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幕間 お母さんとかつての話

 私の名は、ウィン・クゥ。ウイン・ディの母親です。

 クインレイブスの町で、親子3人で住んでいました。


 少し酒癖の悪い夫と最愛の娘、ウィン・ディ。

 夫は狼の獣人、冒険者ということもあり気性が荒い性格でした。

 しかし、私たち家族には不器用ながらも優しく接してくれていました。


 ディは少し無口ですが、よくお手伝いもしてくれるし、年の割には利発な子です。

 私の宝物、大事な大事な、自分の命よりも大切な子。

 

 特別裕福ではありませんでしたが、それなりに幸せに暮らしていました。

 



 町を魔物、インキュバスの魔族が襲うまでは。

 今からおよそ1年前、突如として奴らがやってきました。


 私はただの主婦、ただの母親。

 詳しいことはわかりませんが、その日を境に町の様子は一変しました。


 奴らは町の女性を1か所に集め、いくつかのグループに分けました。

 私のグループは……。




「さて、貴女方のグループは子ども、それも女児のいる方々です。私は決して鬼じゃない。貴女方に選択肢をあげます」

 ざわざわと周りが騒然とする。

 ディ……ディは無事なの!?


「1つ目、親子揃って優しく下僕となるソフトコース。2つ目、女児を見逃す変わりに、ぐふふ、命の保証のないハードコース♪」

 ……鬼どころじゃない、こいつは――。


「さぁさ、自分はどのコースにするかよく考えてね! 受付はあちらです♪」

 こいつは、悪魔だ。


「ご安心を♪ 我々は生かして貪るタイプの魔族! 約束は守りますよ!」

 答えは決まっている。決まっているが……とても信頼などできない。

 

 どうすれば……どうすればディを守れるの!?


 私の命なんてどうでもいい! もし命を使ってディを守れるなら喜んで差し出す! だから神様、誰か、お願い……!







 祈りも空しく、呆気なく、終わりました。


 最期まで考えていたのはディの事。

 どんな子になるんだろう。どんな人を好きになるんだろう。

 かわいいから花嫁衣装がとても似合いそう。

 それとも意外とわんぱくだから父親と同じ冒険者になるのかな?


 悔しい、悔しい、悔しい……。

 ディの成長や将来を見守れないのが悔しい! 他に何もいらないのに!



 

 その時、待ち望んでいた奇跡が起こりました。

 私の意識が、体を抜けて自由になれたのです!

 信じられないっ! こんなことが起こるなんて!


 そうなればやることは1つ、すぐにディの所に向かいました。

 しかもこの状態で誰かを睨みつけると、何かを気味悪がってそそくさと退散していきます。

 さらに魂というのでしょうか、その人の善し悪しも見えるように。

 すごい! これならディを守れるっ!




 しかし、それも長くは続きませんでした。

 父親です。彼が私を守れなかったことを悔やみ、生活が乱れ、酒に溺れ、ディを虐待し始めたのです。


 どうしてこんなかわいい子にそんなことができるのだろう?

 

 すぐに睨みつけましたが、彼には逆効果でした。

 気味悪がってさらに虐待する始末。

 どうすればいいのか……何もできない無力感に襲われ続けます。


 幸い、その終わりはすぐに訪れました。

 いえ、幸いとは言えません。なんと彼はディを奴隷商に売ってしまったのです。

 

 こうなったら、少しでもいい人の元へ買われることを祈るのみ。




 ……いい人が奴隷を購入するはずがないとわかっていながら。

 そんな人が。

 いるわけ。

 ……。


 お願い……。




 ……あの人は……ゴブリン? だけど、とても温かい。

 彼の周りにいる子たち2人も……。

 こんな人たちにディが買われたら……一緒にいれたら……。


 その時! なんと彼の魂が抜け出たのです!

 理由はわからない、彼には悪いとも思った。

 

 だけれどチャンスはこの一瞬!

 私は迷いなく彼の体に入り込んだ。

 体が動く! こんなことできることすら知らなかったけど、とにかく急ぎディがいるところへ!

 

 幸い彼はかなりのお金を持っており、オークションに出品される予定だったディをすぐに購入することができた。

 そして、ディを連れて再び彼女たちの元へ行く。




 あぁディ、愛しいディ。

 久しぶりに触れられるディをたくさんたくさん撫でる。

 叶うなら、この一瞬が永遠に……。




 …………わかってる、大丈夫、この方たちなら、きっと。

 

 あなたを、私の代わりにあなたを幸せにしてくれる。


 そんな予感がするの。だから大丈夫よ、心配しないで。愛しいディ……私の娘。

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