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幕間 エルフと過去の話

私はリルリル・リィ。エルフの一族。

 私が両親から貰ったのはこの変な名前だけじゃない。

 ……本音を言ってしまう、という呪いだ。


 何代か前のご先祖様がとある魔女の怒りを買い、かけられたそうだ。

 ご先祖様はその呪いの封印に成功したが、その結果呪いも含めて子孫に受け継がれることになってしまった。

 

 時を経て、呪いの力は強まり、逆に封印は弱くなった。

 そしていよいよ私の時に封印を破ってしまったそうだ。


 最早その呪いは封印できない程強力なものとなってしまっていた。

 命に関わるものではないのが不幸中の幸いね。


 その魔女も何を思ってこんな呪いをかけたんだか。




 小さい頃はこんな呪いに何の意味があるのかわからなかった。

 友達と遊ぶ時も、別に困ったことはなかった。

 お互い言いたいこと言って喧嘩をすることはあったけど、そんなもんだと思っていた。


 ただ、呪いが発現して手に負えないとわかった時の両親の顔は印象に残った。

 私は少し大きくなってから、徐々にこの呪いの恐ろしさがわかってきたのだった。




 ある日、普段と何も変わらない、些細な事。

 友達が一生懸命作ったであろう、お菓子を持ってきてくれた。

 どうやら私とその友達自身の顔をイメージしたクッキーだ。

 形はボロボロで崩れていたが、温かい気持ちが伝わってきた。とても嬉しかった。


 …………そして。


 思ったことをそのまま、言ってしまったのだ。

 その子はショックを受け、家に帰ってしまった。

 

 私は自分自身何が起こったのかわからなかった。

 形がボロボロだなんて、思っても言うつもりはなかった!

 一生懸命作ってくれたその気持ちが凄く嬉しいと言いたかっただけなのにっ!


 家に帰って両親に泣きついて事情を話すと、あの時と同じ顔をしていった。


「かわいそうに。あなたは悪くない」

 

 幸いなことに、次の日からも友達はいつもと変わらない様子で接してくれた。

 ……2度とクッキーを焼いてくれることはなかったけど。

 

 その日から、私は呪いを意識し始めたのだった。

 そして周囲も少しずつ変わっていく。

 



 子どもは時に残酷だ。

「リルちゃん、私と●●ちゃん、どっちの方がかわいい~?」

 当然そんなこと答えたえたくない。けれど――。


「そんなこと――あなたの方がかわいい!」

「えへっ、だって~●●ちゃんざんね~ん!」

「な、なによリルちゃん酷いっ!」



 ある時は。

「リルちゃん、私と●●ちゃん、どっちの方が好き~?」

「――●●ちゃんだよ」

「ひ、ひどい! リルちゃんなんか嫌い、もう絶交ねっ!」




 そして……。


「リルちゃんだけこっちの果物の方が好きなんだって~」


「リルちゃんだけかくれんぼしたいんだって~」


「リルちゃんだけ〇〇くんかっこよくないって~」


 リルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけ

 リルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけ

 リルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけリルちゃんだけ






「リルちゃんって、空気読めないよね~」

 



 ……こうして私は1人になった。1人でいることを選択した。




 なんでっ! なんで私がこんな呪いなんかっ!

 魔女の呪いって何よっ! ご先祖様が何だっていうのよ!

 私は関係ないじゃないっ!


 ふざけるなっ! ふざけるなあっ!


 


 そして数年経ち、成人した私は予定していた通り里を出た。

 1人でも生きていけるように、必死に生活上の知識と技術を学んで。

 旧友が楽しそうに遊んでるのを眺めながら狩りや魔法の練習をしてきた。

 

 里を出るとき、両親が見送ってくれた。あの時と同じ顔だ。

 友達も1人だけ、クッキーを焼いてくれた子が見送ってくれた。


 ありがとう、さようなら。ごめんね。


 呪いをかけた魔女、きっとあんたの目論見通りの結果だよ。

 よかったね。


 人は嘘をつく。それは悪いことばかりじゃない。

 つい心に沸いてしまう悪戯心もあるだろう。

 本音を隠して相手を気遣うことも時には必要だと思う。


 それを隠せなくなった私はかわいそうだ。


 


 それでも、それでも。

 私は両親に――――。



 それからの私は、里から離れた場所で生活を始めた。

 家を建て、狩りをしたり野菜を育てる。

 歩いて数日の所に他種族の村があったので、たまに素材や珍しい植物などを売却する。

 そのお金で本を購入して読み耽る。


 そんな毎日だ。


 他人と関わるのは怖いので、村人との会話も最低限、姿も隠す。

 



 親しくなってもまた傷つけるかもしれない。

 また不本意な言葉を言ってしまうかも知れない。


 もう誰にも嫌われたくない。誰も傷つけたくないの。

 ……私はすっと1人の方がいいんだ。

 ……誰も私となんか……。


 そうして80年、私は孤独に生きてきたのだった。

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