第2話 よくあるお姫様を攫う話
「わたくしは亜人の地位向上を叫び、どうにかしようとした訳ですが……」
「……」
「こんな小娘如きには何もできず、失敗した訳ですの」
そうか、お姫様がそんなことを思ってくれていただなんて、ね。
「亜人との友好を叫ぶわたくしは最早王族の面汚し、厄介払いとなる訳ですわぁ……」
どこか諦めたような表情で呟く。
「後悔はしていませんの。大切な方々のために戦い、力が足りず敗れた。それだけですわ」
ふむ。
「幸い嫁ぎ先は同じく亜人に友好的なお貴族の方、まだまだこれからですわよっ!」
無理した顔で笑うお姫様。
「嘘を仰るなっ、あなた様がそれを望んでいる訳がないでしょう! 素直に彼と一緒に行かれなされっ!」
「案外似た者同士仲良くなれるかもしれないですわよ?」
「彼の貴族は亜人を物のように扱い、己の欲望をぶつけるために飼っているに過ぎませんっ! 貴方とは真逆ですっ!」
「そうかしら? 同じく亜人に魅了され、己の欲望に忠実に行動するという点では一緒でなくて?」
「姫様……」
「お姫ちゃん……」
「でも、そうね」
一呼吸おく。
「シュナイダーさん、少しの間一緒にいて守ってもらっただけ、そんなほんの少しの恩を返して差し上げようと、あなた達のために働いて失敗したのよ? 責任取って連れ去って下さるかしら?」
突然何言ってんだこいつ?
ソフィたんもリルちゃんも同じように、何言ってんだこいつって顔してる。
ディちゃんは俺の膝の上で寝ている。
俺らのためとか言って勝手に行動して、勝手に敵を作って、勝手に自爆して、勝手に禄でもなさそうなとこに嫁入りする。
知らねぇよそんなの。
「かしこまりました、お姫様」
「――っ! じょ、冗談ですわっ! 嘘に決まってますでしょう!?」
「俺は冗談じゃないぞ」
「しょ、正気!? わたくしを攫うってことは――」
「大陸随一の大国と完全敵対、もしかしたら一生狙われるかも?」
「そ、その通りですわっ! ですから――」
「うるせぇっ! んなもん知るかっ! こんなに尽くしてくれた人に報いないなんて……男じゃないっ!!!」
「――っ!!!」
「あーあ、またお嫁さん増えたっ! だから嫌な予感がするって言ったのに~……」
「取り返しのつかないこの状況……。彼のことが好きな女性がまた増えてしまったのね……」
「……わふっ」
コソコソと俺に聞こえないように3人が話している。
ソフィリルディちゃん、苦労かけるがすまないねぇ~。
「まぁ、いっか♪ これからよろしくねプディングちゃんっ!」
………………ん?
「いいの? あなた達、本当に……?」
「彼の事、好きなんでしょう?」
え、今の何? 名前?
「……いいえ、本当は愛していますわ! 愛しくて愛しくてたまらないのですわぁっ!」
「ならしょうがないよっ! それに私この国大っ嫌いだしっ!」
そ、そういえば名前、聞いたことなかったなぁ……。
「わたくしも大っ嫌いですわぁっ!」
◆◇◆◇
こうしてお姫様を攫って国から逃げることが決まった俺たち。
「さて、プリンちゃん、ロベルト。どうやって逃げる?」
「プディングですわっ」
「プリンじゃん。国の中心から姫様を攫って逃げるって相当無謀だろ?」
「プ・ディ・ン・グ、ですわぁ~っ!」
「プリンじゃん。ロベルト、どうする?」
「う、うむ。わしに考えがありますぞ!」
「プディング! プディング・ォン・カプチーノ! 由緒ある王族の名前! もうすぐ捨てますけどっ!」
なにそれまずそう。
「プリンじゃん。どんな作戦だ?」
「プディング! 異国の言葉でっ!『格式高い、黄金の』という立派な名前っ!」
「プリンじゃん」
「うっうっ、いじわるですわぁ……」
「こらっ、シュナさん!」
「あの~……説明してもよろしいかの……」
すまんすまんプリンちゃんがかわいいから、つい。
ロベルトの作戦はこう。
2日後、プリンちゃんはとある冒険者と騎士を護衛に彼の貴族の領地へ向かう。
その直前に出立式があり、そこで他の護衛が離れるので式が始まる前にプリンちゃんとロベルトが抜け出す。
後は速攻で王都を抜け、敢えて街道を逸れて近くの森を抜ける。俺達は森での行動を苦にしないからね。
ちなみに護衛の冒険者はランクAのPT『紅蓮の剣』、彼の貴族の領地はグノム……始まりの村アンファンがあるところだ。
なんだこれ、因縁しかねえな。やる気が倍増だ。
「これは雪辱を果たすチャンスだねっ!」
「おう、思いっきり恥かかせてやろう!」
みみちくてすまない。根に持ってるんだ。
「……なんと、そんなことが」
軽く俺たちと『紅蓮の』とにあったことを説明する。
「まぁ、許せませんわねっ! はやくこんな国出て行きたいですわっ!」
「……」
長年国に仕えたロベルトとしては複雑だろう。思いつめた表情をしている。
「とにかくっ、作戦実行は2日後、それまで我が家で英気を養って下されっ!」
◆◇◆◇
そして来る決戦の日。
しっかり休養を取り、英気もやる気も十分っ!
「また……食べすぎちゃったぁ……」
「がつがつ食べてたわねっ!」
「……わふっ」
……まぁ、さすがヒト属の中心地。飯がうますぎた。
でもソフィたんは昔同じような食事していたんじゃ……?
「だ、だってぇ~っ!」
「……わふっ!」
ディちゃんだめっ! お腹をぷにぷにしないであげてっ!
「っく、殺してぇっ!」
……俺は好きだよ、肉付きのいいソフィたん。
ポカッ。
いてっ。
なんてやってたら約束の時かきた。
ちなみにロベルトの使用人さんなどなどは俺たちに手紙を出した時点で退職してもらったらしい。
最初っから俺たちを泊めてくれるつもりだったか、はたまた……。
王宮の方では出立式のために騒がしい。そこに――。
「会いたかったですわぁ、あなたっ!」
2日ぶりのプリンちゃんが飛びついてきた。
「お嬢っ! 今はそれよりも急ぎなさいっ!」
おぉ、オフモードのロベルト、久しぶりだ。まず体型が違う。覇気も違う。……覚悟も違うのだろう。
姿を外套で隠したまま、急いで王都の外へ向かう。
「……王城が騒がしくなって来ましたな」
姫様がいないことに気付いたのだろう、急がねばっ。
途中巡回している兵士に不審に思われながら町を駆ける。
恐らく彼らから俺らの進む道を辿られるんだろう。
「ハァハァッ……」
「大丈夫か?」
必死に走る、体力のないプリンちゃん。
「大丈夫っ、ですわっ。この先にっ望む未来がっ……」
……あぁ、頑張ろう!
偉そうだけど、ちゃんと恩を感じ返してくれる、一生懸命に頑張ってくれる。
そんな子を不幸にするような国からはさっさとおさらばだっ!
「……わしは、ここで失礼する」
そんなとき、ロベルトがそう口にしたのだった。




