第1話 捨てて守れるものがあるなら
第8章です! よろしくお願いします!
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――『紅蓮の剣』金髪視点――
僕は逃げ出した。強大すぎる敵を前に。
仲間は僕より早く逃げ出していた。僕も死ぬのが怖くて、逃げ出した。
ランク5の災害、グラトニースライム、個体名クァア。
僕を信じてくれていた王様、国民に申し訳が立たない……。
命を落とした人も多くいるだろう……。
敵前逃亡の、期待を裏切り逃げた勇者など、どこに行けばいいのか。
そんな存在を受け入れてくれる場所なんて……。
そういえば、以前聞いたことがある。
迫害されたものを受け入れる国、確か名前は……タイグルリオン。
もしかしたら、そこに行けば……彼に、あのドラゴンに立ち向かった彼にも会えるかもしれない。
どうすればキミのように、強大な敵にも恐れず立ち向かえるのか。
どうして炎を前に身を投げ出せるのか。
僕にないものを、キミは持っているんじゃないかって今なら思うんだ。
虫のいい話か……。あの時僕は彼に剣を向けた。たかがゴブリンと見下して。
しかし……殺せなかった。彼が守っていたはずのか弱い女神官、その気迫に押され、動けなかった。
何て情けない……逃げてばかり、自分より下の、そう思い込んだものにしか強く出られない……。
だけど……彼らに、詫びることができれば、そうすれば何か変わる気がして……。
そうして僕は、縋るようにタイグルリオンを目指すのだった。
◆◇◆◇
タイグルリオンでの生活もそろそろ落ち着いてきたかなという頃。
俺は予てより考えていたことを実行しに、町から少し離れたところに来た。
「シワシワ婆、聞こえてる?」
……。
「性悪婆、聞こえてる?」
……。
「おいっ! 糞婆いい加減出てこいやっ!」
「いい加減にするのは貴様じゃダホマ! ……なんのつもりじゃ、それは」
婆が姿を現したので土下座をする。
「俺に魔法を教えてくれ。今までの非礼、全て詫びる」
今まで会った中で一番魔法に長けているからね、この婆さん。
「……どういう風の吹き回しじゃ?」
「……力が、守るための力が足りない」
「……」
「頼むっ! 俺に魔法を――」
「わしの名は?」
「ロリロ・リィ」
うっぷ。
「……わしのことはどう思ってる?」
「魔法が得意で、子孫の、リルちゃんのことを大事にしている、思いやり溢れるスーパーばばあ、じゃなくてお婆ちゃん」
「ふん。まぁいい。ところどころ詰めが甘いのは見逃してやろう。そもそもわしはお前らの味方じゃしの」
「――っ! じゃあ!」
「時に、お主ランクは?」
「……多分4だと思う」
ゴブリニュートで色々調べても、そんな記録なかったんだよね。
「…………そうか。もしこの先、更なる……いや、比較にならぬ程の強敵と戦うことになっても構わぬか?」
「みんなを守れるなら、是非もなし!」
「……主の覚悟、受け取った。しばし待っとれ」
そう言って婆は姿を消した。
◆◇◆◇
少し待っていると、やけに顔立ちの整った幼女がやってきた。
「やっほー☆ ボクちゃんくんたまだょ☆」
ん? 何だこいつ?
「とりあえず、逝っちゃえ☆」
「なっ!?」
ここは……精神的な世界?
少し覚えのある場所に近い。
「そうだよ! ここの方が楽だからね!」
お、お前は一体?
「わかってるでしょ! ボクはロリロ・リィ! 本物がこんなプリチー幼女でびっくりしたでしょ☆」
嘘つけ! 姿も口調も別物じゃねえか!
「それはまぁ、色々ごまかすため?」
まぁ、確かにあの婆的気配を感じるが……納得できん。
「まぁまぁ、そんなことより! とりあえずボクとハッスルしよ☆」
ん?
「もちろん、そういう意味だよ☆ こう見えてもボクはたくさん産んでるからねぇ~☆」
確かにいい提案だ。ここは精神世界だし、それにこの体がどう反応するか試すのも悪くはない。
だが、断――。
「らせないよ☆ ホレホレ~、レッツラゴー☆」
――大切なものを守る戦いが、今始まる!
だいたいお前やっぱ婆だろ! 言い回しが古すぎんだよ!
「失礼なっ! 可愛いもんは可愛いでしょ!」
たいして可愛くねえよ!
「嘘ぉっ!?」
◆◇◆◇
一線は守り切った、そんな気がしないでもないこともない、こともない。
「全てを出し尽くした気分はどうだい?」
出してないです。
「そうじゃなくって。感じないかい?」
感じてないです。
「だから違うって! 魔法を形どるモノ、魔力、魔素! 出し尽くした今ならわかるでしょ! 今はボクの魔力でわかりやすく包んであげてるの!」
……確かに、周りに漂う何かの存在をいつもよりはっきり感じる。
「キミも、外の魔素も、大した違いはない。違うのはそこに魂があるかどうか、さ。あの時の母親のようにね」
これは……これが魔素、魔法の素。
いや、魔法とは……魔素とは……。
生命だ、生命そのものだ……この世界は……生命で満ちている……。
「魔素をはっきり感じたら、あとはそれと自分の魔素を繋げる感じさ☆ そしたら魔法の規模も効率も段違いだよ☆」
自身の魔素が空っぽなことで、外側の魔素をはっきりと感じる。
これを、自分の魔素とうまく繋げて……いや、自分の一部のように……?
試しに、例の真っ黒な魔法を出してみる。
「……出た」
真っ白……ではなく、真っ黒なアレ。
先日よりも簡単に指の先っぽに出る。
「そうだよ☆ 自分のなかの魔素を火種に、燃料は周囲の魔素を使う感じさ☆」
……おかげで、何となく理解できたよ。ありがとう。
婆臭い魔力に包まれてってのが不満だけど。
「キミは本当に失礼な奴だなっ! 今の状態がどんだけ大変かっ!」
すまない、本音が漏れる呪いに……。
「嘘つけ! 今のはリルが聞いたら怒るぞ! ……どうあっても、ボクとキミとは結ばれないみたいで残念だよ」
俺も残念だ。正直えろえろロリっ子年齢問題クリア済みは嫌いじゃない。
「だったらいいじゃないか☆」
どうしても! どうしてもチラついてしまうんだ! あの婆の顔が!
それに……まだ何か企んでるんだろ?
「……ひどいなぁ、ボクは子孫の、キミたちの幸せを真に願っているただのお節介お婆ちゃんだよ?」
こんな時だけ婆になりやがって。否定もしないし。
まぁ、信頼はするよ。




