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第6話 それでも一緒にいたいんだからしょうがない

 いつの間にか家の前まで戻ってきていたようだ。

 道中でリルちゃんが話してくれた事、リルちゃんの境遇が辛すぎて。

 彼女が生きてきた100年、どんな思いで……。


「今日一緒に見た景色、いつもと違って見えたって言ったでしょ?」

「うん」


「今日は……少し、辛かった……」

「――っ!」


 


「この楽しさも! 幸福感も! 明日になれば終わりなんだって!」

「……!」


「あなたたちのことは好きよ? こんな温かな気持ち初めて……」

「……!」


「だから……お願い、これ以上はやめて? あなたたちを傷つけたくないのっいい思い出のままさよならさせて!」

 そう言って家に戻ろうとする。




「……!」

「……シュナイダーさん、離して」


 思わず腕を掴んでしまった。

 しかし……このまま離したら、一生後悔する気がするんだ。


「不思議なゴブリンさん。あなたのことも、もちろん好きよ? 一緒にいれて楽しかったわ」

「……っ!」

 彼女はこんなにも簡単に俺のことを認めてくれる。

 

 嘘がつけないからこそ、その言葉が身に染みる。

 彼女ほど優しい存在を俺はもう1人しか知らない。


 だというのに……。


 俺は彼女に何を言っていいのかわからない!

 何十年も1人でいることを選んできた。

 誰も傷つけたくないからと、ずっと孤独に生きてきた。


 そんな彼女に何が言えるっ!?


「シュナイダーさん? そろそろ痛くなってきたのだけど……」

 

 わからないわからないわからない!

 どうすればいい、どうすればこのお人好しのエルフを救える?

 救いは求めてないいやそんなことはないはず、救いたいから一緒に行きたいのか?

 そんな偽善的考えじゃなかった気がするどうなんだどうしたいんだ!?

 わからないわからないわからない!


「シュナイダーさん……」



 だけど……だけど! 一緒にいたいんだっ!




「……イッ」

「シュナさん?」


「イッショニ、イタインダッ!」




「……えっ?」

「シュ、シュナさんが喋ったっ!?」


「……!(こんなに優しいリルちゃんが独りぼっちなのはおかしい! 不幸なのはおかしい! そんなの嫌だっ!)」

「……」


「……!(誰かと一緒にいれば傷つくのなんて当たり前だ!)」

「……」


「……!(リルちゃんはリルちゃんのままでいいんだ! 君はとっても素敵な子だ!)」

「!!!」 


「……!(俺たちは全て受け入れる! だからずっと一緒にいてほしいっ!)」

「……」


「……!(一緒にいたいんだっ!)」




「――っ!」

 一瞬驚いた顔をした後。


 リルちゃんは走って家に入ってしまった。




 や、やっちまった!

 ……テ、テンパってよくわからなくなって勢いのまま言ってしまったっ!。


「もぅ、シュナさんったら。うふふ♪」

「……(ソフィたん、同時通訳ありがとう……)」


「喋れたの、最初だけだったね!」

「う、うん……」


 そう、気分的には溢れる思いを大声で叫んだつもりだが、全部ソフィたんが同時通訳してくれてたの……。

 いろんな意味で恥ずかしい……結果逃げられてるし……。

 ちょっとタイムマシン探してくるね……。


「うふふ、いってらっしゃい♪ 私はリルちゃんとお話してくるからお家に入らずにちょっと待っててね~」

「……(はぁい)」


 ◆◇◆◇


 ――リルリル視点――


「――――――――っ!」

 布団に顔を埋め、声を出さずに泣く。


 何なのよあのゴブリンはっ!

 意味わかんない、意味わかんない!


「(何であんたが言うのよ!)」


『かわいそうに』


 なんかではなく。


『そのままでいいんだ』

『ありのままのあなたでいいのよ』


 きっと、両親に言ってほしかった言葉。

 嘘をつけない私を受け入れて欲しかった。


 それをまさか……。


 なにが『リルちゃんのままでいいんだ』よ……。


 その他の言葉も全部そう。何よ知った気になって。


「(全部受け入れるって、随分簡単にいってくれるじゃない……)」


 だけど……もしかしたら、彼らなら本当に?

 期待と不安と、幸福感と絶望感がせめぎ合う。


「(あたしだって本当は――)」




「失礼しまぁ~す!」

 そこに今回の元凶みたいな女の子が入ってきた。


「……なによ」

「シュナさんの気持ち、聞いてくれた?」


「……聞いたわよ」

「ふふ、ゴブリンってね、一度狙った女の子は執拗に狙ってくるんだよ~♪」


「詳しいのね、さすがご主人様ってとこかしら?」

「ん~、主人ってよりパートナーかな? でもこのことは本を読んで知ってたの」

 

「本?」

「そっ♪ 私もあなたと同じで以前は本だけが友達だったのよ?」

 そう言って女の子は自身のことを話していく。




 そう、魔法を使うのが怖かったのね。

 そう、ご両親に庇われて、守れなくて悔しかったのね。

 そう、助けてくれた友達を探してるのね。


 そう、彼のおかげで魔法が使えたのね。

 そう、彼のおかげで今度は守りたいものを守れているのね。

 そう、彼のおかげで……。




「シュナさんったら、いっつも自分が傷付いてるのに私の心配ばっかりするのよっ!」

「……信頼し合ってるのね」


「そうだよっ♪」


「……いいなぁ」


「リルちゃんも、これからそうなるのよ?」


「あたし……あたしも……」




「……あたしも、なれる、かなぁ……っ!」




「……なれるっ! なれるよっ! これからなるんだよっ!」


「――っ!」


「リルちゃんはいっぱい頑張った! もういいんだよ! もう無理しなくたって、いいんだよ!」




「「うわああああーーーんっ!」」

 



 



「ぐすっ……『一緒にいたい』って、バカみたいっ」

 そんなのまるで……。

「ふふ、まるでプロポーズみたいだよね♪」

 

「ほんとよ、全くっ! あーあっ! あんなんで嬉しいと思うなんてほんとバッカみたいっ!」

「うふふ♪ ところで今、彼は何をしていると思う~?」


「……外で待ってるんでしょ?」

「『恥ずかしいこと言った』って過去に戻る方法を探してるみたいだよ♪」


「くすっなにそれ、ほんとおバカさんねっ!」

 意味わかんないっ! 今更なかったことに、なんて許さないんだからっ!


「そういえば、本当はこれで説得するつもりだったっていう彼の秘密があるんだけど……聞きたい?」

「えっ何それ何それ~!」


「ふふ♪ 実はぁ……彼が『俺の場合は思考をシャットアウトできるから全部じゃないけどね』って言葉覚えてる~?」

「確かあなたに彼の思考が伝わるって話よね……まっまさかっ!」


「ふっふっふ~♪ そのまさかでーっす♪ 彼はそのことを知りませ~ん!」

「あはっあはははっ! ひどいっあなたひどすぎるわよっ! ひーっ!」

 悪いけど笑いが止まらない。

 きっと2人の関係性が、ひどい話も笑い話にしてくれてるんだろうな。


「そんなことないです~♪ そのことについて私は“嘘”を言ったことはありませ~ん♪」

「ひーひっひっひぃ、ひどすぎっ! あなた意外と腹黒いのね!――ぁ」

 しまった、言ってしまった……。傷つくような言葉をっ。


「これでも元貴族令嬢ですからっ♪ 本音と建て前と、嘘と沈黙と、ちょっとはわかってるつもりだよっ!」

「ぁ、ぁの、その……」


「彼が本当に困りそうになったら言ってあげるつもりだけど……ってどうしたの?」

「ご、ごめんなさい。腹黒いって……」


「? 別に気にしてないけど……? 貴族的には当たり前だし」

「ほ、本当?」


「本当だよっ! それにひどいこと言われても、あなたが本当に優しい人だって知ってるから気にしないと思うよ?」

「……」


「それより、もっと彼のおもしろい話、聞きたくない?」

「……うん!」


 彼と彼女の話はおもしろかった。

 ……これからあたしもそこに混ざるんだ。

  

 膨らむ幸福感を胸に、明日を期待して、彼女と夜を過ごしたのだった。


 ◆◇◆◇


 2人の笑い声が響く。

 詳しくは聞こえないけど、さっきまで大声で泣いてたり、今度は笑ってたり。

 まぁソフィたんに任せれば万事解決問題なしだっ!




 ……俺の事以外。

 タイムマシン見つからなかった……。


 それと、いつまで待てばいいんだろうか……。

 夜の冷え込みとともに、寂しさが増していく夜を過ごしたのだった。

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