第3話 情けは人のためだけでなくちゃんとゴブリンにも返ってくる
昨夜のことなどすっかり忘れ、今日も護衛業の営業に勤しむ。
今日も絶好調だぜぇいえーいっ!
「ここを出れば、あと数日中には目的地に着く。それまでは引き続き気を抜かないように頼むっ!」
ここ2週間ほどともに過ごしたからか、彼らの態度も何か軟化してる気がする。
まぁ、俺の正体知ったら何回殺されそうになるかわからんがなっ!
「何だか今日のシュナさん元気ねっ」
「? 久しぶりのベッドだったからかしらね?」
今なら何が来ても怖くないぜーっ!
例えば遠くにいるあいつがいきなり矢を放ってきても掴める気がするっ!
そう、あいつ。
さっきからすっとこっち見てんだよな~。
数キロは離れている人影を認識する。
危険察知のレベル上がったかな? ここ最近気を張り詰めてたし。
「(だ、大丈夫かなぁ?)」
「……(多分斥候だと思う。近いうちに仕掛けてくるかもね。リルちゃんにはそれとなく)」
「(うん、伝えとくね)」
最近ソフィたんとの意思疎通レベルも上がってる気がする。
以心伝心、私たちはズっ友、2人はキュアキュア!
最早夫婦レベル!
ポカポカポカッ!
いででででっ!
いつもより真っ赤なソフィたんにいつもより多く殴られた。
しまった、漏れてたか……?
さすがに距離も遠いため、適度な緊張感を保ちつつもゆったり進む。
「よし、ここをキャンプ地とするっ!」
先に飯を食わせろっ!
「? うん、ご飯も食べようねぇ~♪」
わぁい!
今日のご飯は何かな~?
途中で出会った豚さんかな~? それとも熊さんかな~♪
「今日も助かった。オークもワイルドベアーも全く苦にせんとは恐れ入ったわい」
「……」
人がソフィたんと会話しているところに邪魔者じいさんが話しかけてくる。
邪険にするのもなんなので頷いておく。初日の事忘れてないけどなっ!
「見たところ貴殿も騎士のような出で立ちじゃが……?」
「……」
女神と森の至宝を示す。
「彼女らか。彼女らは一体……いや詮索するつもりではないんじゃがっ!」
ソフィたんがギロリと睨む。今ツーアウトだからね、次のアウトで来世にチェンジだからね。
「……彼女らが大切か?」
「……」
あん? どういう意味だ? 変なことしたらただじゃ置かんぞっ。
「……そうか、お主も立派な騎士なのじゃな」
なんか勝手に納得したぞ、訳わからん。
「……」
騎士かどうかは知らん。命を懸けて守ってるだけだ。
「……そうか」
「華麗な魔法っ今日も素敵でした!」
「本当にっ! 俺もリルさんみたいな素敵な人と一緒になりたいなぁ~」
「ありがとね。別に嬉しくないけど」
「そんなクールなリルさんも素敵ですっ!」
おいモブ兵士共っ! てめぇら何リルちゃんに色目使ってんだゴラァッ! 張った押すぞこの野郎!
「シュナイダーさんも魔物の攻撃を簡単に受け止めて素敵でしたっ!」
「たくましいんですねっ! 腕触ってもいいですかっ?」
「あ、あのもしよかったら王都に着いたらお礼に美味しいお食事でも……!」
あぁっ、侍女の方々ぁ! はぁい、喜んで――っ!
ゾクッ!
こここここれはははは……ガクッ!
その日はソフィたんの覇王の気配に当てられたか、襲撃はなかった。
◆◇◆◇
「……(今日だね)」
「ほ、本当?」
「……(昨日までと纏っている雰囲気が違う)」
ソフィたんの雰囲気も違っていて良かったです。
「今夜が山だと聞いたが?」
山田……ではなく、その通りです。
「……(もうすぐだと思いますよ)」
「『もうすぐだと』――きゃあっ」
瞬間、ロベルト氏を狙った矢を掴む。
速すぎる矢、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「か、かたじけない。総員、迎撃態勢を取れっ!」
相変わらずものすごい気迫、一体いくつなんだこのじいさん。
しかし敵も最終決戦と決め込んでるのか、数が多いっ!
「馬車ヲ囲ンデ守ロウッ!」
念話で全体に提案する。
「はいっ」
「わかったわっ」
「うむ、そうしようっ!」
「「おうっ!」」
「わかりましたわっ」
………………ん?
順番にソフィたん、リルちゃん、ロベルト氏、モブ兵2人。
……最後の、誰?
「いかがいたしましたの?」
姫えええぇぇっっ! ご乱心っ! 姫様ご乱心っ!
あんた守られる側っ! 何やってんのっ!
「ひ、姫様っ! 馬車へお戻りに……」
「彼の後ろが一番安全でなくって?」
悪戯成功っみたいな顔してもダメでしょそれはっ!
「見ろ、標的が外に出てるぞっ!」
「放てっ! ありったけの魔法を放つんだっ!」
ほら見ろほら見ろっ! 敵さんも真っ先にこっち狙ってくるじゃないっ!
「……!(『勇者に栄光あれ』!)」
敵の魔法を障壁で弾く。
数は多いが質がいまいちのようで、障壁はびくともせず、敵の魔法が雲散する。
「……!(確かにこっちのが守りやすいかも?)」
より大切な方々も狙われにくいだろうし。
「コノママ押シ返スゾッ!」
◆◇◆◇
「本当に助かった! 確かに金100以上の働き、感謝に絶えないっ!」
割と打ち解けてきちゃったからちょっと気まずいね……。
「あ、あはは~。追加の金70はやっぱりなしで大丈夫ですっ!」
「何を言うっ! ここで引き下げてはあまりにも情けないっ! そうでしょう姫!」
「……えぇ、そうね」
どことなく上の空の姫ちゃん。本気の殺し合いを目にしたんだから当然だべさ。
「そなたらの働き、金100では足りぬっ! そうでしょう姫!」
「……えぇ、そうね」
「と、とりあえず夜営の準備をしましょう? 姫ちゃんも疲れてるみたいですし……」
「……えぇ、そうね」
ダメだ、こりゃ。
報酬の件は当初の予定通り、ということで押し通された。
良心が痛むぜ……。
話し合いも終わり、どこか抜けた雰囲気で最後の食事をとる。
まぁ、急な護衛任務だったけどみんな無事で何よりだったね!
もう襲撃はないだろうとのことで、早速カルロス君が伝令として走っていった。
縦社会所属はこういう時辛いよね。
「シュナイダー殿」
向こうでは女子会、モブ兵はそこに食い込もうと必死になっているため、1人でいたところでロベルト氏に声を掛けられる。
「改めて礼と、今までの無礼の詫びを」
「……」
もういいって、気にすんなと身振りで示す。
「……感謝する。」
「……」
「……」
「……」
バチバチと焚火が鳴る音が響く。
「……わしの故郷に、いくら過去にいがみ合っていても酒を酌み交わして飲めば友になるという逸話があってな」
そう言って酒の入った器を渡そうとしてくる。ついでに俺が注ぐ用の酒も。
「……」
でもなーここで兜をとるとなー今までの関係がパァなんだよなー。
今までも食事は全部自前のテント内で食べてたんだよ実は。寂しかったよ。
「貴殿の正体はわかっておる。ゴブリン、じゃろ?」
「――ッ!」
「姫から聞いた。安心しろ、他の者は知らぬ」
「……」
「貴殿にも思うことはあるのだろうが……受け取ってくれんか?」
……認めるのか、この俺を。
メンシュライヒの騎士が。
戸惑い、疑念、喜び、様々な思いが胸に去来するが……。
器を手に取り、ロベルト氏にも注いでやる。
「では、この出会いに、2人の友情に!」
「……」
兜を外し、酒を一気に呷り、まだ兜を着ける。
見られる訳にはいかんからね。
「なんじゃい、情けない。男ならシャキッとせんかっ!」
がっはっはと豪快に笑うロベルト氏。
その後はロベルト氏の騎士道やら武勇伝を聞きながら、頬を伝う涙をごまかすように時折酒を呷るのだった。




