっ?」
「……お母さん……」
「じゃあ、ロベット・ウィン・ディでいいんじゃない? ミドルネームみたいに!」
「貴族ではないので厳格な決まりがある訳でもないですし、いいんじゃないでしょうか」
そう、別に世界中に名乗る訳でもないから……自分たちの中のけじめみたいなものかな?
「うふふっ、みんな養ってあげるからね~♪」
そのキャラはいったい……?
しかし、家族かぁ……改めて、嬉しいなぁ。
「(主は弟で……子ども?)」




