第8話 行きずりの相手だろうが大切な存在には変わりない
その後は特別なことはなく、ボス部屋が復活したら再挑戦と繰り返していく。
合計で5つ、魔石を回収した。
インキュバスの時は問題ないんだが、サキュバスは正直精神的に来るものがある。
その時は相変わらずサキュが慰めてくれるのだった。
「へぇ、そうやって魔道具って作るの~?」
「そうだよ。結構魔力とHP減っていくから、今襲われたらひとたまりもない」
「ふ~ん?」
おや、反応するかと思ったが……。
「とりゃ♡」
「うわっとと」
そう思って一瞬の隙を突かれ、あえなく押し倒される。
「えっへっへ~♡ どう? びっくりしたでしょ~♡」
そう言って強く抱き着いてくる。
「…………もう帰ることにする」
「えっ!? 急にどうしたの?」
「急じゃない、用事が終わったから帰る」
「う、うん……わかったよ……」
そう言って来た道を全力で駆け抜ける。
「ちょっ! パパっ、早いよ待って!」
「……」
「パパっ!? ねぇってばっ!」
「……」
「パ、パパ……?」
「……」
「パパっ! さっきの怒ってるんでしょ!?」
「……」
「謝るからっ! 待ってってば!」
「……」
「……お願い……こんなお別れ、嫌だよぉ……」
「……」
そうしてついにダンジョン入口までたどり着く。ここでお別れだ。
振り返ってサキュを見る。
汗や泥でぼろぼろに汚れている。美人が台無しだ。
こんな男なんかの為に何してんだか。
「ハァハァ……パパっ! さっきはごめんね! ここを出ても私の事忘れないでね!」
「……」
「パパの言ったこと必ず守るっ! だから…………だから、忘れないで、ね?」
「――っ! 俺の事は忘れろっ! 約束も! サキュの事忘れないから生きろ!」
「忘れないよ、パパの事大好きだもんっ!」
「俺には恋人がいる、サキュじゃなく恋人を選ぶ!」
「うん」
「別れが辛いからってここまで走って逃げてきたっ!」
「うん」
「そんなひどい男のことなんか忘れちまえっ!」
「……パパっ」
「大好きだよっ!」
「……俺はもう行くよ」
そう言って先程作った魔石を渡す。
込めた魔法はもちろん『範囲盾』。
せめて、最期の時まで誰もサキュを傷つけないようにと願いながら。
「ほらっ、やっぱりパパは優しいんだぁ~♡」
気付いてたか、渡すつもりだったのを。
そしてダンジョンの入口を出た時、声がした。
「……ごめんね。約束、1つだけ破るつもりだったの」
振り返ると、サキュがダンジョンから出たところだった。
同時にサキュの体が、徐々に金色の粒子となって消えていく。
「ばかっ! 戻れっ! 戻れぇっ!」
その口をサキュに塞がれる。
「ふふっ、優しいパパ。大好き……」
――やがて、サキュは完全に消えてしまった。
「何でだよ……生きてればまた会いに来ることだってっ!」
現実的でないことはわかってる。
俺はいつまでもここにはいられないし、サキュは約束を守る……吸精をしないと言ったようなものだった。
それでもっ……それでも生きていて欲しかったのにっ!
思わず座り込んで泣き崩れる。
すると、そこに消滅したはずの金色の粒子が集まり、卵のような形になった。
「こっこれは……サキュ、なのか?」
まるでそうだと言うように、一度だけコロンと揺れる。
「…………そういえば、一緒に行きたいって言ってたっけ」
そして大事に大事に卵を抱え、村に向かうのだった。
◆◇◆◇
「そ、そう言うことがありまして……」
「「「ふーん」」」
ジトーっという目に囲まれる。
ディちゃんは割といつもジト目だが。
「恋人が魔道具製作の為の材料を採りに行ったら、愛人を作ってた件について」
「有罪ねっ!」
「異議なしっ! ですわ!」
「ぎるてぃ」
「それでは、判決――」
今まさにデスペナルティをくらうという時、卵が転がり落ちてソフィたんの前で止まる。
「……あなたに罪はないわ。仕方がないから歓迎します」
卵がゆらゆら揺れる。
「そう、彼を……こんな浮気性の彼を庇うって言うのね?」
「フラフラしてばっかりだしねっ!」
「だらしがないですの」
「ぎるてぃ」
卵ちゃん、いいんだ。
覚悟はとうにできているッ!
そして俺は数度の衝撃に耐えきれず、意識を手放したのだった。
プリンちゃん、戦闘技能なかったよね? 痛すぎなんですけど……。
◆◇◆◇
――ソフィア視点――
「はぁ、どうしてこうなるの!?」
絶対おかしい!
どうしてプリンちゃんへのプレゼントの材料を採りに行ってお嫁さんが増えるのっ!
「まったく、さすがに今回は許せないっ!」
「確かにひどい話ですけど……わたくしはもう許しますわ」
「いいのっ!? もし自分の為のプレゼントを採りに行ったのに、他の女の人を連れてきたとしたら許せなくない!?」
「まぁ、確かにいい気分ではありませんが……仕方がないことでは?」
その言葉に思わず絶句してしまう。
「し、しかたがない……?」
「えぇ。たまたまそういう時に運命の出会いがあった、そう思いましょう。それに……」
「それに?」
「少なくとも、彼の話を信じるならば、彼は私たちにもサキュさんにも誠実でしたわ」
それは……確かにそうなのかな?
「彼のことはもちろん――」
「そりゃ、信じるけど、さ……」
「まぁ、王宮育ちでは似たようなことはよく聞く話ですわぁ。他人の妻を権力を盾に奪う輩もおりますし!」
「う~、でも何かモヤモヤするっ!」
「それもそうですわね。そうだ、わたくしたちも彼にプレゼントを渡すのはいかがかしら?」
「えぇっ、このタイミングで何を?」
「それは……」
コショコショ。
「っぷ! それは名案ねっ! 早速リルちゃんやディちゃんにも話して作ろ~っ!」




