第7話 背後で蠢くもの
「――ッ!」
時折、背負ったプリンちゃんが大き仰け反り、肩をさらに強く掴まれることがある。
なにがおこってるんだろう、ぼくわかんなぁい。
太ももを抱える手が湿ってる気がするが、俺の汗かな。
今夜は手を洗わないことにしよう。戒めの為に。
「今日はここで野宿としよう」
あたりも暗くなり始めた頃、クリスが決めてくれる。
「す、すまん! ちょっとトイレにっ! うんこだから近づかないでねっ!」
急ぎ息子を宥めてあげなければ、いつ暴発するかわからんからね。
家庭(布)内暴力(発)は悲惨だからね。
「わ、わたくしも……行きますわぁっ……」
やけにポーっとしているプリンちゃん。
よし、ともにイこう! 遥かなる高みへ!
「それだけは!」
「許さないんだからっ!」
ガシッと引きずり降ろされるプリンちゃん。
そ、そんなっ! 我が生涯の伴侶と引き離されるなんて!
「(私もでしょっ!)」
ギロッと威圧される。その通りです、すみません。
「早くトイレ、行ったら?」
リルちゃんに睨まれながら促される。
……すまねぇプリンちゃん! その温もり忘れないっ!
………………ふぅっ。
特大のものを捻りだした後、野営地に戻るとプリンちゃんが詰められていた。
なんかやっちゃいましたぁ?
今の俺は最強賢者だからね、何でもできる。
「正座」
「はい」
もちろん、正座もね。
曰く、みんな必死に逃げてるのにナニをしているのか。
曰く、順番を守れだとか。
曰く、割り込みは無しだとか。
向こうにいるクリスとディちゃんが何事かと見ているが、知らない方がいい。
てか、クリスは本当に気付いてないのか……。
その夜は怒られながらも、充実した気分で眠りについたのだった。
次の日からはプリンちゃんを背負うのがソフィたんになりました。
実は俺に次いで肉体派だからね。
俺はディちゃんを背負ってます。
なぜかずーっと耳を甘噛みされてます。
「主、興奮する?」
「うん、するする」
昨日のプリンちゃんへの詰問は、いつの間にか報告会となっていたようでした。
ディちゃんに何を聞かせてるんだ。
「わふっ!」
嬉しそうなその声を聞くだけで元気になります。
もちろん、健全な意味で。
だけど、そろそろ耳がべちゃべちゃなのでやめて貰えるかな?
「ふぅ、そろそろ休憩しようか?」
「え~? まだまだ行けるよ~?」
クリスが提案するが、ソフィたんがまだまだ行けるアピール。
「ほ、本当に? みんなも?」
「え、えぇまだ行けるわねっ」
「ディも」
そう言ってかみかみを再開する。
「耳を噛むのは……やめて差し上げたらどうですの?」
「プリンだけずるい」
「うぐぅっ」
そんな感じでまだまだ元気ですっ!
「わ、私が一番体力無いのか……? どういうことなんだ……」
安心しろ、この逃避行が終わればお前もさらに強くなっているはずだ!
さらに進むと、前方に強めの敵対反応! と思っていたら。
「『ウインドアロー』×7!」
さすがリルちゃん、森の中では俺より早いっ!
「う、嘘ぉ……ランク3のゴブリンナイトを瞬殺っ!?」
「『並列魔法』もどんどん多くなってるね!」
「まだまだ弱いのだけだけどね~♪ ナイトだったから、手数多めにしてみたのっ!」
うちのメインアタッカーは優秀ですな!
「あんたたち……どうなってんのよ……」
「ランク3ダンジョンで必死に練習してたからね~♪」
「ランク3で特訓って、十分修羅の道じゃないかっ!」
「え、そうなの?」
「当たり前だ! フィルストのランク2は特別に整備されてたから難易度の割に気軽に行けたんだ! ランク3なんて誰も行ってなかっただろ?」
あ、確かに。ランク2の方は採掘場までかなり整備されていた。
ランク3は、だから氾濫しちゃったってことかぁ。
「そもそも、魔物というだけで一般人は命の危険があるんだからなっ! 認識を改めろ!」
「「「「はぁい」」」」
「まったく……しかし、ゴブリンナイトがこの辺にいるのは少し引っかかるな……」
「近くに集落でもあるのかしらねっ」
「ゴブリンナイトがいれば必ず王もいる、と言われてますわね」
へ~、よく知ってるね。
「プリンちゃん、役に立ちたいからって町にいた時によく勉強してたもんね!」
「そ、それは内緒にしてくださいと……恥ずかしいですわぁ」
「ふんだっ!」
あ、先日の事まだ怒ってる……。まぁ、微笑ましい感じだけど。
「別に、恥ずかしいことじゃないでしょっ!」
「影での努力を悟らせないのも美しくあるためのコツですの!」
俺はその努力を知れて嬉しいけどね。
お礼に俺がおんぶを――。
「ぐふっ!」
「きゃぁー大変シュナさんがー倒れちゃったぁー」
清々しいほど棒読みソフィたん。
いいパンチだ、俺と一緒に世界を目指せるぜぇ……ガクッ。
「シュナさんが寝ちゃったー今日はここでお泊りだねー」
「か、彼はナイトよりランクが上だと聞いたのだが……ソフィア、お前は……」
◆◇◆◇
さてさて、見つけてしまいました。ゴブリンの集落!
王様、ナイト、王様、ウィザード、ウィザード……皇帝。
う~ん、めちゃくちゃヤバい集団じゃないかっ!
全部で30体ほど、王様が10匹ほどの小集団を率い、ランク4のカイザーが群れの中心らしい。
「よしっ迂回しよう!」
「えっ!? てっきり討伐していくものだと……」
クリスが意外といった感じで驚いている。
「さすがに厳しいよ、危険が大きすぎる」
「しかし! ここはタイグルリオンにも近いっ! ここで討伐できれば……」
「悪いけど、俺は慈善活動家じゃない。見ず知らずの人より、家族を優先させる」
「しかし……国には満足に戦えない者も……」
……あぁ、やっぱり姉妹なんだなと改めて思う。
「……」
「……」
「私は――」
「あーでもあいつら、俺を差し置いてカイザーとか名乗っちゃって生意気だなー」
「ふふっ♪」
「しょうがないわよねっ!」
「ゴブリンの群れの脅威はその統率力ですわ! それをどうにかできれば!」
「ディは主守る」
やれやれ、大切な人の大切な人の大切なものを守るのも――。
「従魔のプライド、でしょ? 愛しのパートナーさん♪」
これも惚れた弱みってやつかな?
いやクリスには惚れてないけども。
この戦いで惚れちゃうかもなっはっはっは~!




