第7話 幸せを願って何が悪い
「言ったっ!? 言ったのねっ! 心の中でっ!」
そう、思った時には既に行動は終わっているんだッ!
「えへっ、えへっえへへっへぇっ……」
ア、アカン。ソフィたんが見せられない顔して旅に出てる……っ!
覚悟じゃない何かがキマってる顔してるッ!
即座に横にして良い子に見せないようにする。
リルちゃんもディちゃんの視界を手で塞いでる。
「……」
「……」
「……もうついででいいわっ! あたしにも言いなさいっ!」
あ、見なかったことにしたな。って何を?
「どうせあたしは隠せないから、あんたから言いなさい、早くっ! あたしもあんたのことが好きっ! ――ぁあああ!」
「……」
「好きっ! 好きすぎて体が震えるっ! 会いたくて会いたくてあたしも震えてたのっ!」
カナちゃんか。誰だ?
「大好きなのっ! お願いっあたしのことも受け入れてっ!」
申し訳ないけど……。
「何とか……言いなさいよっ……」
2人同じ日で、申し訳ないけど……!
「リルちゃんのことも好きですっ! 最初っから離す気ありませんっ!」
「――っ! ばかぁっ! ばかばかばかぁっ! 遠くに行ってたくせにぃっ!」
うっ……それを言われると。
「もうどこにも行かないでね?」
――うん。
「……目っ」
◆◇◆◇
正気に戻ったソフィたんを交え、今回の流れを確認する。
最初、俺はどうしてディちゃんを連れてきたのか。
俺が出て行ったきっかけや理由。
そして……。
「え、ここに来るまでに数日間迷ってたの!?」
「あ、あははは。まぁ、そのおかげで私たちのタイミングも良かったみたいだし?」
良かったのか、むしろ悪かったのか。
「まぁ、結果的に色々良かったんじゃないかなっ!」
ボスの言う通りです。
「シュナさん、ごめんね……けど、『もう行って』ってちょっと向こう行っててくらいの意味だったんだけど……」
嘘ぉ……え、俺の勘違いだったってこと?
「相談無かったのが悲しかっただけで……シュナさんとお別れなんてするわけないじゃない……」
「ごめんっ! ソフィたんっ!」
ガシッ!
「そこ、いちゃつかないの! それで、ディちゃんのことだけど……結局わからないのよね?」
「あー、それについては心当たりがなくもない」
「えっ? そうなの?」
「うん、ちょっと失礼。後これから酷いことになるけど、我慢してて欲しい」
そう言ってディちゃんの耳を塞ぐ。
「おい出て来いばばぁっ! 見てんだろばばぁ! シワシワばばぁっ!」
「ちょっと、どうしたのよ急に!」
これで出てこなきゃ俺は相当恥ずかしい奴……。
「誰がシワシワじゃ! 貴様本当に失礼じゃ!」
「うるせぇっ! こっちはてめえのせいで散々な目に遭ったんだぞっ!」
「あれ? あの時のお婆ちゃん!?」
「何じゃとっ!? 結果おーらいじゃろがっ!」
「結果的に、オーライなだけだばばぁっ!」
「貴様ッ! 相変わらず減らず口を叩きおって! 年寄りは労わらんかいっ!」
「痛めつけたいのを我慢してやってんだ、ありがたく思えっ!」
「そこの2人は思った通り無事! お主も人の姿になれたっ! どこに文句があるというのじゃ!」
「ありありだばばぁっ! 適当言ってんじゃねえぞ! 俺のは絶対たまたまだろうがっ!」
「そもそも別にお主のために行動してるんじゃないわい! 全てリルリルのためじゃっ!――ぁ」
「あっ!? どういうことだ!? ……どういうこと?」
「えっ、あたし!?」
「……ふぅ、潮時か、仕方がない。」
そう言ってばばぁは何かの魔法を行使する。覚えのある、精神に作用するようなものを感じたので必死に抵抗する。
「精神を落ち着かせるものじゃ、抵抗せず受け入れろ……って抵抗できるの? どんだけの精神力じゃ……」
……真剣な様子のばばぁだ、仕方がない受け入れてやろう。
「……あれっ? 嘘、あなたは昔色々教えてくれたお婆ちゃん?」
「あれ? 町で会った時が初めましてじゃなかったの?」
「うん、昔1人で生きてくって決めた後に森での生き方とか魔法とか教えてくれた人、よね?」
「そうじゃ。大きくなったのぅ、リルリルよ。我が子孫よ」
「……で、その別れ際に記憶を封じ、マーキングみたいなものをしたのか?」
「――よくわかったのぅ。その通りじゃ」
「いい加減わかるわっ」
「ッチ。勘のいいガキは嫌いだよ」
「それ、敵役のセリフだからなばばぁ」
穏やかな、かつてないほど穏やかな怒りが湧いてくる。そして伝説の――。
「ともかく、それにやましい意味はない。リルリルの生く先が心配で時折精神状態を覗いていただけじゃ」
「う、うん……ありがたいのか迷惑なのか……」
「余計なお世話だってさ、ばばぁ!」
「だからバレたくなかったんじゃ! 子孫の幸せを願って何が悪いっ!」
「こ、今度は遠くで見守っててね!」
やり方が悪い! 当たり前の事を当たり前に言われる。
「ふんっ。まぁ、それで以前にもここに来るよう助言したが無視されての」
「何でここに拘るんだ? ここに何かあったのか?」
町自体も確かによろしくない状態ではあったが。
「……インキュバスに襲われそうになる2人、それを見てお主は如何に2人が大切だったか気付く。そういうシナリオじゃ」
「……コロス」
失敗してたらマジで洒落にならんぞ、それ。
「待て待て! 言ったじゃろ、2人は大丈夫じゃと! ある程度の精神と愛する存在がいればインキュバスの攻撃は効かんっ!」
「それこそ意味ないだろ? 今回みたいに何も気付かずに終わる可能性の方が高かったんじゃ?」
「……事前に、堕ちたふりをしろと、そうすればお主に愛されるぞと、言うつもりじゃった」
「……ヤッパ、コロス」
「わかっておる! これについては全面的にわしが悪かった! 許してくれ!」
コソコソ話が聞こえる。
「……そうなってたら、どうする?」
「……正直悩ましいわね」
おーい、聞こえてますよー。
「まぁ、そういうわけで当初の予定とは多少異なったが、今回いい機会が巡ってきたので再びここに来るように言ったのじゃ」
「あ? じゃあやっぱりばばあが得意の精神魔法で俺を操ってディちゃんを?」
「それは違う」
「は? そんな訳――」
「いいか、マジでよく聞け。……子孫の、子の幸せを願っているのは何もわしだけじゃない。というかそんな高レベルの精神魔法、その幼子すら操れん」
「……」
「お主らはまだ知らぬような……いや、正直に申そう。わしも知らなかったよ、まさに奇跡じゃ」
「な、何を……?」
「子を想う親の愛、不可能を可能にする唯一の……奇跡としか言いようがない」
そう言ってばばぁは何もない空間の一点に魔力を注ぐ。
「この魔法でわしはまた姿を消す。まぁ、機会があればまた会うじゃろ」
「あ、おい待てっ! まだ聞きたいことがっ!」
しかし、その言葉は途中で邪魔をされる。いや、邪魔なのは俺の方だった。
「お母さん!」
俺の手元にいたディちゃんが駆ける。
「おかあさぁぁぁぁぁん」




